第26話 お弁当
「あうー」
「だーあー」
「ふぅ。やっぱり、かぁいいなぁーっ!」
みんなを王宮に呼んでパーティーをした翌日。
俺は癒しを求めて弟妹達と戯れていた。
「サニー様、そろそろご出発なさらないと遅刻致します」
「え、もうそんな時間!?」
お、俺から癒しを奪うのかーっ!
いやしかし、学校にも別の
ボク頑張る!
という訳で学校まで幻魔法でワープをして移動する。
「みんなおはよう」
「あ、サニーくん。その、昨日はお招き頂いて、ありがとうございました」
「おう」
「サニー、お前っていつもあんな美味いもんを食ってるのか?」
「え? まぁ、うん。そうだね」
言われてみれば俺の食生活って、前世からずっと恵まれてるよな。
王宮の食事ももちろん美味いけど、それ以上に乃愛の手料理が忘れられない。
今度乃愛にご馳走して貰おうかな。
「あ! さっくん、みんな、おはよー!」
お。噂をすればなんとやら、ってか。
「うん。乃愛、おはよ……って、うわっ!?」
もはや乃愛に見境はなく、いきなりキスをしてきた。
これが噂のおはようのキスなのか……
「ンフフ、さっくん。昨日は、その、ありがとね。嬉しかったよ」
「え?あぁ、あのことね」
「朝からお熱いわね。なになに、何の話?」
ルナってこういう話にがめついんだよなぁ。
「私と戦って勝っただけの話ですわ」
「あ、ロザリアいつの間に。おはよう」
「おはようございますサニー様」
「戦い……ねぇ。なるほどぉー。ノルン、羨ましいわねぇ」
「わわっ!?ちょ、ちょっとルナーっ!」
うちの女性陣は恋バナ大好きかよ。
ロザリアも違う方向でやる気を出してきたし。
……これは早いとこ身を固めて置かないとな。
「それにしてもみんな元気だね。昨日はあんなガッチガチに緊張してたのに」
俺の一言を聞いた瞬間、話に参加していなかったリックやアルを含む
もちろんロザリアは除かれるけど。
「ロザリアだけは落ち着いていたよね」
「次期国王の妾としては当然の事ですわ」
え、なに?妾なんてヤだよ。
取らねえからな。絶対取らねえからな。
「ブレないな、お前も」
「私、それなりに気に病んでいるのですわよ?」
「フラれたんだし、当然だよな……」
「一番で居られなくても良いから愛しい殿方の傍にありたい。そう思うのが恋、というものですわよ」
そうなのか?
逆の立場の俺にはわからない。
わからないけど、やっぱりロザリアは強い人なんだろうと俺は思う。
俺がロザリアに感心していると、ルイ先生が教室に入ってきた。
「はいー、皆さん席に着いてくださいー」
ルイ先生の号令でみんなバラバラと各々の座席に散っていく。
「皆さんおはようございますー」
『おはようございます!』
よし。今回は俺もハモれたぞ!
一人だけ仲間はずれなんてもう懲り懲りだ。
「それで皆さんー、遠足はどこに行くか決めましたかー?」
「先生、みんなで話し合ってエルグランドパークに決まりました。もう予約してあります」
「エルグランドパークですかー。よくチケットが取れましたねー」
「サニー君が知り合いの人に頼んでくれたんです」
「そうですかー。お手柄ですねーサニー君」
「ははは、ありがとうございます」
国王クラスの知り合いがいる中級貴族ってどうなのよ。
「それにしてもー、エルグランドパークなんて懐かしいですねー」
「先生は行ったことがあるんですか?」
「行ったと言うよりー、先生は設営に立ち会ったんですよー。幻魔法の使い手としてー」
『ええっ!?』
マジですか。
ただモンじゃないとは思っていたけど、実はかなり貴重な戦力の持ち主なのでは?
「先生って一体……」
「ウフフ。それはー、ヒ・ミ・ツですー」
可愛いな、おい。
あ、アレ?アルベルトさん?
顔が赤いんじゃあ、ありませんか?
これは面白そうだな。フッ。
「日程は五日後で合っていますよね?」
「はいー、ではその日に現地集合という事にしましょうかー」
『はーい』
という訳で五日が経った。
俺は弟妹達と戯れた後、いつもより早く家を出て、ワープで乃愛の家に飛んだ。
何故かと言うと、乃愛の宿屋は遊園地から近いし、今日はお弁当を作ってくれるらしいので荷物持ちも兼ねているからだ。
荷物持ちと言っても、異空間に仕舞うだけなのだがね。
あと、一緒に散歩をしたかったというのもある。
なんだかんだでこの世界に来てから二人きりになる事は少なかったしな。
「乃愛ーっ、いるー?」
「あ、さっくん!いらっしゃい。ウフフ」
「ん?どしたの?」
「んー?今日で初めて、さっくんより先に待ってられたから嬉しくて」
「あー、いつも俺が先に着いてたしな」
「ホントに、ワープとかして来てたみたいだったなー」
「今日は実際にワープして来たんだけどね」
「えっ?」
あれ、言ってなかったっけ?
そういえばワープを見せたのはエマさんと父上くらいだな。
仕方ないから乃愛にワープをやって見せた。
「すごーい!さっくん、ホントに凄いよぉー!」
「あはは、ありがと」
「私なんて、幻魔法は回復魔法しか使えないのに……」
「今なんて?」
回復魔法だと!?
お、俺はほとんど使えないんだけど。
せいぜい俺に出来るのは、切り傷を塞ぐ事くらいだ。
何でも無詠唱でやろうとしていたから、回復も無詠唱でしようとしたんだけど、知識が希薄でイメージがてんで湧かなかったんだよね。
そういう意味では詠唱も一理あるな。
このことについては乃愛に正直に話した。
「へぇー、さっくんって何でも出来るって思ってたけどそうじゃないんだね」
「そりゃ、俺も人間だからな」
「料理以外で初めてさっくんに勝てた気がするよ」
「そうだ。料理といえば、弁当は?」
「あ、ちょうど焼きあがった頃だね」
そう言って乃愛がトテトテと厨房に駆け込む。
俺も後を追うと、美味しそうなパンの匂いが広がってきた。
「食パン焼いたの?」
「うん。耳の部分はとってサンドイッチにしようと思うの。さっくんは好きな具材ある?」
「じゃあ卵とレタスを」
「りょうかーい!ちょっと待っててね」
乃愛はテキパキとサンドイッチを作っていく。
料理をしているエプロン姿も映えるなぁ。
すると片手間にパンの耳も調理し始めた。
「耳の部分も使うの?」
「うん。せっかくだからオヤツも作ろうと思って」
乃愛はパンの耳を一口サイズに切り分けて砂糖をまぶし、ココナッツオイルに近い物で揚げて、あっという間にラスクを作ってしまった。
「おおー、ラスクじゃん!」
「エヘヘ、さっくん甘いもの好きだもんね」
そう、前世では乃愛にクッキーやチョコレートで色々なオヤツを作って貰っていた。
甘いもの全般というよりは、乃愛の作るアレンジされたものが好きだったのだ。
これは俺の料理スキルもフル活用せねばな。
「じゃあ俺はスープでも作ろうかな?」
「さっくんの作るスープ……飲みたい!」
「そっか、ちょっと台所借りるよ」
「うん。楽しみにしてるね」
「あいよ」
さて、なにを作ろうかな?
さっきのレタスが余ってるみたいだし、それを使わせてもらおう。
まず、お湯を沸かして、その間にレタスの外葉を適度な大きさにちぎる。
これをお湯に入れて、沸騰したらレタス投入!
しんなりしたら卵を二個くらい回し入れる。
最後にごま油と塩コショウで味付けをして完成!
五分で出来る簡単スープです。
どんなモンだい?
「わぁーっ!いい匂い」
「俺だって料理を練習してたんだよ?」
「レタスいっぱい余ってたから助かったし、とっても美味しそう」
「そりゃ良かった。あ、そろそろ行かないと」
「うん、そだね」
俺はスープを文字通り魔法瓶に入れて、他の弁当ごと異空間に仕舞い込んだ。
乃愛はまた驚いていたからそれも説明しながら仲良く目的地まで歩いて行った。
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