第22話 「窃盗」
三体のアンデッドナイトたちの核。
ネビロが直接握っているはずのそれを、いきなり目の前に持ってこられた。
ゆえに僕はしばし魂が抜けたように呆然としてしまう。
それはネビロも同じだったようで、僕の持っている核を見つめたまま固まっていた。
そんな奴の手には、もう水晶玉が握られていない。
やがて僕は手元に目を落としながら疑問符を浮かべた。
「えっ、何これ? 本物? なんでここに……」
その疑問に対し、プランは得意げに胸を張って答えた。
「ノンさん、もうお忘れッスか? アタシの天職は『大盗賊』ッスよ。その名の通り”盗み”を得意としてる天職ッス。で、盗賊が持つスキルの中には、相手の持ち物をランダムに奪うことができる『窃盗』のスキルがあるッス」
「まさかそれでアンデッドナイトたちの核を盗ったってのか?」
「はいッス! 窃盗のスキルは器用さに応じて奪いたい物が盗れるという仕組みになっているので、アタシに掛かれば百発百中ッスよ!」
プランはビシッと親指を立てて笑った。
僕は思わず目を見開いて、今一度水晶玉に目を落としてしまう。
大盗賊の器用さ、本当に恐るべしだな。
相手の持ち物を狙った通りに盗める技なんて、そんなの反則じゃんか。
戦闘以外にも活用できそうだし。
「あっ、ちなみに、対象者が完全に身につけている衣類や装備は奪えないので、ノンさんの肌着やパンツを盗むことはできないッス。安心してくださいッスね」
「んなこと聞いてねえよ」
むしろお前がそういうことを考えてるってわかって不安になってきたわ。
なんてやり取りをしていると、不意に視界の端にネビロの姿が映った。
奴はいまだにきょとんと目を丸くしていて、核を盗られたという事実に頭が追いついていない。
やがてネビロははっと我に返ると、かなり遅れて叫び声を上げた。
「こ、小僧! 今すぐにそれをかえ……」
いや、返すわけねえだろ。
「そいっ!」
僕は躊躇うことなく三つの水晶玉を地面に叩きつけた。
粉々になった水晶の破片が、目の前でキラキラと舞う。
それに伴ってアンデッドナイトたちの動きがピタリと止まると、体が砂山のように崩れてしまった。
一時の静寂が地下室を包み込む。
その中で僕は前方に視線を向け、呆気にとられるガイコツに笑みを向けた。
「さ~て、あとはお前だけだぞネビロ」
「ぐぬっ、調子に乗るのではない小僧! アンデッドナイトたちを倒したくらいで、勝った気になるのは早いぞ!」
僕は癒しの手を構えて前に出る。
ネビロは先端がドクロ状になっている杖を握って迎撃の構えをとる。
距離はそこまで開いているわけではなかったが、ネビロの反応が素早かったために先に奴に動かれてしまった。
「カースドヘッド!」
瞬間、奴のドクロの杖からガイコツ頭が放たれる。
黒い霧がかかり、ガイコツ頭そのものが意識を持っているかのような動きでこちらに迫ってきた。
あれは奴が得意としている呪術。触れた相手を呪う技だ。
それを見た僕は、足を止めることはせず、また背中を向けることもしなかった。
すかさず右腕を掲げて、その手首を左手でしっかりと持つ。
それによって即席の右腕の盾を作ると、そこにパチンッと呪術を被弾させた。
一瞬、僕の体が呪われる。
「ディスペル!」
素早く解呪魔法を発動させると、左手に薄黒い光が灯った。
事前に右の手首を掴んでいたため、それは即座に効果を発揮してくれる。
奴の呪術を一秒未満で解呪すると、ネビロは顔をしかめた。
「こ、小癪な!」
その隙を突くかのように、僕は右手を前に伸ばす。
死霊術以外は大して能力のないネビロは、その突きを躱すことができなかった。
奴の黒衣に包まれた胸の中心を、右手の平で捉える。
もう逃がさないぞネビロ。
今度こそきっちりと片をつけてやる。
今まで大陸の一つを支配して人々を脅かし、果てはクリウス盗賊団の皆と、ニココ村の人たちまでも呪いで苦しめた。
絶対に許すわけにはいかない。
――だからお前も、同じ苦しみを味わえネビロ!
「ヒール!」
瞬間、ネビロを掴む右手に真っ白な光が宿った。
薄い灯りに照らされるだけだった室内を、色鮮やかに明るくしてくれる。
さらにそれはネビロの体に癒しの力を与えて、奴の中に浸透するように溶け込んだ。
「あっちーーーーーー!!!」
ネビロの叫びが僕らの耳を打つ。
その後奴は胸を押さえながら地面に倒れ込み、しばし熱された鉄の棒を押し当てられているかのように苦しみ続けた。
「あぢぢぢぢっ! 熱い熱い! 何なのじゃこの熱さはーーーーー!!!」
そう叫びながらしばらくのたうち回ると、やがて奴は力なく四肢を投げ出した。
弱体化しているとはいえ、まさかヒール一度でここまでダメージを負ってくれるとは。
まあ、アンデッドナイトたちに比べれば、ネビロはほとんど耐久力のない魔族だからな。
たった一度のヒールだけでも生命力を削るには充分だったのだろう。
奴の命があと少ししかないとわかった僕は、何となしに寄って顔を覗き込んだ。
「最後に何か言い残すこととかあるか?」
特に意味もなくそう問いかける。
するとネビロは疲れ果てた様子でガイコツの顔を向けてきた。
消滅する寸前といった様子だ。
次いでネビロはどこかふてくされたように鼻を鳴らした。
「ふん、もうよいわ。ワシの完敗じゃ。変に言い訳したり、汚い捨て台詞を吐いて消えるくらいなら、このまま黙って逝った方がマシじゃ」
さすがは腐っても、魔王軍の四天王と言ったところか。
死の直前に迫ってなお、無駄に足掻いたりせず、強がる余裕まで見せている。
僕はそんなネビロに対して、これまた特に理由もなく、ふと思いついたように問いかけた。
「なあ、一つ聞いてもいいかネビロ?」
「……なんじゃ?」
「お前、本当に村の人たちを殺そうと思ってたのか?」
という問いかけに、ネビロは僅かに目を見開いた。
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