恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか5
【解説】
※プロではないため、学校の知識、書籍、ネットでの情報をあわせたなんちゃって解説です。大雑把に裏設定として受け止めてください。
以下の知識を踏まえてオマージュした作品、というだけで、読まなくても本文に支障はありません。
(歌)
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか(壬生忠見)
(大体の現代語訳)
恋しているという私の噂がはやくも立ってしまった。誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめたばかりなのに。
(壬生忠見の経歴ほか)
・今回の主人公「忠」→壬生忠見が元ネタ。
・父の壬生忠岑とともに三十六歌仙の1人に数えられています。
御厨子所定外膳部、摂津大目に叙任されたことが知られるほか、正六位上・伊予掾に叙任されたとする系図もあります。
伊予は現在の愛媛県にあたるため、今回の主人公である忠の出身は愛媛にしました。(史実では幼少期の頃は摂津にいたらしいですが)
・歌人として、内裏菊合、内裏歌合で出詠する等、屏風歌で活躍していました。
勅撰歌人として『後撰和歌集』以下の勅撰和歌集に36首入集しています。中でも特に有名なのが天徳内裏歌合での平兼盛との対決。
「忍ぶ恋」をお題に、平兼盛が第四十首の「しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで(他人に気付かれないように心に秘めてきたけれど、顔や表情に出てしまっていたようだ。私の恋は。「恋の悩みですか?」と人に尋ねられるほどに。)」と詠んだのに対し壬生忠見は本歌を詠みました。どちらも甲乙つけがたいほどの名歌でしたが、天皇が平兼盛の歌を口ずさんだため、兼盛の勝ちになったという逸話があります。
以前第四十首の「しのぶれど」を、「自分が女の子らしくないからこの気持ちは不相応だ」と考える「忍ぶ恋」をする女の子の話を書きました。
もともとが同じ舞台で詠まれた歌ですので、今回はアナザー(壬生忠見)視点で、四十首の作品の裏側を読む物語となっています。史実に沿って壬生忠見は平兼盛に敗れる(本作品では失恋)ため、アンハッピーエンドとなりました。
・歌の該当箇所。
1、「誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめたばかりなのに」→忠が麻耶への恋心を自覚&麻耶が兼盛を好きなことに気付いた頃。
2、「誰にも知られないよう」というのは色々解釈があると思います。危ない恋だから、恋人になりたいのではなくあくまで大事な思い出としてひっそりと想っていたい、叶わない恋だから等々。今回は親友の好きな人を好きになってしまった罪悪感、すでに失恋が確定しておりまた気持ちが露呈すると周囲から噂される恥ずかしい思いをすることになり、兼盛と麻耶に知られた日には惨めになる(また二人も忠にどう接していいのかわからない)等の理由から「誰にも知られないよう、知られてはいけない」としました。
3、「恋しているという私の噂がはやくも立ってしまった」→香奈にバレてしまった。噂というと通常複数人を示しますが、ストーリー上1人にしかバレていません。が、ポーカーフェイスができない以上今後複数人にバレ、いずれは噂になっていたかも。恋心を捨てようにも捨てられないと諦めたまま物語終わりましたし。
・家集に『忠見集』があります。
麗景殿女御歌合で「あはぬ恋」をお題に、以下の歌が詠まれました。
《歌》
暮ごとにおなじ道にもまどふかな身のうちにのみ恋のもえつつ(忠見集)
《大体の現代語訳》
夕暮になる度、あの人のことを思っては堂々巡りをしているのだなあ。私の身の内だけで恋の火が燃えつづけて。
1、歌の該当箇所→忠が夕日を見ながら麻耶のことをおもいだしている一番最後のシーン。
2、本来は会えない日々がさらに想いを募らせる…といったシチュエーションをイメージした歌なのでしょうが、今回は「失恋したから忘れようとしているのに、きっと今後も夕日を見る度に恋に落ちた瞬間を思い出して想いが再燃し続けるんだろうな」という意味で使いました。
ちなみに、夕日に照らされながら窓の外(にいるであろう兼盛)を眺めている麻耶を見た時が決定的に恋に落ちた瞬間です。恋した女の子は綺麗っていつから言われはじめたんでしょう。
3、なお最初麻耶が黄昏ていたのは「この恋は不相応だ」と想っていたため。書ききれませんでしたがこの日のお昼に香奈から「他の女の子より勝ってるところ確実にあるよ(名前で呼ばれている)」とアドバイスを受けています。気合を入れた麻耶は、この後ラーメン屋にて告白し無事OKをもらっています。
4、忠と麻耶の接点が一番深いコンビニを絡めて終わらせようかと思っていたのですが、「暮ごとに」の歌がとても綺麗だったのでエンドを変えました。後半コンビニの描写が少なくて違和感があるかもしれません。
百人一首 第四十一首 恋の歌 相田 渚 @orange0202
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