第48話 「治癒活動」

 

 場所を移して、馬車乗り場。

 ノホホ村の北端に設けられているそこには、数台の馬車が止まっている。

 ここは村の正門にあたる場所なので、他所から来た馬車がまとめて止められているのだ。

 その中の一つに僕たちは乗る。

 そしてがらがらとしばらく馬車に揺られた。

 

 目指す先はガヤヤの町。

 目的は出張営業。

 夢はとりあえず小金持ちになることだ。

 



「冒険者ギルドで治癒活動って、ホントに上手くいくんスかね?」

 

 ノホホ村を出て数時間経ったところで、不意にプランが零した。

 僕は目の前に腰掛ける彼女に睨みを利かせながら、ふてくされたように問い返す。

 

「なんだよ? 僕の考えが間抜けだとでも言いたいのか?」

 

「い、いえ、そういうことじゃなくて……」

 

 プランは激しくかぶりを振った。

 そりゃまあ、僕だって不安ではあるよ。

 受け入れてもらえるかわからないし。

 何より僕が言い出したことなんだから。

 

 冒険者ギルドでの治癒活動。

 よく見習いの治癒師が、自分の治療院を持つ前に行う活動として知られている。

 金欠に陥った僕たちは、今回それを参考にさせてもらったのだ。

 これならノホホ村でお客さんを待つよりかは、それなりに稼げるはず。

 別に考えとしては間違ってないよな、なんて思っていると、再びプランが問いかけてきた。

 

「でもノンさん、”勇者パーティーの元回復役”ってことを隠して活動する予定なんスよね?」

 

「うん、そうだけど。それがなに?」

 

「いえ、それだとやっぱり、みんな怪しがって近づいてこないんじゃないかと思って……」

 

「あぁ……」

 

 思わず納得の声を上げてしまう。

 確かに、どこの誰とも知れない治癒師に、自分の怪我を任せるなんてなかなか怖いことだ。

 それが町の人間ならまだしも、僕は田舎村からやってきたよそ者で、そのうえ正体まで隠そうとしているのだから。

 

 それとは反対に、もし僕が勇者パーティーの元回復役――『ゼノン』ということを打ち明けて治癒活動をするなら、まあそれなりにお客さんが入ってくるかもしれない。

 プランはそのことを懸念しているのだ。

 でも僕は、良くも悪くも目立ちたくはないので、絶対に正体は明かさないけど。

 そう決意を改めていると、三度プランの問いが飛んできた。

 

「そもそも、素性の知れないアタシたちにギルドのスペースを貸してもらえるんスか? それすらも難しいような……」

 

「そこはまあ、話のわかる冒険者に頼めばなんとかなるだろ。この前のアメリア事件の時も、素性の知れない僕の話を信じてよくしてもらったし、ギルドで治癒活動をしたいって言えば、隅っこのテーブルくらいは貸してくれんじゃないか?」


「ん~、まあ、それもそうッスね」


 こくこくと納得したように頷いたプランは、次いで二つ目の疑問符を浮かべる。

 

「まあ、ギルドで治癒活動するためのスペースについては、それで構わないッス。けど、いざ活動を始めたら『全然お客さんが来ない!』なんてことになるんじゃないッスか? ガヤヤの町には元々、治療院とか薬屋とかが点在してるッスから」

 

「うん、まあ、それもそうなんだけどな……」

 

 飛び込みで治癒活動をする問題はまだまだある。

 町には元々治療院や薬屋が少なからずあり、知名度的に不利な状態になるのだ。

 当たり前のことだけど、行きつけの治療院がある人はみんなそちらを優先するに決まっている。

 それがわかっていながらも、僕は落ち着いた様子で答えた。

 

「少なくとも、平和なノホホ村でやるよりかは稼げるんじゃないのか? ガヤヤの町の周辺の森とかには、まだそれなりに魔物がいるし、同じように怪我人も多いはずだ。冒険者ギルドで張ってれば、すぐに数人は捕まえられるだろ。それに……」

 

「……?」

 

「うちには新しく、客寄せの看板娘が入っただろ。これでなんとかなるさ」

 

「なんとかって……」

 

 プランの不安は拭えない。

 そんな中、不意に隣から少女の声が上がった。

 

「勝手に期待されている中悪いが、私だってあまり目立ちたくはないのだぞ。せっかく許可までもらって町を出たのに、またノコノコと戻ってきてしまったのだからな」

 

「いやだから、それについては『嫌ならついて来なくていい』って最初に言ったよな」

 

 不安そうにするアメリアに、僕はそう返す。

 アメリアは一度、町の冒険者たちに捕まって、その後許可をもらって町を出てきたので、嫌なら来なくていいと初めに言っておいたのだ。

 それでも彼女自ら、首を横に振った。

 

「金が必要なのは、新しく私がアルバイトとして入ったことも起因しているのだろう? ならば少しくらいの手伝いをするのが当然だ。ただ留守番をしているだけでは手持ち無沙汰だしな」

 

「……そっか」

 

 僕と同じく目立ちたくはない。

 でも治療院のために何かはしたいという思いで、アメリアは手伝いに来てくれたのだ。

 この三人ならまあ、なんとかなるだろ。なんて思いながら、僕は改まった様子で二人に言った。

 

「とりあえず、行ってみるだけ行ってみよう。上手くいくかどうかなんて、今のところわからないし。それにもしダメそうなら、上手くいくよう工夫しよう。二人ともそれでいいな」

 

「は、はいッス」

 

「うむ」

 

 三人で気持ちを改めて、僕らはガヤヤの町へと急いだ。

 目指せ小金持ち。

 明日のご飯を食べるために!

 

 

 

 と、一発逆転を狙ってガヤヤの町に来てみたはいいものの……

 

「な、なんじゃこりゃ……」

 

 到着して早々、僕らは傷を負った大勢の冒険者でごった返すギルドを目の当たりにした。

 

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