第6話 「依頼」
黒マントさん改め、プランに名乗ってもらった後。
とりあえず彼女には治療院の中に入ってもらうことにした。
ノホホ村の端っこにぽつんと建っている治療院だが、いつ誰がどこで話を聞いているかわからない。
先ほどはプランに個人的な情報を開示されたばかりだし、用心しなくては。
「ほら、テキトーに座ってろよ。今お茶でも淹れるから」
「あっ、はいッス。お構いなくッス」
来客用の丸椅子にドスンと腰掛けるプランを尻目に、僕は奥の小さなキッチンへと向かった。
晩ご飯の調理をする直前で時が止まったキッチンで、二つのカップにお茶を注ぐ。
それを持って行って片方をプランに渡すと、もう片方を持ちながら対面の席に腰掛けた。
一口啜り、喉を潤してから話を始める。
「それで、僕にお願いしたいことってなんだよ? ていうか、僕の天職をどうやって知ったのか、まだ説明してもらってないんだけど?」
細めた目でプランを見据える。
すると彼女は、何がそんなに嬉しいのかニコニコと笑いながら、同じくお茶を一口啜って僕の質問に答えた。
「あっ、そういえばそうだったッスね。ん~、何から話したもんッスか……」
少し考えてから、プランは話を始めた。
「まず、アタシがノンさんの天職を見抜けた理由は、アタシが持っているスキル『観察』のおかげッス」
「か、観察?」
「対象を二十秒視界に収めることで、内部情報を読み取ることができるスキルッス。主に身体情報やステータス、魔物の場合は弱点なんかもわかるッスよ」
へぇ~、そんな便利なスキルもあるんだな。
確かにそれなら僕が『応急師』だってことも簡単に見抜ける。
でも、知らない間に二十秒間も見つめられていたなんてぞっとするな。
まあ、今はそれは置いておくことにして、僕は話の続きを促した。
「で、なんでその『観察』のスキルを僕に使ったりしたんだ? たまたま二十秒見つめちゃったとかは怖すぎるからやめてくれよ」
「ちょ、そんなので怖がらないでくださいッス。女の子に二十秒も見惚れられるって相当嬉しいことじゃないッスか。そうじゃなくて、アタシが観察スキルを使った理由は、ノンさんが解呪魔法を使えるかどうか確かめたかったからッス」
「……?」
解呪魔法?
呪いの状態異常を解くことができる魔法で、回復系統の天職を宿している者が習得できる。
確かに治癒師の中には解呪魔法を使えない者もいて、それを確認したかったというなら話はわかるが……
「僕が解呪魔法を使えたらどうなんだよ? それで僕に何をしてほしいんだ?」
僕は首を傾げながら、改めてここに来た用件を尋ねる。
するとプランはこくりと頷いて返答した。
「はいッス。実はッスね……」
一拍置いた彼女は、改まった様子で言った。
「アタシが所属している”盗賊団”を助けてほしいんス!」
「……はいっ?」
真剣な眼差しを向けてくるプランを見て、思わず僕は固まってしまう。
今こいつなんて言った?
アタシが所属している……なんだって?
もう一度どうぞ。
「ですから、アタシが所属している”盗賊団”を、その癒やしの手を使って助けてほしいんス!」
「……えぇ~とぉ」
僕はこめかみに手を当てながら再び問いかける。
「ごめん、もう一度聞くけど、プランが所属してる……なに団だって?」
「……? 盗賊団ッス」
「……てことは、プランも?」
「あっ、アタシも盗賊ッスよ。言ってなかったッスか?」
「言ってねえよ」
思わず鋭いツッコミを入れてしまう。
あれっ? ていうことは何? 僕は今、見知らぬ盗賊の女の子を、不用心にも自宅に招き入れちゃってるってこと?
温かいお茶を仲良く啜りながら、狭い治療院で二人きりになってるってこと?
初めに彼女の素性を確かめなかった僕にも責任はあるのだが、この状況はちょっと……
僕は震える手でお茶を卓上に戻し、おもむろに席から立ち上がった。
「む、村の人を呼ばなきゃ……」
「ちょっと待ってくださいッス! 誤解しないでほしいんスけど、アタシらは別に無法に盗みを働く野蛮な盗賊団ではなく、そういった盗賊や悪徳貴族から貴重な物を取り返したりする、正義の盗賊団なんス!」
「正義の盗賊団?」
なにその胡散臭い感じ。
盗賊に正義も悪もあるのだろうか?
眉を寄せながら訝しい視線を送ると、プランは額に冷や汗を滲ませつつ答えた。
「よ、よくあるじゃないッスか。『性格の悪い貴族が悪質な手で入手した骨董品を盗み出してきてほしい』みたいなの。アタシらはそういった依頼を受けて盗みを実行する、ホワイトな女盗賊団なんス」
「ふぅ~ん」
そう言われてみれば、まあ確かにそんな盗賊団がいてもおかしくないのかもしれない。
むしろその生き様はかっこいいとすら思える。
金持ちから金品を奪って、貧しい人たちや孤児院に分け与える『義賊』とでも言うべきなのだろうか。
長らく勇者パーティーにいたせいで、そういった存在がいることをすっかり忘れていたな。
改めてプランの素性を知った僕は、考え込むように腕を組んで、鈍い頷きを見せた。
「んまあ、とりあえずは安全な盗賊ってことにしておくよ」
「り、理解していただけて助かるッス」
ほっと胸を撫で下ろすプラン。
そんな彼女を見据えながら、僕は木造りの丸椅子を少し引いて、彼女から僅かに距離をとった。
「んじゃあ、話を本題に戻すか」
「そんなに邪険にしなくてもいいじゃないッスか! 何も悪さはしないッスから!」
「念のためだよ念のため」
気持ちも切り替えられたところで、改めて依頼の内容について話を戻す。
「それで、その盗賊団に手を貸してほしいってのはどういうことなんだ? 僕、犯罪者の仲間入りするのとか嫌なんだけど」
「ちょ、犯罪者呼ばわりしないでくださいッス! 確かにアタシらは町でお尋ね者扱いされていますが、でも今回は関係ないッスから!」
プランは少し前のめりになり、こちらの顔を覗き込むように問いかけてきた。
「地下迷宮ってご存知ッスか?」
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