第92話 「重病」

 

 マリンたちと壮絶な再会を果たした後。

 とりあえず状況を整理するために、僕たちは腰を落ち着けて話をすることにした。

 話をするだけでこの複雑な状況を理解できるとはとても思えなかったけれど、今はそうする以外に手がない。

 それに、治療院の始業までまだしばらくあるので、その間にわかるところまでは把握しておいた方がいいだろう。

 というわけで、目を覚ましたプランも交えて、僕たちは応接間の椅子に着席した。

 四脚の椅子を二組に分け、ローテーブルを間に挟んで並べている。

 そのためマリンとテレア、僕とプランという形で席を埋めることになる。

 そして、マリンの膝上には子猫がちょこんと乗り、テレアの膝上に子犬がどんと寝そべっている。

 さらにプランの膝上にも同じようにして、ヒルドラが丸くなっていた。

 まるでペット同伴可能なカフェのような雰囲気だ。

 真剣な空気感が台無しである。

 おまけに、それに輪を掛けるかのようにして、お茶を運んできたアメリアが「よいしょ」と言って僕の膝に座った。


「……何してんのお前?」


「いや、人間の間では、真剣な話をする時に膝の上に愛らしい小動物を乗せる決まりなのかと思ってな。ほら、ノンの膝だけ何もなかったし」


「いやいや、別に膝に座る必要はない。ていうか話しづらいから降りなさい」


 アメリアは「チッ」と舌を打って膝の上から降りた。

 こんな一大事にいったい何を考えているのだこいつは。

 しかも遠回しに自分のことを愛らしい小動物と言ってるし、なんでこいつだけこんなに余裕があるんだろう?

 まあそれはいい。

 アメリアのためにもう一脚の椅子を用意した後、改めて話を開始することにした。


「んで、そこにいるワンちゃんとニャンちゃんがルベラとシーラっていうのは、いったいどういうことなんだ?」


 子犬と子猫を指で示しながら問いかける。

 するとマリンは、依然として複雑そうな表情をしながら答えた。 


「言ったままの意味よ。ここにいる子犬と子猫が、ルベラとシーラなの」


「……いやだから、それだけじゃ全然説明になってないって。なんで二人はこんな姿になってるんだよ? ていうか、本当にこれがあのルベラとシーラか? にわかには信じられないんだけど。もしかして僕のことをからかいに来たってわけじゃ……」


 いや、そうとしか考えられない。

 だってあの麗しい美女二人が、こんな毛むくじゃらな小動物に変身しているなんて冗談にしか思えないからだ。

 だと思って訝しい目で、マリンの膝上の金猫をじっと観察する。

 すると猫は、露骨に嫌そうに身をよじった。

 なんだかこの反応、どこかで見たことあるような……?

 と記憶をくすぐられたので、より近くで金猫を観察しようとすると……


「シャアッ!」


「いたっ!」


 金色のニャンちゃんに顔を引っ掻かれた。

 まったく容赦のない、爪を立てた一撃。

 次いで金猫は「近づくんじゃニャい」と言うように、右手の爪を振り上げながらこちらを威嚇してきた。

 この何とも言えない拒絶心と威圧感。

 あぁ、間違いない。

 

「……このニャンちゃん、絶対にシーラだ」


 僕は引っ掻かれた頰にヒールを掛けながら、呆れた声音で呟いた。

 この猫、男性恐怖症のシーラの特徴を見事になぞっている。

 今の拒絶心と威圧感は、勇者パーティー時代に味わったものにかなり酷似していて、もはや懐かしさすら感じるほどだ。

 どうやらマリンの言っていることは事実らしい。


「ってことは、そこにいる赤色のワンちゃんが、もしかしてルベラか?」


「えぇそうよ」


 頷いたマリンを見て、僕はますます疑問符を浮かべた。

 いったい何なのだろうこの状態は?

 ルベラとシーラが犬と猫になっている。

 毒や呪いの影響か? いや、そんな特殊な作用のものは聞いたことがない。

 試しに犬ルベラに触れて心身状態を『診察』させてもらうけれど、やはりこれといった異常は見つからなかった。

 天職も魔法もそのまま。たぶん力を使うことはできないんだろうけど、心身状態の上ではきちんと天職が宿っていることになっている。

 ふむ……


「とりあえず、この犬と猫がルベラとシーラっていうのは理解したよ。でも、どうやったらこんな無茶苦茶な状態になるんだ?」


 改めて事情を尋ねてみる。

 するとマリンは、今一度状況の整理をするためか、こちらの認識を確かめてきた。


「私たちは次世代の魔王誕生を阻止するために、魔族討伐の旅をしていたわ。それは知ってるわよね?」


「うん、お前から直接聞かされたからな」


「でね、その旅をしてる時に、一人の変な魔族に会ったのよ」


 変な魔族?

 どこかで聞いたフレーズだと思っていると、マリンは悔しそうに顔をしかめながらさらに続けた。


「その変な魔族と戦いになって、そいつが変な魔法を使ってきたの。それを浴びたルベラとシーラは、こんな風に姿を変えられたわ」


「変えられた? 人間から動物に?」


「見たことも聞いたこともない魔法だったわ。対処方法もわからないし、二人がこんな姿に変えられたから、その場は逃げるしかなかったの」


 マリンは膝上の『猫シーラ』に目を落とし、悔やむように歯を食いしばった。

 こいつがこんな顔するなんて珍しいな。

 相当悔しい思いをしたに違いない。

 まあ、それもそのはずか。魔王討伐を果たして世界を救ったあの勇者様が、為す術もなく逃げ出すしかなかったのだから。

 にしても、結果的に勇者パーティーを圧倒して迎撃してみせた魔族とは、いったいどんな奴なのだろうか?

 かなりの手練れであることに間違いはないだろうけど、そんな魔族が頭角をあらわさずにずっと潜んでいたなんて、容易には信じられない。

 アメリアが怪訝そうな顔をしているところを見ると、魔王軍にそのような魔族がいた覚えもないみたいだし。

 いや、それよりも、マリンの言った“変な魔法”のことだが。

 マリンは見たことも聞いたこともない魔法を使われたと言ったけれど……

 僕にはたった一つだけ、思い当たる魔法がある。

 否、遅まきながら思い出したのだ。

 こんなふざけた状況を作り出せてしまう、とんでもない魔法の存在を。


「……トランス」


 温泉街で僕の懐から財布をスった盗人少女リック。

 彼女のお母さんも魔法の力によって、姿形を変えさせられていた。

 それもあろうことか、人間から魔物に。

 その恐ろしい事象を引き起こした魔法の名こそ――『トランス』だ。

 確か、使用者のイメージによって、対象者を任意の姿に変身させる魔法だったかな。

 だとしたら、その『トランス』を使って人間を小動物に変えることも充分に可能なはず。

 もしかしたらその魔族も、事件の首謀者にトランスの杖をもらったか、もしくはそいつ自身が変な魔族本人か。

 どちらにしても、再び例の“変な魔族”が事件に関係していると見て間違いないみたいだな。

 なんだかどんどんと手を広げているように見える。

 お姫様の老化事件しかり、田舎村の記憶喪失事件しかり。

 ともあれ……


「じゃあマリンは、こうなっちゃった二人を元の姿に戻してほしくて、この治療院まで来たってことでいいか? もしそうだとしたら、ぶっちゃけテレアに治してもらった方が断然手っ取り早いだろ? なんでわざわざうちの治療院まで来て、僕に治療の依頼をしようとしてるんだ?」


 その疑問だけがどうしても拭い切れなかった。

 なんで同じパーティーで回復役を務めているテレアにお願いせず、わざわざ僕のところまでやってきたのだろうか?

 僕の治癒能力なんてたかが知れているし。

 何よりその治癒能力の低さが原因で、僕は勇者パーティーを追い出された経験があるんだぞ。

 それはこいつが一番よくわかっているはず。

 なのにどうして……


「正確に言うと、ちょっとだけ違うわ。治してほしいのはこの二人じゃなくて、その……」


「……?」


 不意にマリンが、チラリと隣を一瞥する。

 正確には、先ほどから何も喋らずに、真横の椅子に腰掛けて僕たちの会話をじっと見守っている、“テレア”のことを。


「えっ? テレア?」


「……」


 僕は思わず目を丸くした。

 治してほしいのはルベラとシーラじゃなくて、聖女テレア?

 どう考えても重傷なのは、犬と猫に変身させられたルベラとシーラの方だろ。

 誰がどう見ても、最優先で治療すべき対象はこの二人じゃないか。

 むしろテレアは……


「別に、どこも悪いようには見えないんだけど」


 じーっとテレアを観察してみるけれど、目立った傷は無し。

 何か重い病気を患っている様子も無いし、普通に健康そうに見えるんだけど?

 と思ってテーブル越しに訝しい目を向けていると、ふとテレアが気まずそうに顔を伏せてしまった。

 なんか、露骨に視線を避けられたように感じる。

 それってどういう反応なの?


「ちょ、見過ぎよあんた! テレアが嫌がってるでしょ!」


「いやだって、どこを治してほしいのか全然わからなかったからさ。別にどこも怪我してなくない?」


 いったい僕にどこを治してほしいというのだろうか?

 なんて疑問に思って、眉をきつく寄せていると、マリンが再び言いづらそうな様子で答えた。


「見ただけじゃ何もわからないわよ。そうじゃなくて、その、テレアの内面というか、内側というか……」


「……??」


 なんだか煮え切らない言い方をする。

 もっとはっきりしてほしい。

 と思って疑問符を浮かべていると、突如としてマリンが青髪をくしゃくしゃと掻きながら怒声を上げた。


「あぁもう! まどろっこしい! もう単刀直入に言うわよ!」


 初めからそうしてほしい。

 なんて皮肉を返そうとしたのだが、それより先にマリンが、衝撃的な告白をしてきた。


「テレアから、『聖女』の天職が消えたのよ!」


「……はっ?」


 僕は思わず口をあんぐりと開けてしまう。

 これまた、どこかで聞いたことのあるフレーズだ。

 そう、前に勇者パーティーがここに来た時と、まったく同じ。

 自然とシーラの台詞が脳裏をよぎる。

 

『マリンから、『勇者』の天職が消えてしまったの!』


 まるでその時の再現だと、僕はどっとした倦怠感を覚えながら思ったのだった。

 そしてつい、以前と同じように聞き返してしまう。


「『聖女』の天職が消えた? って、どういうこと?」


 マリンから『勇者』の天職が消えた時も、初めはまるで信じられなかった。

 天職が消えるなんて症状は、見たことも聞いたこともなかったから。

 だから今みたいな感じで尋ねたところ、シーラが丁寧に事情を説明をしてくれたのだが……

 今回の説明役は残念ながらマリン。当然返答はシンプルで短いものだった。


「言ったままの意味よ」


「……」


 それだけじゃ説明になっていない。

 仕方がないと思った僕は、一言断りを入れてテレアの右手をとった。


「ちょ、ちょっと失礼」


 結構体温高いんだな、なんて益体もないことを思いながら『診察』のスキルを発動。

 すると僕の脳内に、テレアの心身状態の情報が流れ込んできた。


【天 職】

【レベル】

【スキル】

【魔 法】


【生命力】100/100

【状 態】


 天職がない。

 言ったままの通りみたいだな。

 本当にテレアから、『聖女』の天職が失われている。

 あの噂に高い、『奇跡』とも評されるような超越した回復魔法も、聖女だけに許されている特別な高位スキルも、今や影も形もない。

 改めてその確認が取れたので、僕は辟易したようにため息まじりに呟いた。


「どうして勇者パーティーの人たちは、こう無職になるのが好きなんだよ」


「『特異職』なんだから仕方がないじゃない! こっちだって好きで無職になったわけじゃないわよ!」


 そういえば聖女も特異職でしたね。

 もう何度も言っていることだけれど、天職の中には『特異職』と呼ばれる特別な天職が存在する。

 世界でたった一つと言われている天職で、それには『勇者』や『聖女』が含まれる。

 となれば勇者のマリンと同様、聖女のテレアも同じように天職を失う可能性は少なからずあったのだ。

 そして特異職の人間が天職を失う原因は、その天職らしからぬ言動や行動をとってしまったから。

 そこまでわかれば、もう充分だ。


「まあ、なんとなく話は見えてきたよ。前のマリンと同じようにテレアの天職が消えたから、その原因を探って聖女の天職を取り戻してほしいってことだろ? そうすればルベラとシーラも元の姿に治すことができるからな。あとついでに、変な魔族にもリベンジできる」


「えぇ、その通りよ」


 マリンはやはり悔しそうな表情で、重々しく頷いた。

 ルベラとシーラを治すためには、テレアの力が不可欠だ。

 おそらく他の治癒師ではこの状態を治療するのは不可能だろう。

 変な魔族が関与している事件に、何度も衝突した僕だからこそそれは断言できる。

 だからその解決のために、聖女の天職を取り戻したいというのも納得した。

 そして変な魔族にもリベンジするために。


「……ってことは、その変な魔族と戦ってる時にはもう、聖女の天職がなかったって認識でいいか? もし聖女の回復魔法が使えたなら、ルベラもシーラもこんな状態になってないだろうからな。てか、よくその状態で魔族と戦おうと思ったな」


「戦ってる時に気付いたんだからしょうがないじゃない。テレアの天職がないってわかってたら、私だって魔族と戦おうなんて思わないわよ」


 まあ、それもそっか。

 さすがにあのマリンでも、回復役がいない状況で魔族との戦闘に打って出るはずもない。

 戦っている最中に気付いたのなら、あの偉大な勇者パーティー様がノコノコと尻尾を巻いて逃げ出したのも納得できる。

 その時点で何も言わないテレアもテレアだけど。

 しかしかといって、テレアを一方的に責めることもできない。以前同じように勇者の天職を失って、皆に迷惑を掛けたマリンには咎める筋合いはないからだ。

 こいつが悔しそうにしながら、なんだか言いようのない表情をしているのはそれが理由か。

 そこまで理解した僕は、だからこそ疑問に思うことが一つだけあった。


「聖女の天職を取り戻さなきゃいけないのはわかったよ。確かに一大事みたいだな。でもさ、どうしてそれで僕の力が必要なんだ? 前はマリンと幼馴染ってことで、何か変わったことがないか診てやることはできたけど、テレアに関しては僕、さっぱりわからないぞ」


 僕はお手上げと言わんばかりに、これ見よがしに肩をすくめてみせた。

 僕とマリンは幼馴染。

 だからマリンが勇者の天職を失った原因――勇者らしからぬことをしたんじゃないか、その心当たりを助言してやることはできた。

 結果的にこいつは、魔王軍の四天王が可愛すぎて、もう戦いたくないと思って勇者の天職を失っていた。

 昔からマリンのことを見ていた僕だから、その可能性に気付くことはできたけれど、テレアに関してはむしろマリンたちの方が長く付き合っている。

 僕なんかが出張ってもろくな助言ができないだろう。

 それでどうしてこいつらは僕の治療院までやってきたのだろうか?


 ただまあ、一つだけ断言できることはある。

 テレアも聖女らしからぬことをして、聖女の天職を失ってしまったということだ。

 聖女に相応しくないこと。聖女っぽくない行為。

 それっていったいどういうものなんだろう? と首を捻っていると、同じ考えに至ったらしいアメリアが、何かに気付いたような声を上げた。


「聖女らしからぬこと、聖女らしからぬこと……あっ、もしかして」


「んっ? 何かわかったのかアメリア?」


 期待を寄せてアメリアを見る。

 すると彼女は、なぜか僕の耳元に顔を寄せて言ってきた。


「何かエロいことでもしたのではないか?」


「……お前に期待した僕がバカだったよ」


 このエロ魔族が。

 こいつがサキュバスだってことすっかり忘れてた。

 テレアに気を遣って声を抑えたのは感心だけど、もっとマシな意見を頂戴したい。

 呆れて言葉も出せずにいると、僕のその様子を見たアメリアがムッとした表情で返してきた。


「だがしかし、聖女らしからぬことと言えばそれくらいしか思い付かないだろう? どんな人間にも慈愛を持って接し、痛みや悩みを取り去る清らかな職業なのだからな。まさに我々サキュバスとは対極の存在だと言える」


「だからって考えが短絡的すぎだ。もうちょっと真剣に考えてくれよ」


 これは下手したら、世界滅亡の危機に直結した問題かもしれないんだし。

 テレアの聖女の天職が戻らなければ、ルベラとシーラはおろか、他の被害者たちも治療できないままになってしまう。

 もしその変な魔族がさらに活動の手を広げて、より多くの人間たちを治療不可能な状態にしてしまったら、それこそ世界的に大混乱が発生してしまうのだ。

 いち早くテレアの天職を取り戻し、治療手段を確保しておかないとマズい。

 そう思って必死に頭を回し、聖女の天職を失った原因を考えていると……

 不意にマリンが、どことなく申し訳なさそうな様子で口を開いた。


「そ、その……原因はもうわかってるのよ」


「はっ?」


 僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 原因はもうわかってる?

 テレアがなぜ聖女の天職を失ってしまったのか、その理由はすでに判明しているってことか?


「なんだそうなのか。それならそうと早く言ってくれよな。ていうか、その原因がわかってるならなんでわざわざノンプラン治療院まで来たんだよ? 自分たちで解決すればいいじゃないか」


 ただでさえここは町から離れた辺境の田舎村なんだぞ。

 どうしてわざわざ時間を掛けてまで、この治療院までやってきたのだろうか?

 当然の疑問を口にすると、マリンが再び煮えない言い方で答えてきた。


「だから、その原因に“あんた”が関わってるから、仕方なくここに来るしかなかったのよ」


「……??」


 ますます意味がわからなかった。

 聖女の天職を失ったことに、僕が関係している?

 それって遠回しに、僕が原因って言ってるようなもんじゃないか?

 “聖女の天職”と“僕”に、いったい何の関係があるんだろう?

 僕がテレアに何かをした覚えはない。

 何より……


「……僕に天職を消すような力はないんだけど」


「そ、そういう意味じゃないわよ。そうじゃなくて、その、あんたのせいというか、なんというか……」

 

 マリンは複雑そうな表情で言い淀む。

 どう言ったらいいのかわからない、という感じではなく、まるでその言葉を口にしたくないという顔。

 言ってしまったらその事実を認めることになってしまう。だから何も言いたくない、というように僕には見えた。

 こいつはいったい何を隠しているのだ?

 そろそろ焦れったいと思った僕は、口ごもるマリンに睨みを利かせた。


「んだよ、早く言えよ。お前らしくもない。なんでそんなに言いづらそうに……」


 と、言いかけた僕の台詞を――

 マリンの怒声が、遮った。


 


「だから! テレアがあんたのことを好きになっちゃったのよ!!!」




 …………えっ?

 何を言われたのか、すぐに理解することができなかった。

 激しい動揺が頭を揺さぶってきて、思い掛けず凍りついてしまう。

 そして、呆然としながら傍らのテレアに視線を移すと、そこには相変わらず無表情の少女が……


「……」


 否、ほのかに頰を赤らめた元聖女が、僅かに顔を伏せて椅子に座っていた。

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