第70話 「砂騎士」

 

「ふぅ~……やっぱ戦いは疲れるな」


 僕は敵が倒れている束の間に一息つく。

 すでに戦闘を始めて十分。

 暑くて動きづらいという不利な戦闘環境の中で、なお僕は砂騎士との戦闘を続けていた。

 まだまだ全然戦えるけど、さすがにこの暑さの中で、砂に足を取られながら運動するのは厳しいな。

 すっごい体力持ってかれる。絶対に明日太もも筋肉痛だろ。

 

「それに……」


 やがて倒れていた砂騎士たちがのそりと起き上がってくる。

 するとどういうわけか、腕や足を飛ばしたはずの騎士たちは、その部位を復活させて、何事もなかったかのように再び身構え始めていた。

 トカゲの尻尾かよ。


「……なんで僕の前には、この手の敵ばっか出てくんのかな?」


 ナイフは当たるし、砂の体も斬ることができる。

 でも、さっきからずっとこの調子だ。

 砂漠の砂を素材にしているのだろうか、斬ったそばからすぐに再生してしまう。

 お馴染みの自己再生能力を有している魔物だ。

 なんで僕が戦う相手ってこういう面倒な能力ばかり持っている連中なのだろう? 僕も応急師の素早い回復魔法があるから、人のことは言えないんだけどさ。


「おーい、プラン」 


「土手っ腹に心臓になっている核があるッスよ!」


「りょう……かい!」


 すでに敵の”観察”を終えていたらしいプランが、名前を呼んだだけで敵の弱点を教えてくれた。

 話の早い奴で大いに助かる。

 僕はすかさず短剣を順手に握り直して、砂騎士たちの元に走り出した。

 対して奴らは僕を迎撃するために、剣を持つ手に力を込め始める。

 

 先頭の砂騎士が右下から鋭く剣を斬り上げると、僕はそれを危なげなく回避し、がら空きになった腹を狙ってナイフを突き出した。

 砂の体にずぶりと刀身が埋まる。

 ここまでは先ほどと同じだが、さらに奥までナイフを突き入れると、刃先に何やら硬い物がぶつかった。


「グ……ゴォォォ!」


 瞬間、重苦しい叫びを上げた砂騎士は、バサッと乾いた音を立てて崩れてしまった。

 騎士の残骸が砂地の上で山となる。

 再生はしないようだ。


 プランの見た弱点は正しかったみたいだな。

 さすが『大盗賊』。

 今の刃先に当たった硬い物が、奴らの核のようだ。

 この感じで残りの二体も攻撃すれば、心臓を破壊できて再生を阻止できるわけか。

 改めてそうとわかった僕は、ぎゅっと力強くナイフを握り直して走り出す。


 そして再び数瞬の攻防の末、同じ要領で二体の腹にもナイフを突き入れると、バサッと乾いた音と共に砂山と化した。

 僕は右手に持ったナイフを振り、付着した砂を落とす。

 そしてアルバイトたちが待つ場所へと戻ると、ナイフを腰に収めて息を吐いた。

 これにて戦闘終了。

 あぁ、疲れたぁ……と肩に入った力を抜くように首を鳴らすと、後方で静かにしていたプランが労いの言葉を掛けてくれた。


「お疲れ様ッスノンさん!」


「おぉ、弱点観察助かったわぁ」


「いえいえ」


 そう言い合うと、今度は紫色の短髪幼女が声を掛けてきた。


「遊びの範疇だったとはいえ、サンドレアの作った砂人形をこうもあっさりと片付けるとは……やはりお前は普通の治癒師とはどこか違う気がするな」


「まあそりゃ、しばらく勇者パーティーに入ってたからな。魔大陸を連れ回されてた経験で、治癒師でもそれなりには戦えるようになったよ」


「うむ、どうやらそのようだな。戦闘ご苦労であった」


「なんで上から目線なんだよ」


 呆れた声が漏れてしまう。

 ただ後ろで見ていただけなのに妙に偉そうだな。

 まあ、全盛期のこいつの力に比べれば、僕の戦闘力なんて大したことないからなんだろうが。

 それはいいとして、南の四天王探しを再開させるかと、再び砂地を歩こうとした瞬間……


「そういえば、ノンはどうやってレベルを上昇させたのだ?」


「えっ?」

 

 不意にアメリアからそんな問いかけがあった。

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る