第71話 「鍛え方」
砂騎士たちとの戦いの後。
僕たちは南の四天王探しを再開させていた。
再び広大な砂漠を、額に汗を滲ませながら歩いていく。
その最中、不意にアメリアがしてきた先ほどの問いについて、僕は今一度聞き返すことにした。
「どうやって僕がレベルを上昇させたか、だっけか?」
「うむ、その通りだ」
アメリアは相変わらず、幼げなその姿に似合わないお堅い返事をする。
次いでふむと顎に手を当ててさらに続けた。
「お前たち人間は、生まれながらにして種族が定められている私たち魔族と違って、神から『天職』と呼ばれる不思議な力を授かるのだろう? 魔族の場合は別種の魔族を倒すか、人間を手に掛けることによって魔力が上昇するのだが、人間の方……強いては直接的に戦闘に加わらない治癒師などはどのようにしてレベルを上げているのか、多少気になってな」
……なるほど。
魔族のアメリアとしては、人間の天職の仕組みに疑問があるのは当然だ。
先ほどの戦いを見てますますその疑問に拍車が掛かったのだろう。
まあ、僕たち人間も天職についてはそこまで詳しいわけではないが、それでも答えられるだけのことは答えてあげようかな。
と思って口を開きかけるが、それより先にプランが僕に尋ねてきた。
「確かノンさんのレベルって、中級職のレベル
「そうそう……って、なんでお前が知ってんだよ」
「い、いえその、この前『観察』スキルでちょっと……」
と言われ、僕は遅れて思い出す。
そういえば僕、こいつにステータスを盗み見られていたのだった。
その時にレベルも確認されたのだろう。
そうとわかって蔑むような目をプランに向けると、奴は『てへっ☆』と舌を見せて笑みを浮かべた。
……張り倒してぇ。けれど今回だけは勘弁しておき、僕はアメリアの問いに答えてやることにする。
「天職のレベルを上げるには、大きく分けて二通りのやり方があるんだ。一つはその職に見合ったことをする。そしてもう一つは魔物を倒す。全職業に共通して言えるのは、明らかに後者の方がレベルを上げやすいってことで、回復職がただ傷の治療をしてるだけじゃ、レベルは上がりづらいんだよ」
「んっ? だがノンのレベルは、すでに上限なんじゃ……」
「うん。だから僕は魔物を倒してレベルを上げたってわけ。最初は仲間の傷を癒やしながら少しずつレベルを上げて、戦いに参加できるくらいになってから魔物を倒し始めたわけだよ。勇者パーティーにいると、嫌でも戦いに巻き込まれることになるし」
「……なるほどな」
そう説明すると、アメリアは理解してくれたようだ。
僕だって最初から魔物と戦えたわけじゃない。
初めはマリンの治療に専念し、危なくなるとすぐに後ろに下がるようにしていた。
やがて素早い回復魔法を応用して敵と戦えるようになってからは、レベルも跳ね上がるように急上昇したものだ。
と、説明を終えたまさにその瞬間、まるでタイミングを見計らったかのように不意に前方の砂がもこもこと蠢き始めた。
思わず僕らは足を止め、異様なその光景に目を奪われる。
しばらくその景色を眺めていると、先刻見たものと同じ砂の甲冑騎士が、目の前に三体も出来上がってしまった。
「「「……」」」
三人して思考を停止させる中、プランが冷や汗を滲ませて言う。
「で、ではその、魔物退治はこれからもノンさんにお任せするってことで……どうぞ」
「お前ちゃんと敵感知しろっつったろバカ野郎! また見つかってんじゃねえか!」
「し、四天王を探しながら敵感知もしろって、それ結構無茶なんスけど……」
弱気な声を漏らすプランは後でちゃんと叱るとして、僕は腰に携えているナイフを抜いた。
同じく砂の甲冑騎士たちも剣を構えて、僕らは戦闘を開始する。
できれば連戦は勘弁してほしいんだけどなぁ。
まあ、今回は事前に弱点がわかっていたので、思った以上に早く決着がついた。
三体の砂騎士たちを無地に屠ると、僕はプランに強く言う。
「次からはしっかり敵感知頼むぞ」
「……ど、努力するッス」
彼女は反省するように弱々しい声を零した。
いくら僕が戦えるといっても、それにだって限度があるからな。
回復魔法を使うための魔力が切れたら、さすがの僕だって戦闘は怖いし。
四天王探しがいつまで続くかもわからない今、ここから先はできれば魔力を温存しておきたいのだ。
だからプランには是非とも頑張ってほしい。
と、プランが努力すると言った傍から……
不意に後方にて、まったく知らない声が上がった。
「いやぁ、あんた強いなぁ……」
「――ッ!?」
驚いた僕は、はっとなって振り返る。
同時にナイフも抜いて、プランとアメリアを庇うように後ろへ下げると、声を上げた人物とばっちり目が合った。
思わず僕はきょとんと目を丸くしてしまう。
そこにいたのは、程よく肌の焼けた褐色少女だった。
服とも呼べないただの布切れを胸と腰に巻いて、灼熱の砂漠をまさかの素足で立っている。
茶色の髪もボサッとしていて、見るからに不自然な様子が漂っていた。
そんな少女を僕の後ろから覗いたアメリアが、気付いたように声を上げた。
「おっ、サンドレアではないか」
「えっ?」
その名前を聞いて、つい僕は眼前の少女を二度見してしまった。
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