第13話 「女盗賊団で大盗賊だったアタシは」

 

「追い……出された? って、えっ? プランがクリウス盗賊団から?」


「は、はいッス」


 目を見張りながら問いかけると、プランはぎこちない頷きを僕に返した。

 あまりにも突拍子もないその報告に、思わず僕は困惑する。

 盗賊団を追い出された? えっ、それマジですか?

 なんでそんなことになってんだよ?

 あんなに優しくて、正義のために盗みを働く盗賊団が、どうしてプランのことを……?


 ちんぷんかんぷんになりながらも僕は、一つの推測を立てて恐る恐る尋ねてみた。


「も、もしかしてお前、何かやばいことでもしでかしたんじゃ……」


「ち、違いますッスよ! 確かにそう疑われても仕方ないと思いますッスけど、別に何か大きな失敗をしたとかじゃ決してないッス! そうじゃなくて、その……」


「……?」


 何かを言いかけたプランは、そのまま口を噤んでしまう。

 少し様子が変だと思った僕は、きょとんと首を傾げて彼女の声を待つことにした。

 何か言いづらいことでもあるのだろうか?

 やがてプランは、膝の上で重ねた両手に目を落としながら、ぽつりと零すように話を始めた。


「団長さんが、アタシに言ってくれたんスよ。『プランの居場所はもっと別の場所にあるんじゃないか』って」


「えっ?」


「ペンダントを取られた女の子のために、一生懸命になって戦う姿を見て、アタシがいるべき場所は違うところにある……次にまた同じような事件をアタシが持ってきた時に、自分たちじゃ力にはなれないから、もっと頼りになる人のところに行った方がいいって、団長さんはアタシのことを盗賊団から脱退させたんス」


 まるでその時のことを思い出すように、プランは目を伏せながら言葉を紡ぐ。

 僕は彼女からのその話を聞いて、団長のクリウスさんがプランにそう提案する光景を思い浮かべた。

 今回の地下迷宮の一件を経て、彼女はそう思ったのかもしれない。

 プランは困っている人がいれば見過ごせず、どんな壁にだってぶつかっていく少女だ。

 そんなプランの近くには、頼りになるような存在が必要なんだと。

 

 おそらくプランは今回の件で、盗賊団の皆を危険にさらしてしまったので、これから彼女たちに助けを求めるのを渋るはず。

 次からは自分の手だけで、人助けをするに違いない。

 そう危惧したからこそ、プランの身を案じて、もっと頼りになるような人の近くに彼女を送ろうと思ったのだ。

 そうすれば自ずと、その人と一緒に人助けをすることになるから。


「それで他の団員たちも、その意見に賛成して、アタシを盗賊団から外したんス。もちろんアタシはその時、盗賊団を抜けたくなかったので反対したんスけど、みんなが『プランには”行くべき場所がある”』って」


「……」


 次第に声を先細りにしながら、彼女は言う。

 どこか落ち込んだように今も顔を伏せたままだけど、心なしかその頬は”赤らんでいる”ような気がした。

 行くべき場所がある。なぜそんなことを盗賊団の皆が口にしたのか、僕にはわかるはずもない。

 あの一件の後にプランに心境の変化でもあったのか、それを察して団長さんたちがそう提案したのかは知る由もないのだ。

 しかしプランのことを僕以上にわかっている彼女たちがそう言ったのだから、きっとこいつには行くべき場所があるのだろうな。

 少しとぼけたようにそう考えていると、不意にプランが顔を上げて、ぎこちない笑顔を作った。


「というわけでアタシは、盗賊団を追い出されてしまったってことッスよ。えへ、ノンさんとお揃いッスね」


「い、いや、それは追い出されたっていうのか……?」


 どっちかというと”気を遣ってもらった”って言う方が正しいんじゃないのか?

 だけどプランは、勇者パーティーを追い出された僕とお揃いがいいのか、頑なに訂正しようとしなかった。

 やがて僕は諦めて、気になったことを彼女に尋ねてみることにする。


「もしかしてそれで、僕のところに来たってことなのか?」


「は、はいッス。みんなが言う”行くべき場所”がどこなのか、アタシにはよくわからなかったので、自分の”行きたい場所”に行こうかなって思ったんス。アタシ、あの依頼が終わった後も、ノンさんと一緒にいたいなぁ、とか思ってて……」


 声を先細りにしながら、バツが悪そうに目を逸らしてしまう。

 恥ずかしそうに頬を染めるプランは、次いで明らかな作り笑いを浮かべると、頭の後ろに手を持っていって申し訳なさそうに続けた。


「で、でも、やっぱ迷惑だったッスよね。急にそんなこと言われても……」


「……」


「お、お邪魔して申し訳なかったッス! 盗賊団のみんなには、上手いこと言って団員に戻してもらいますので、さっきのは聞かなかったことにしてください!」


 そそくさと荷物をまとめ始める。

 僕はまだ何も言っていないのに、彼女は慌てた様子で帰り支度を済ませると、逃げるようにしてこの場から立ち去ろうとした。


「そ、それじゃあノンさん! さような……」


「いいよ別に」


「…………えっ?」


「この治療院にいたいんだろ。なら別にいてもいいよ」


 肩をすくめてそう言ってやる。

 するとプランは呆けた顔で固まり、手にしていた荷物を取り落としてしまった。

 そのまま呆然とした視線を向けられて、つい僕は目を逸らしてしまう。

 

 正直、見ず知らずの女の子を無条件で助けてしまうような、正義感の塊とも呼べるプランを近くに置いておくのは、色々と苦労することになるとは思う。

 しかし彼女は盗賊団を追い出されてすぐ、僕のことを頼ってここまで来てくれたのだ。

 今まで勇者パーティーの回復役として、隅の方で仲間の傷を待つだけだった僕のことを。

 誰も期待なんかしてなくて、マリンの添え物としか思われてなかった僕のことを。

 頼って来てくれた子を無下にできるはずもない。

 

 ていうか……


「ほ、本当に……本当にいいんスか!? アタシなんかがここに、ノンさんと一緒にいても……」


「だからいいって言ってんだろ。ていうか前にも言ったように、ここで追い出したら僕が悪者みたいになるだろ。お前の頼み方、やっぱりちょっとずるいぞ。それにちょうど”働き手”がほしいって思ってたところだしな」


「……」


 いかにも疲れた様子で首を鳴らしながら、僕はそう呟く。

 そう、これは従業員獲得のための口実だ。

 あくまで僕は仕事量の軽減のためのアルバイトとして、プランをこの治療院に招き入れたいと考えている。

 ちょうど筋肉痛に悩まされていて、もう一人くらい従業員がほしいと思ってたところだしな。

 

 別に、盗賊団を抜けてまでここに来た一途さに心を打たれたとか、赤らんだ彼女の顔がちょっとだけ可愛らしく思ったとか、そういうことは一切ない。

 だから僕はそれを知らしめるように、言い訳がましくプランに宣言した。


「でも言っておくけど、ここは本来治療以外の依頼は受け付けてないんだからな。この前プランの依頼を聞いてやったのは特別で、お前が望んでいるような人助けはそうそうできないと思っておけ」


「は、はい……ッス」


「それとお前は今日からアルバイトだからな。目一杯こき使ってやるから、覚悟しておけよ」


「アル……バイト。アタシが、この治療院の……」


 彼女は、まだ自分がここにいてもいいのだとわかっていないのか、放心した様子で呟く。

 やがて僕の呆れた顔を見てようやく察したのか、徐々に頬を緩ませていった。

 目には涙を浮かべ、嬉しさのあまり白髪が逆立っていく。


 こいつがしたいような人助けはできないって言ってるのに、まるでこれからもたくさんの人を助けることができるような確信を抱いているみたいだ。

 治療以外の依頼は絶対に受け付けないんだぞ。次に困っている人がここに来ても、プランの時のように助けることはしないんだぞ。

 僕はもう戦いや面倒事から距離を置くって決めたんだから。

 それでも本当にいいのだろうか?

 という疑問に対し、プランは激しく頷きを返すように、満面の笑みで答えてみせた。


「本日からアルバイトとしてこの治療院で働かせてもらう、大盗賊のプランッス! 精一杯頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いしますッス!」


 こうして僕の治療院に、新しくアルバイトが加わることになりました。




 第一章 おわり

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