第21話 「高速の癒し手」
激痛のあまり後方によろけて、他の二体の前で情けなく倒れてしまう。
その姿に周りの者たちが唖然とする中、ネビロだけは眼球のない目を見張って驚愕の声を上げた。
「な、なんじゃと!? おぬし治癒師じゃったのか!?」
「……」
僕は無言でネビロに鋭い視線を返す。
そして見せつけるようにして、まだ右手に灯っている白い光を前に突きだした。
それを受けて、アンデッドのネビロと二体の呪騎士が足を引く。
そう、こいつらにとってこの光は害悪。
アンデッドの魔族に回復魔法を使うと、癒しの効果は逆転してそいつらを襲うのだ。
いわばそれは体の内部を削るようなもの。
アンデッドナイトの焼かれるような叫びも納得がいく。
おそらくこれならば胸部に隠された”核”も同時に焼けてしまったことだろう。
最前にいたアンデッドナイトを容赦なく苦しめると、残りの奴らが僕を見る目をがらりと変えた。
同様に後方にいるプランも先ほどの危機感をどこかにやってしまったのか、口をあんぐりと開けて僕の背中を見つめている。
その一時の静寂を貫くように、再び僕は前に出た。
「ヒール! ヒール!」
隙だらけだった二体の呪騎士に両手をかざし、すかさず二言唱える。
「「グガァァァァァ!!!」」
仲良く三体一緒に倒れるアンデッドナイトを見て、僕は小さくため息を吐いた。
これで僕の勝ち。こんなにもあっさりと勝負がつくなら、前の戦いの時もこうしておけばよかった。
まあその時は呪騎士の正体が掴めていなかったので、致し方ないけど。
なんて思っていると、ネビロが配下のやられた姿を見て、臆したように冷や汗を流した。
次いで僕の顔を見て歯を食いしばる。
「ナイフを使っておったから、てっきり戦闘系の天職を有していると思ったが、まさか回復魔法を使える治癒師とは。それにその無詠唱の回復魔法、なかなかに厄介じゃわ」
「なんだったらお前にも掛けてやるよ。今回だけは治療費免除してやってもいいぞ」
「はっ、抜かせ小僧。誰がおぬしの回復魔法なんぞ受けるか。しかしそれにしても、その無詠唱の回復魔法どこかで……?」
不意に悩まし気に顎に拳を当てたネビロは、突然大きく目を見開いた。
「はっ、そうか思い出したぞ! おぬし、あの青髪の勇者の傍らにおった『高速の癒し手』じゃな!?」
「あー、うん、たぶんそれで合ってるよ」
僕は気のない声で返事をする。
青髪の勇者の隣にいた治癒師と言えば、僕以外にあり得ないだろう。
今はその役目を聖女さんに引き継いでいるが。
ていうかその呼び名、魔族の間でも定着しているのだろうか。
「あの時もワシの呪術を解呪魔法で容易く跳ね除け、勇者パーティーの面々を瞬く間に回復させておったな。本当に厄介な小僧じゃったわ。まさかこの場所を嗅ぎつけてやってきたのがおぬしとは……。今ごろは勇者どもと一緒に東の魔大陸を攻めていると思っとったが」
「僕も少し前まではそうなってるつもりだったんだけどな。まあ、ちょいと訳アリで、勇者パーティーには今別の回復役がいるんだよ。だから僕はこの平和な大陸の田舎村でのんびりさせてもらってるってわけ。こう言っちゃなんだけど、お互いに運が悪かったなネビロ」
皮肉っぽくそう言うと、奴はますます歯を鳴らした。
お互いに運が悪かった。
こいつを倒した祝賀会で聖女さんが見つからなければ、僕はまだ勇者パーティーに在籍することができたかもしれない。
僕がパーティーから追放されていなければ、ネビロだって密かにアンデッド軍団の再結成ができたかもしれないのだ。
これもめぐり合わせなのだろうか。
そう思いながら僕は、癒しの手をネビロに向ける。
それに対して奴は悔しそうに歯噛みすると、次いでなぜか僅かに頬を緩めた。
瞬間、目の前で倒れていた呪騎士がぞろぞろと起き上がり始める。
その姿を見て、僕は急いで後方へ飛び退った。
するとネビロは不意に懐に手を入れ、水晶玉らしきものを三つ取り出すと、それを笑いながら掲げた。
「クハハ! 簡単に行くと思ったら大間違いじゃ! アンデッドナイトたちの核はワシの手の中にあるんじゃよ! これを壊さぬ限りこやつらは何度でも再生して蘇る! 残念じゃったな高速の癒し手!」
「……ちっ」
……面倒だな。
やはり前回と同様、アンデッドナイトは核が弱点になっているようだが。
今回は胸部に隠されているのではなく、ネビロが直接手に持っているらしい。
ヒールの効果で焼けてしまったと思ったのだが、そう上手くはいかないようだ。
さてとどうしたものか。
あれを壊そうにも、当然三体のアンデッドナイトたちが邪魔をしてくるだろう。
奴らの攻撃を掻い潜って、かつネビロの手から核を奪い取ることが果たして僕にできるだろうか。
いやたぶん無理。ということがネビロもわかったのか、勝ち誇ったような顔で僕のことを見ていた。
めっちゃ腹立つなぁあの顔。ていうかいったいどうしたら……
「あのぉ、ノンさんノンさん」
「……?」
現状に困り果てていると、不意にプランがちょんちょんと肩をつついてきた。
そういえばいたの忘れてた。
なんだよという顔でプランの方を振り返ると、彼女は機嫌が良さそうにニカッと笑った。
「はい。これどうぞッス」
そう言って僕の手の上に乗せてきたのは、三つの小ぶりな”水晶玉”だった。
ネビロが持っているアンデッドナイトの核に、とてもよく似ている水晶玉……
「「…………はっ?」」
僕とネビロの間の抜けた声が、なんとも癪なことに重なってしまった。
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