第6話 「依頼」

 

 黒マントさん改め、プランと自己紹介を終えた後。

 とりあえず彼女には治療院の中に入ってもらうことにした。

 ノホホ村の端っこにぽつんと建っている治療院だが、いつ、誰が、どこで話を聞いているかわからない。

 先ほどはプランに個人的な情報を開示されたばかりだし、用心しなくては。


「ほら、テキトーに座ってろよ。今お茶でも淹れるから」


「あっ、はいッス。お構いなくッス」


 僕は、来客用の丸椅子にドスンと腰掛けるプランを尻目に、奥の小さなキッチンへと向かった。

 晩ご飯の調理をする直前で時が止まったキッチンで、二つのカップにお茶を注ぐ。

 それを持って行って片方をプランに渡すと、もう片方を持ちながら対面の席に腰掛けた。

 一口啜り、喉を潤してから話を始める。

 

「それで、あの時僕が助けた女の子が、今さら僕に何の用なんだよ? もしあの時の恩返しをしに来たっていうなら、もうすでにたくさん”仇”で返されてる気がするんだけど」


 そう皮肉まじりに告げてやる。

 すると彼女は、何がそんなに嬉しいのかニコニコと笑いながら、同じくお茶を一口啜って僕の質問に答えた。


「あの時のお礼は、また改めて違った形でしたいと思ってるッス。そうじゃなくて今日は、別の用事でゼノンさんに会いに来たんスよ」


「別の用事?」


 なんか嫌な予感しかしない。

 そもそもこの治療院を経営している”ノン”にではなく、勇者パーティーで回復役をしていた”ゼノン”に用があるというのだから、絶対に面倒な事を言われるに決まっているのだ。

 やっぱ追い返せばよかったなぁ、と遅まきながら後悔していると、ようやくプランは話を本題に移してくれた。


「勇者パーティーで回復役をしていた、応急師のゼノンさんの力を見込んで頼みがあるッス」


「頼み? なにそれ?」


「はいッス。実はッスね……」


 一拍置いた彼女は、姿勢を正してこちらを向き、改まった様子で言った。


「アタシが所属している”盗賊団”に力を貸してほしいんス!」


「……はいっ?」


 真剣な眼差しを向けてくるプランを見て、思わず僕は固まってしまう。

 今こいつ、なんて言った?

 アタシが所属している……なに?

 僕の聞き間違いだよな。まさかそんなはずないよな。


「残念ながらアタシらには、頼りになれるような凄腕の治癒師の知り合いは誰一人としていないんス。ですので以前助けていただいたときに見せてもらった応急師の力を見込んで、是非ゼノンさんに手を貸していただけないかと……」


 言葉足らずだと感じたのか、さらなる説明を重ねるプラン。

 しかし理解に苦しんだ僕は、こめかみに手を当てながら”待った”の声を掛けた。


「えぇ~と、ごめん、ちょっと待って。僕の手を借りたい理由よりもまず先に、プランに聞きたいことがあるんだけど……」


「……? なんスか?」


「プランが所属してる……なに団だって?」


 確認をとるようにそう問いかけると、プランは至って平然とした様子で答えてみせた。


「盗賊団ッス」


「……てことは、プランも?」


「あっ、アタシも盗賊ッスよ。言ってなかったッスか?」


「言ってねえよ」


 思わず鋭いツッコミを入れてしまう。

 あれっ? ていうことは何? 僕は今、見知らぬ盗賊の女の子を、不用心にも自宅に招き入れちゃってるってこと? 

 温かいお茶を仲良く啜りながら、狭い治療院で二人きりになってるってこと?

 初めに彼女の素性を確かめなかった僕にも責任はあるのだが、この状況はちょっと……

 改めて現状の確認を終えた僕は、震える手でお茶を卓上に戻し、おもむろに席から立ち上がった。


「む、村の人を呼ばなきゃ……」


「ちょっと待ってくださいッス! 誤解しないでほしいんスけど、アタシらは別に無法に盗みを働く野蛮な盗賊団ではなく、そういった盗賊や悪徳貴族から貴重な物を取り返したりする、正義の盗賊団なんス!」


「正義の盗賊団?」


 なにその胡散臭い感じ。

 盗賊に正義も悪もあるのだろうか?

 眉を寄せながら訝しい視線を送ると、プランは額に冷や汗を滲ませつつ答えた。

 

「よ、よくあるじゃないッスか。『盗賊に盗まれた家宝を取り返してほしい』とか、『性格の悪い貴族が悪質な手で入手した骨董品を盗み出してきてほしい』とか。アタシらはそういった依頼を受けて盗みを実行する、ホワイトな”女盗賊団”なんス」

 

「ふぅ~ん」

 

 そう言われてみれば、まあ確かにそんな盗賊団がいてもおかしくないのかもしれない。

 むしろその生き様はかっこいいとすら思える。

 金持ちから金品を奪って、貧しい人たちや孤児院に分け与える『義賊』とでも言うべきなのだろうか。

 長らく勇者パーティーにいたせいで、そういった存在がいることをすっかり忘れていたな。

 改めてプランの素性を知った僕は、考え込むように腕を組んで、鈍い頷きを見せた。

 

「んまあ、とりあえずは安全な盗賊ってことにしておくよ」

 

「り、理解していただけて助かるッス」

 

 ほっと胸を撫で下ろすプラン。

 そんな彼女を見据えながら、僕は木造りの丸椅子を少し引いて、彼女から僅かに距離をとった。

 

「んじゃあ、話を本題に戻すか」

 

「そんなに邪険にしなくてもいいじゃないッスか! 何も悪さはしないッスから!」

 

「念のためだよ念のため」


 気持ちも切り替えられたところで、改めて依頼の内容について話を戻す。


「それで、その盗賊団に手を貸してほしいってのはどういうことなんだ? 頼りになれるような治癒師が知り合いにいないから、僕のところにやってきたのはもうわかったんだけど、そもそもなんで盗賊団に治癒師の力なんかが必要なんだ?」

 

「あっ、そのことなんスけどね……」


 プランは少し前のめりになり、こちらの顔を覗き込むように問いかけてきた。


「地下迷宮ってご存知ッスか?」

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