第38話 「依頼の手伝い」
三人の女性冒険者にスカウトされた僕は、詳しい話を聞くことにした。
まずは一度腰を落ち着けて、自己紹介をすることにする。
「僕の名前はノンです。ここから離れた田舎村で治療院を開いています。後ろの二人はアルバイトのプランとアメリアです」
それに合わせてアメリアはぺこりと頭を下げた。
プランはいまだに落ち込んだ様子で肩を落としているが、今は放っておくことにする。
すると三人の女性冒険者は、僕に倣って自己紹介を返してくれた。
「私の名前はナンザです。後ろの二人はジェムとツボミで、私がリーダーをやっているパーティーのメンバーなんです」
「どもどもぉ~、私がジェムで、隣のぼぉ~っとしてるのがツボミで~す」
「……」
性格のわかりやすい紹介をしてくれる。
最初に話しかけてくれた水色髪の少女がナンザで、赤茶髪の活発少女がジェム。明後日の方角を呆然と見つめている緑髪の少女がツボミと言うらしい。
手短に簡単な挨拶を済ませると、さっそく本題について切り込んでみた。
「それで、手を貸してほしいというのはどういうことなんでしょうか? 確か、回復役の力がどうしても必要って言ってましたよね?」
爽やかな笑みを崩さず少女たちに問うと、ナンザが少し申し訳なさそうにして話し始めた。
「先ほど言った通り、私たちはまだ新人の冒険者で、仲間もまだこの二人だけなんです。冒険者試験に合格したのもつい最近ですし、依頼もほとんど受けたことがありません。今はこの街でバイトをしながら、細々と冒険者活動をしています」
「へ、へぇ、そうなんですか」
彼女たちの生い立ちを聞いてこくこくと頷く。
そういう子たちもいるんだな。
冒険者の実情についてはあまり詳しくなかったので、なかなかに興味深い話だ。
人知れず感心の思いを抱いていると、ナンザが話を続けた。
「まだまだ実力不足なのは承知していて、できそうな依頼を慎重に選んで活動をしているのですが、ついこの間受けた依頼が想像以上に難しくて、回復役が必須なのも受けた後に知りました」
「はぁ、なるほど」
「依頼をキャンセルすればそれで終わることもできるんですが、その場合は罰金と少なからずのペナルティを科せられてしまうので、どうにか避けたいと思っているんです。新人冒険者の私たちが背負うにはなかなか重たいペナルティなので」
以上の話を聞き、僕は密かに得心した。
大まかな話は見えてきたな。
受けた依頼が思いのほか難しくて、回復役の手が必要になった。
そこでギルドで治癒活動をしている僕を見つけて、声を掛けてきたというわけだ。
依頼のキャンセルがどれほどのペナルティになるのかは定かではないが、新人の冒険者にとってはどんな罰でも重たいのだろう。
そこまで理解した僕は、その依頼についての詳細を聞くことにした。
「ちなみにどんな依頼を受けたんですか?」
「この街の北部に広がっている森の中で、薬草を採ってくるというものです。その森にしかないとされている薬草で、それで作った栄養剤は街の名産品として有名なんですよ」
「……聞いた限りだとあまり難しそうな依頼ではないように思えるんですが」
首を傾げながら問うと、ナンザは同意するように頷いた。
「はい。私たちも最初は薬草を採ってくるだけの依頼なので、簡単かなって思ったんですけど、森の中には”毒”を撒いてくる魔物がたくさんいて、私たちだけではどうにもなりませんでした。それを突破できなければ満足に薬草を探すこともできないので、手も足も出なくて……」
「毒を撒いてくる魔物ですか……」
それは確かに厄介だな。
新人の冒険者では対処が難しいかもしれない。
おまけに彼女たちのパーティーには回復役がいないので、なおのことこの依頼は厳しいだろうな。
人知れず納得していると、不意にナンザが暗い表情になり、懺悔をするように言い始めた。
「依頼について事前に調べておけば、こんなことにはならなかったのですが、私たちが確認を怠ったばかりにギルドにも迷惑を掛けてしまいました。これは完全に私たちが悪いので、潔く依頼を断るのが一番いいと思ったんですけど……」
「……けど?」
「少し悔しい気持ちもあって、期限ぎりぎりの今日まで引きずってしまいました。そんな時にちょうどギルドで治癒活動をしているノンさんを見つけて、思い切って声を掛けさせていただきました」
次いで彼女は深く頭を下げて続けた。
「依頼を手伝っていただけたら、報酬金は全額ノンさんにお渡ししたいと思います。もちろん無理強いすることはできませんので、嫌だったら断っていただいても……」
腰の低い懇願をされて、逆にこちらもへりくだった返しをしてしまう。
「あっ、いえいえ、僕たちもお客さんが来なくてお金に困っていたので、声を掛けていただいてとても嬉しいです。報酬金に関しては人数分を山分けするって形で構いませんので、僕でよければ是非お手伝いさせてください」
「……」
そう言うと、ナンザはしばし呆然とこちらを見つめてきた。
おそらく断られる覚悟をしていた弾みのせいだろう。
やがて承諾してもらったのだと理解すると、彼女は遅れてぺこりと頭を下げた。
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
「よかったなナンザ! これで依頼をキャンセルしないで済むぞ!」
「うん、そうね」
依頼のペナルティが相当怖かったのだろうか。
ナンザたちは心底嬉しそうに安堵していた。
正直安心しているのはこちらの方なのだが、顔には出さずに留めておく。
そして冷静な態度をそのままに席を立ち上がった。
「じゃあさっそくその森に行って、薬草を採ってきましょう。期限が今日までなら、もうあまり時間もありませんし」
「は、はい、そうですね。よろしくお願いいたします」
僕は再びこくりと頷き返した。
とりあえずこれで金の当てができあがったな。
早急にまとまった金を手に入れられそうで安心だ。
新人冒険者の彼女たちも困っているみたいだし、お互いにいい協力関係を結べればいいと思う。
というわけで僕は急遽、ナンザたちのパーティーに臨時の回復役として加入することになり、薬草採取の依頼について行くことになった。
「ま、そういうわけだから二人とも、僕が依頼の手伝いに行ってる間は、宿で大人しく待っててくれ。なるべく早く帰ってくるからさ」
プランとアメリアにそう言う。
するとアメリアは納得したようにこくりと頷いてくれた。
で、プランはどうだろうか?
先ほどからなんか心ここにあらずという様子だけど、ちゃんと今の会話を聞いていたかな?
と思って彼女の方を振り返ろうとすると、突然服の袖を誰かに掴まれた。
びっくりしながらそちらを見ると、驚くことにプランが立っていた。
「……な、なんだよプラン?」
「あっ、いえ、その……」
問いかけると、彼女は曇った顔を下に向けてしまう。
声を掛けるよりも先に服の袖を掴まれて、かなり驚いてしまった。
というかこいつ、正気に戻ったみたいだな。
なんだか浮かない顔をしているけれど、それが正気に戻った何よりの証拠でもある。
何が引き金で戻ったかは定かではないけれど。
なんて思っていると、不意にプランは晴れない顔を上げて、ぎこちなく問いかけてきた。
「ノ、ノンさん、ちゃんと帰ってきてくれますッスよね?」
「はっ? 何言ってんだよお前? 帰るに決まってるだろ。なんだその質問?」
「で、ですよね。それなら別にいいッス……」
「……?」
どういう意味の問いだろうか?
何か心配事でもあるみたいな様子だ。
その真意については窺い知れなかったが、とりあえずアメリアと一緒に宿部屋で待ってもらえることになった。
二人を宿に待機させつつ、僕は臨時の回復役として、冒険者パーティーのお手伝いをすることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます