第13話 「女盗賊団で大盗賊だったアタシは」
「か、解散? えっ、なんで? せっかく助けてやったのに……」
アジトまで足を運び、解呪魔法で呪いを治してやった。
しかも団長さんの呪いを解くために、地下迷宮に行って呪騎士とも戦った。
それはプランが治療を依頼してきたからで、これからもみんなと一緒に盗賊稼業を続けたいから頼んできたんじゃないのか?
それなのに、どうして解散……?
もしかして団員同士の仲が悪くなってしまったとか?
「ち、違うんスよ! 誤解しないでほしいんスけど、別にアタシらが仲違いしたとか喧嘩したとか、そういうんじゃないんス。前々から解散するかしないかって話は持ち上がっていたんスよ」
「えっ? 前々から?」
それだと余計に謎が深まるばかりなんだが。
という顔をしていると、プランがごほんと咳払いをしてから、再び話し始めた。
「前にも言ったと思うんスけど、アタシらの盗賊団は困っている人たちから依頼を受けて盗みを実行しているッス。でも実は最近、その依頼の数も少しずつ減ってきてまして……」
「えっ、そうだったのか? でもまあそれって、お前たちが頑張ってきたから困っている人たちが少なくなってきたってことだろ? なら良いことじゃないか」
「ま、まあ、確かにそれはそうなんスけど」
プランは苦笑しながら続けた。
「依頼がないのは良いことであるのと同時に、アタシらの収入も低くなってしまいますッス。で、そろそろ盗賊稼業だけでやっていくのは厳しいって意見もあって、いつ解散になってもおかしくはなかったんスよ。ぶっちゃけこの前ノンさんに支払った依頼料も、なけなしのお金でしたし」
「あっ、そうだったのね。なんかごめん」
「い、いえ、それは正当な報酬としてきっちり受け取ってくださいッス。で、話を戻すんスけど、そんな折に呪いの霧に苦しめられて、ぎりぎりのところで命拾いをしたので『ちょうどいいから足洗うか』ってことになったんスよ」
「へ、へぇ……」
そういう事情だったのか。
まあ確かに、盗賊稼業だけで何年も食いつなぐのは厳しいのかもしれないな。
団員もそれなりの数がいたようだし、それに比例した数の依頼が来るとは限らない。
おまけに呪いの霧のせいで相当怖い思いをしたはずだからな。
これを機に足を洗おうと考えても不思議ではない。
「元々は困っている人たちを助けて、そういった依頼を失くすのが目的だったッスから、解散についてはみんな清々しい顔をしてたッス」
「ふぅ~ん。それで、今みんなはどうしてんだよ?」
「散り散りになったッスよ。盗賊だったことを隠して別の仕事に就いた人もいますし、実家に帰った人もいるッス。あっ、あと、アタシらには内緒にしていた彼氏さんがいて、その人の家に転がり込む裏切り者までいました」
「……お、おう」
最後だけ声が低くなったのは気のせいですよね。仲いいんですよね。
女性同士の仲の裏側を垣間見た気がした。
まあ、それはいいとして……
僕はふとプランの傍らに置かれた荷物に目が行った。
その瞬間、何か脳裏によぎるものがあり、たった今思いついたみたいに声を上げる。
「そ、そっか、みんな道は違えちゃったけど、それなりに元気に過ごしてんだな。それならよかったよかった。さっ、話は終わったし、外も暗くなりそうだ。そろそろ……」
帰った方がいいんじゃないか?
と、捲し立てつつも優しく声を掛けてやろうとした。
上手くは言えない。上手くは言えないけど……なんだろう、ものすご~く嫌な予感がする。
目の前の元盗賊少女から、良からぬ気配をびしばしと感じるのだ。
その危機感が『プランを早く帰せ』と本能に訴えかけてきて、僕は自然な流れで彼女を治療院から追い出そうとする。
だが……
「あのそれで、ノンさんに一つご質問があるんスけど」
「……」
先手を打たれてしまった。
治療院のドアを開けるために出口に向かっていた僕は、ごくりと息を呑んでプランを振り返る。
すると彼女は、満面の笑みをこちらに向けて、可愛らしく小首を傾げた。
「ここって、アルバイトとか募集してないッスか?」
僕はプランの手を取り、椅子から立ち上がらせて出口へと押しやった。
「今すぐ帰れ」
「えっ? ちょ、そんなこと言わないでくださいッス! アルバイト! アルバイトとしてここで働かせてほしいんス! 何も悪さはしないッスから! お願いしますお願いしますッス!」
外へ押し出そうとすると、プランは意外な力強さを見せて抵抗してきた。
扉の押し合いをする中、僕はぶんぶんと激しくかぶりを振る。
「絶対にやだよ! そう言うと思ったから早く帰ってほしかったんだよ! アルバイトなんてふざけんな! お前がいると絶対にロクなことがない!」
「そ、そんなことないッスよ! ノンさんにご迷惑をお掛けすることは絶対にないッス! むしろめちゃめちゃ役に立ってみせますから!」
必死に自分を売り込むプラン。
ついでに彼女は持てる力のすべてを使い、扉を押し開けようとしてくる。
僕もそれに負けじと全力を振り絞り、彼女を外へ追い出そうとした。
こいつがアルバイト? 本当に嫌な予感しかしないんだが。
「お願いしますッスよノンさん! 盗賊団がなくなっちゃってアタシ行くところがないんス! 何よりノンさんともっと一緒にいたいって思ってるんスよ! ここに置かせてくださいッス!」
「僕と一緒にいたいんだったら、定期的に遊びに来るくらいでいいだろうが! 茶ぁくらいなら出してやるからそれで我慢しろ!」
「ずっと一緒にいたいって意味ッスよ! なんでこんなわかりやすい気持ちが全然伝わらないんスか!? 届けこの想いぃぃぃぃぃ!!!」
と言いながらプランは、乙女とは思えないほどの怪力で扉を押し開けてきた。
そして中に飛び込んでくるや否や、僕の腰にしがみついてくる。
「なんでも! なんでもするッスから!!! どうかここでアルバイトをぉぉぉぉぉ!!!」
「ちょ、おま、だからうるさいって言ってんだろ。もし村の人たちに聞かれでもしたら……」
「掃除でも洗濯でもお庭の手入れでもなんでもするッスから!!! どうかここでアルバイトざぜでぐだざいッズーーーーー!!!」
ついには涙を浮かべながら声を荒げ始めた。
……って、またこのパターンかよ!
僕が一方的に女の子を泣かせているみたいになっている。
治療の依頼をしに来た時とまったく同じじゃねえか。
こんな姿を村人たちに見られでもしたら、やっぱりどう考えても僕の人生が詰む。
最悪の事態を想定した僕は、またも血の気を引きながらプランに言った。
「あぁ、もう! わぁーったよ! ここに置いてやればいいんだろ、置いてやれば!」
「えっ? いいんスか!? ホントにいいんスか!?」
「この治療院でアルバイトとして雇ってやればいいんだろ。なら別に構わないよ。だからいい加減静かにしてくれ」
じゃないと本当に村の人たちが駆けつけてきてしまう。
そう危惧して渋々と承諾すると、プランはわなわなと体を震わせ始めた。
「あ、ああ……」
そして感極まってか、より一層大きな叫びを上げて抱きついてくる。
「あ、ありがどうございまずッズーーーーー!!!」
「おぉい! 何度言ったらわかんだよ! 汚ねぇからもうくっついてくんな! ていうかもう黙れ!」
本当に村の人たちに聞こえちゃうだろ!
僕はプランを宥めつつ、急いで治療院の扉を閉めた。
マジでこいつは、何かの目標のためならなりふり構わないって奴だな。
そういえば盗賊団に入った時も、しつこくお願いしてようやく入れたとか言ってたし。
もしかして団長さんもこんな風にゴリ押しされたのだろうか。
そう思うと気の毒で仕方がない。
まあ、ちょうど人手がほしいって思ってたところだし、こいつの力も意外に使えるものが多いしな。
その大盗賊の器用さで、掃除や洗濯や庭の手入れ、その他の家事も全部やってもらうことにしよう。
存分にこき使ってやる。
こうして僕の治療院に、新しくアルバイトが加わることになりました。
第一章 おわり
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