第18話 食材・たけのこ

 秘境島に砂浜があるのはここを含めて三か所のみで、今はその中で最も安全と言われている第十七地区に来ている。とはいえ、二桁には変わりないので、比較的危険は少ないという程度だ。

 俺が砂浜に打ち上がっている海藻を集めている傍ら、リリには焚き火で海水を熱している鍋を見守ってもらっている。

 秘境島付近の海域には秘境島の細胞というか成分というのか、そういったものが影響していて島と同じような変わった生き物が生息している。今まで説明してこなかったが、秘境島管理委員会の本部は秘境島の近くに造られた人工島にあり、ヘリの待機と給油もそこで行われている。そして、その人工島を基準に一定の距離で船が配置され、常に密航者と秘境島から生物が外に出ないよう警戒している。

 それはそれとして。海藻集めもほどほどに、鍋を見つめるリリのほうへと近寄った。

「どんな感じだ?」

「もうちょっとで全部蒸発するかも~」

「ん、良い感じだな」

 一リットルの海水から約二十五グラム程度の塩が取れるのだが、やり方は意外と面倒だ。なるべく沖合いの綺麗な海水を取ってきて、まずはコーヒーフィルターなどで濾過し、それを土鍋などに注ぎ火にかける。海水が十分の一程度まで水分を飛ばしたら再び濾過をする。残った海水を火にかけて、塩が結晶化し始めてふつふつと泡を出すようになったら少しの水分を残して再び濾過。この時、フィルターに残ったのが塩だ。

「舐めてもいい?」

「いいけど、しゃっぱいぞ? 当然ながら」

「……ん! すごっ」

 だろうね。

 そうして塩と海苔を作るための海藻を手に入れたのが半年前のこと。

 今回訪れているのは第十五地区の竹林だ。

「てんちょ~、今日の獲物は?」

「そりゃあ当然、たけのこだな」

「たけのこって今の時期だっけ?」

「……秘境島だからな。なんでもありと言えばなんでもありだ。まぁ、たけのこなんて旬はあるけど大抵どの季節でも採れる」

「ふ~ん。場所はわかってるの?」

「いや、決まった場所に生えているわけじゃあないし、土に埋まっているから足裏で探ってる感じだな」

「にゃるほど。じゃあ、私はいつも通り周りを警戒だね」

 もちろん、足裏だけでなく目でも探しているが良いたけのこは地面に埋まったまま、今にも顔を出そうとしているものだ。だから、靴越しに若干盛り上がっている地面を探っているわけだ。本来は足袋で行うべきだが、ここは秘境島だ。何があるかわからないから底の薄い足袋では危険過ぎる。

 しかし、そう簡単に見つかるものでも無い。むしろその逆で、旬の頃なら至る所にあるのだが、それ以外の時期には一定の範囲に生えていることが多い。今の時期は奥地にあると踏んでいて、それよりも手前で見つかればいいと思っていたが、この分では奥まで這入り込んだほうが早そうだ。

「リリ、一旦奥まで行ってから戻ってこよう。そのほうが手っ取り早く済みそうだ」

「りょーかい。先に行って安全か確かめてくる?」

「頼む」

 この竹林にも獣がいる。竹で思い付く動物は? そう、パンダだ。笹を食べるイメージが強いパンダだが、その実態は肉食の獣であり、笹のイメージは飼育する上で肉を食べさせないように矯正されたものだ。

 しかも、ここは秘境島だ。普通のパンダでは無い。筋肉質で穏やかさとは程遠い好戦的なパンダだ。

 そんなことを考えながら地面を探りつつ進んでいると、リリの向かった先から激しい戦闘音が聞こえてきた。

「あっ――ははは!」

 それに楽しむような笑い声が。ゴリラ対パンダか。興味深い気もするが、そんなところに近寄るほど命知らずでは無い。それに何より、パンダは食べられない。

 戦闘を気にしつつ竹の脇にしゃがみ込み手探りで地面に触れてみるが……やはり、見当たらないな。

「さて、どうしたものか」

 今回の注文に対して、必ずしもたけのこが必要なわけでは無いのだがここまで来たからには採って帰りたい。

 しゃがみ込んだまま、先の空間を見るようにしながら考えていると視界の端で何かが通り過ぎたのに気が付いた。その瞬間に体が動いて腕を伸ばすと、手の中には鶏が居た。普通の鶏に比べて一回り以上サイズが小さいが、秘境島特有の鶏でこの大きさで大人だ。丁度いい、この大きさなら生きたまま持って帰れる。

 鶏をケースに入れてバッグの中に仕舞っていると、いつの間にか戦闘音が治まっていた。

「あ~楽しかった。もう安全だよ、店長」

 戻ってきたリリを見れば服の所々が破けているだけで無傷のようだった。

「……ゴリラの勝ち、か」

「ん、なに?」

「いや、何も。じゃあ、探しに行くか」

 奥に進んでいくと、戦闘のせいかただでさえ頑丈な竹が大量に圧し折れていた。それに加えて、地面の表層も削られてたけのこの頭が多く見えていた。……探す手間が省けたな。

「あれ? もう見つかったの?」

「ああ、お陰様で。強かったか? パンダ」

「ん~……過去、二十位内には入るくらいかな」

 基準がわからないが、楽しめるくらいには強かったってことね。

 ともあれ、食材の調達は恙無く完了した。過去に集めた食材と合わせて、調理を始めよう。

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