最終章
第78話 「囚われの姫」
テレアが攫われた。
魔王襲来からおよそ一時間経った今。
僕とプランとアメリアは、それぞれ複雑な思いを抱き、治療院があった場所に集まっていた。
各自ボロボロになったソファや椅子に腰掛けている。
壁がないので肌寒い。それになんか恥ずかしい。
ノホホ村の人たちは先ほどの騒ぎには気が付いていないみたいで、今のところここに駆けつけてくる様子はないけど。
いつお客さんがやってくるかわからない。空の変化にはさすがに気づいているだろうし、心配になって見に来る人もいるかも。
ちなみに意識を失っている勇者パーティーの三人組はというと、僕たちで協力してここまで運んできた。
今は汚れたベッドに仲良くぎゅうぎゅう詰めにしているが、後で文句を言われるんじゃないかと不安である。
など色々な懸念が残る中で、僕は改まって口を開いた。
「さてと、これからどうするか……」
魔王のこと、テレアのこと、治療院のこと。
正直、何から手を付けたら良いのやら、半分混乱している状態である。
勇者は寝てるし、その仲間たちは呪いで昏睡しているし。
本当に僕らにできることなんてあるのだろうか?
「……もう、アタシたちの手に負える事態じゃなくなってると思うんスけど」
「……」
まるで僕の心中を覗いたようにプランが言う。
実質これは、勇者パーティーの壊滅を意味しているからな。
大した力も持っていない僕たちには荷が重すぎる事案だ。
しかし……
「じゃあどうするんだ? 町にいる冒険者にでも助けを求めるか? 言っとくけど魔王は、剣聖と賢者を一撃で倒す化物なんだぞ。そんな危ない奴と戦ってくれなんて気安く頼めないだろ」
「で、ですが、このままアタシたちだけで立ち向かうのも相当無謀なことッスよ。これまで魔王軍の四天王を何人か相手にしてきたッスけど、それでもアタシらだって一般人なことに変わりはないんス。だからいったんここは、大人しくしておいた方が……」
「いやいや、そういうわけにもいかないだろ」
僕は眉を寄せてかぶりを振る。
プランの意見もわからないことはないけど。
ていうかむしろ、大人しくしておく方が正解なのだろうが。
どうしても魔王を放ってはおけない事情があるのだ。
「テレアが攫われてるんだ。一刻も早く魔王城に突入して、助け出さないとマズイだろ。何をされるかわかったもんじゃないし。だから僕たちは時間が惜しいし、悠長に仲間探ししてる場合でもないんだ。……何より僕は、治療院を壊された恨みをまだ晴らしてない。絶対に一発ぶん殴ってやる」
「……結局それッスか」
プランの呆れた視線が飛んでくる。
だってそれは仕方がないことじゃん。
僕にとっては今までで一番、腹が立ったことなんだし。
テレア救出や魔王討伐よりも、僕としては治療院の仇を取る方が優先だ。
今一度目的の確認を済ませると、不意にアメリアが聞いてきた。
「魔王をぶっ飛ばすために魔王城に行くのはいいが、そもそもどうやって行くつもりなのだ? 飛竜の力を借りなくては到底たどり着けないだろう」
ふと天井のない空を見上げる。
魔王城が構えられているプカプカ大陸は、遥か上空に浮かんでいるとされている。
ゆえに飛竜の力なくしては行けない場所で、僕らにはその手段がない。
……と、アメリアは懸念しているらしいが、僕はポケットに入れていたものを取り出し、得意げに答えてみせた。
「これを使う」
「んっ? それは……?」
「パスさんが持ってたチョークだ。ここに二本だけ落ちてた。ここから逃げる時に落としたのか、はたまたこの事態を想定して意図的に残してくれたのかは定かじゃないけど、とりあえずこれを使えば魔王城に行けるんじゃないのか?」
前は結界が張ってあるから無理だって話だったけど、今はそれがないし。
ということを伝えると、アメリアは納得したように頷いた。
あっ、でもこれ、目的地を頭に思い浮かべながら使わないといけないんだよな。
僕は魔王城に行ったことがないし、どうしよう……
「……ち、ちなみにアメリア、魔王城に行ったことは?」
「んっ、そりゃまあ、ミーティングとかで」
「……なんのミーティングだよ」
まあとりあえず、行ったことはあるらしい。
となれば、移動の問題はこれで解決だな。
転移門はアメリアに開いてもらうとして、残る問題は……
「さてとそれじゃあ、どうやって魔王を倒すか考えないとな」
魔王戦における戦力について。
こればっかりはすぐに答えが出せるものではない。
考えたところで良い案が出るとも思えないが、無謀な特攻をする前に簡単な作戦くらいは用意しておきたいものだ。
誰か良い作戦を思いついたひと~? と目を配っていくが、二人はふるふるとかぶりを振る。
そりゃそうだよな。
いっそ四天王のあの二人を魔王戦に誘ってみるか?
それならリリウムガーデンも下手にこちらを攻撃できないし、四天王ならばその力に疑いもない。
もし協力してもらえれば、とても心強いのだが。
あっ、いやでも、逆に説得されてしまう危険性もあるのか。
それに仲間内で争わせるのも心苦しいし、何よりまた魔大陸に行っている暇なんてないぞ。
自分の提案に自分で首を横に振る。
ホント、どうしたものやら。
誰も良いアイデアを出すことができず、暗い空気が流れていると……
「むにゃ……」
不意に部屋の隅で声がした。
一斉に視線を向けると、そこにはベッドの上でむくりと体を起こしたマリンがいた。
「ふわぁぁぁ、よく寝たぁぁぁぁぁ」
ぐっと背中を伸ばして大あくびをかましている。
次いでボサッとした青髪を気だるそうに手櫛で解き始めると、僕たちの視線が気になったのか、ふと手を止めてこちらを向いた。
寝起きのマリンと目があった僕は、心底呆れた顔で言う。
「ようやく起きたかクソマリン」
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