第27話 遠足

 『わあーーーっ!』


 「す、凄いな」


 「まさかこれ程とは…」


 「サニーくん、ありがとうございます!」


 「さっくん、ありがとね」


 「お、おう…」


 「は、早く行きましょうよ!」


 そうだよな。スゲェ再現されてるよなぁ。

 いや、みんなからすると別世界の風景なのか。


 みんなは揃ってエルグランドパークに興奮と歓喜の声を上げている。


 「はいはいー、皆さん落ち着いてー。これから説明をするのでー、よく聞いてくださいねー」


 ルイ先生はみんなを集めて、目的や注意点などを説明した。

 先生の喋り方は余りにルーズなので、俺が簡潔にまとめる。


 まず、「Aクラスみんなの仲を深める事」が目的だ。

 その為に、みんながそれぞれペアになって一組につき一時間でペアを交代する。

 一時間経ったら、この場所、メインゲートに集合。

 そうして他の五人全員と一通り回ったら一時間をみんなで好きなように過ごすこと、だそうだ。


 それと、二人目が終わったらみんなでお昼ご飯を食べることに決まった。


 少し不自由だが、遠足なので仕方ない。


 ちなみに、この世界の1日は30時間だ。

 1時間は前世と一緒だが、微妙なところで多少の変化がある。

 しかし、結果的には時間に差はない。


 元の世界で1日が24時間、1年は365日、閏年も合わせて4年で35064時間とする。

 こちらの世界では1日が30時間、1年は正確に言うと292日、その4年で35040時間になる。

 つまり、コッチとアッチでは閏年の24時間分しか違いがないのだ。

 だがアッチの閏年のように、コッチにも龍年というものがあり、総合的には全く違いは無いのだ。


 話が逸れたが、乃愛とはクジで四人目になった。

 一番目はロザリアだ。クジ運強えなアイツ。


 「よろしくお願いしますわね、サニー様」


 「お、おう…よろしく」


 ロザリアは何やら企んでいるようだ。と思ったら、案外はしゃぎたいだけだったみたいだ。

 ロザリアに絶叫系は厳しいみたいだったので、メリーゴーランドやコーヒーカップで楽しんだ。


 初めての遊園地でとても楽しそうに、そして凄く綺麗でいい笑顔を振りまいていた。

 少し見とれていたら、不意に頬にキスをされたのは内緒だ。


 この小悪魔め!と、起こる気にならない位に幸せそうだった。今日は無礼講だな。



 一時間経ったので、広場で次の人と交代した。


 二人目はアルだ。

 アルはいつもタメで口をきいてくるが、実際はあまり話さない。

 なんと言うか、家柄からなのかお堅い性格なのだ。


 だから俺が色々と連れ回した。

 ゴーカートやジェットコースターといった激しい部類で大はしゃぎしていた。

 普段からは想像出来ない子どもっぽい一面が伺えた。


 ちなみに一人目は乃愛だったらしく、乗り物には乗らずに俺のことについて話し合っていた、と言っていた。


 アルの親は厳しく食事も比較的質素な為、この前のパーティーでの食事はとてもお気に召したらしい。

 甘いものなんて初めてだ、とも言っていた。

 俺がパーク内の売店でジュースを奢ってやった時は、満面の笑みで舌づつみを打っていた。



 そうこうしていたら、お昼ご飯の時間になった。


 俺は乃愛と並び、その周りをみんなが囲む形になって食べた。

 乃愛のサンドイッチは張り切って作り過ぎて余ったので、みんなにもおすそ分けした。


 当然、大好評だったのは言うまでもない。

 乃愛の料理の腕はみんな知っていたからだ。

 俺も彼氏として鼻が高いよ。


 アルはラスクの方に興味津々だったが。


 すると意外にも、俺のスープも好評だった。

 みんなに一杯ずつ配って味見して貰ったのだが、予想以上の出来栄えだったらしく、乃愛のお墨付きも頂いた。

 頑張ったかいがあるというものだ。



 お昼ご飯も食べ終わり、三人目とまわる時間になった。


 三人目はリックだ。

 リックはいつも内気で、俺に対してもまだ警戒や緊張をしている。はずだったのだが、遊園地に興奮しきっていて、それどころではなかった。


 お昼時は比較的人が少ないので、他のペアの時よりも多く乗り物に乗れた。

 待ち時間に色々と話したが、リックは矮種ドワーフだそうだ。


 ドワーフというと、毛むくじゃらな格好で、鍛冶をしたり山を掘ったりしていそうなものだが、実際は手先が器用でものを作るのが上手な職人の種族なのだ。

 そしてとても頭が良く、コミュ障または人見知りだ。


 警戒や緊張をしているのかと思っていたけど、ただの人見知りなだけだったらしい。

 それも今回で回復の傾向が伺えている。

 これから仲良くやっていけそうだ。



 また一時間経って、次はいよいよ乃愛の番だ。

 乃愛は遊園地を知っている身として、ペアの相手を色々と連れ回したと言っていた。

 だから俺たちはパーク内をゆっくりと手を繋ぎながら歩いたり、オヤツのラスクを食べたり、カップルドリンクを飲んだり、観覧車に乗ってキスをしたりして一時間を過ごした。


 俺も乃愛も前世での思い出の余韻に浸っていた。

 乃愛といた毎日は、明るくて楽しくて幸せそのものだった。


 もちろん、今の生活に不満がある訳では無い。

 だが、前世では〇〇がどうだった、などと言った「もしも」が引き合いに出された時、少なからず沈黙が訪れるのだ。


 そんな時にはお互いに愛を囁く。

 二人が揃えば大丈夫だ、二人で乗り越えて行こう、そう自分達を奮い立たせて…。



 そして一時間が経過した。

 俺は乃愛と別れて、五人目のルナと合流した。


 ルナはお疲れ気味だった。

 ジェットコースタなどの絶叫系に乗り過ぎて、気分が悪くなったようだ。


 俺達は木陰のベンチに腰を下ろして休憩の時間をとった。

 不意にルナが、「ノルンと上手くやれてる?」と聞いてきた。

 俺は「当然だ」と答えたかったが、正直に言ってこの先どうしていけば良いのか迷っている。


 もちろん、幾ら前世に比べて周りの顔面偏差値が異様に高くなっているからと言っても、乃愛への愛情が冷めることは絶対にない。

 だが、これからどのように事を進めて行けば良いのかわからない、と素直に打ち明けて相談した。


 ルナはとても的確なアドバイスをくれたと思う。

 それを元に俺は計画をたてた。


 とりあえず、乃愛をたくさん愛でる。

 人目があっても気にせず声に出して好意を伝え、体全体で表現する。

 そして乃愛の希望には出来るだけ応えてあげる。


 問題はどうやって進めるかだが、それは追々説明していこうと思う。



 ルナの体調も回復して一時間が経ったので、メインゲートに戻ってきた。


 そこでは激しい戦闘が行われていた。

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「転生なんてしたくなかった!」と、思っていたのだが… せーくん/ぬこ様 @se_kun

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