第39話 「魅了魔法」
「くっ……! くそっくそっくそっ! ふざけるなふざけるなふざけるな! そこのバカ女のせいで計画がすべて台無しだ!」
「バ、バカ女!? あの子めちゃくちゃ口汚いッスよ!?」
憤慨するアメリアと、その様子に驚くプラン。
二人のその姿を眺めて、僕はこっそりと呆れたため息を漏らした。
なんだよこれ。一生懸命に薬草を取りに来たら、その依頼主の少女が魔王軍の四天王で、僕の治療院のアルバイトが間抜けしたせいであいつを怒らせてって、これもうわけわかんなくなっちゃってるぞ。
「くそっ! こうなったら――!」
「……?」
追い詰められたアメリアが、唐突に身構えた。
両手を胸の前に持っていき、そこでハートの形を作る。
そしてそれを僕に向けて、ぐっと押し出してきた。
「チャーミングチャーム!」
ぽわわんとピンク色の光が瞬く。
すると次の瞬間、不可視の攻撃が僕の体を貫いたように衝撃が走った。
痛みは特にない。
今のは魅了魔法?
別になんともないんだが。
きょとんと首を傾げていると、攻撃に成功したらしいアメリアが、嬉しそうに微笑んだ。
「私の見立てによるとお前は、今のこの姿でも魅了魔法が効く可能性がある。全魔力を込めたチャームならあるいは…………んっ? な、なんだと!? 魅了がまったく効いていない!? お、お前……」
「……?」
「ロ、ロリコンではなかったのか?」
「いやちょっと待て、その見立て甘々すぎるぞ」
どこをどう見てそんな結論に至ったのだろうか?
ロリコンになった覚えなどない。
僕はただ子供が好きなだけだ。
ノホホ村ではよく幼女の傷を癒してはいるが、ただそれだけ。
もしやそれを見ただけで僕をロリコンだと決めつけたのだろうか?
当然僕の心は微動だにせず、心底呆れた顔でアメリアを見ていると、不意にプランが悲し気に言った。
「あの子、本当に魔王軍の四天王なんスか? なんか不憫になるくらいおバカな気がするんスけど」
「まあ、うん、僕もそう思う。ていうかプランも同じくらいのバカやって、それであいつ怒ってるんだけどな」
「バ、バカじゃないッスもん!」
器用さが取り柄のはずの大盗賊様が、薬の材料間違えて入れるとか一世一代の大バカでしょ。
いやまあ、そのおかげで四天王のアメリアをあぶり出せたわけだから、逆に器用と言えば器用なのかもしれないが。
とまあ、もうそんなことはどうでもよくて……
「で、どうするよ西の四天王? 万事休すだぞ」
「ぐ……ぬぬっ……!」
体も元に戻らない。
魅了魔法も通用しない。
周りには仲間はおろか、自分より大きな敵が二人もいる。
ここまでの状況に追い込まれて、アメリアは悔しそうに歯を食いしばった。
そんな中プランは、お粗末なファイティングポーズをとってじりじりとにじり寄っていく。
四天王を捕まえるまで、もう間もなく。
するとアメリアは、崖っぷちに立たされた今、本当の本当に最後の悪足掻きに打って出た。
「だ、誰か助けてーーー!!! ロリコンとバカに誘拐されるーーー!!!」
「プラン確保だ!」
「ラジャーッス!」
僕の掛け声で、プランはアメリアに飛びかかった。
小さな体はいとも簡単にプランに捕縛される。
そしてプランは、いつの間にやら採取していたらしい昏睡毒を含む毒草を使って、アメリアを眠らせた。
一時、シーンとした静寂が洞窟内を包み込む。
こうして僕とプランは、二度目になる四天王との戦いを、何の苦労もなく終結させたのだった。
なんだか達成感というより、虚しさだけが胸に残っている気がする。
だって、あいつが勝手に自白して、僕らに捕まっただけなのだから。
おまけに、僕たちがわざわざこの大陸まで足を運んだ理由が、完全に消滅してしまったのだ。
無駄足を踏むとはまさにこのこと。
胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりながら、僕はふと、瞼を閉じて温かい我が家に思いをはせた。
…………帰ろ。
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