第7話 神の真意

コピコがいなくなって1週間。思えば良い相棒だった。いつもロバートを励ましてくれた。研究を始めた時に突然現れたコピコ。正式な研究員として採用したわけでもなく、履歴書もなければ経歴も知らない。いったいコピコとは何者だったのだろう。


ロバートが知っているのは、コピコという名前の由来だけだ。複製を作るスペシャリスト。コピコはそういう意味のあだ名だ。そもそも生命とは遺伝子の複写によって世代を重ねて行く。コピコは特別な技術を持った科学者でもあった。


ロバートは自分が発見した「秘密の言葉」を思い出そうとしていたが、いまはもう、どうでも良くなっている。それよりも、一つの時代が終わったと感じ、その感慨に耽っている。そして、ぼんやりと余生をどう過ごそうかと思いをめぐらせていた。


その時、神の言葉が聞こえた。


「ご苦労様。よく頑張ったな」


ロバートは神の声にも驚かない。ありがたいとも思わない。俺は人間だ。命ある存在だ。別に神に従う必要などなかったのだ。ロバートはそんなふうに思っていた。


「神様、ひとつだけ質問していいですか?」


「遠慮なく」


「神様にとって人間とはなんですか?」


「おお、今頃そんなことを。人間は私のおもちゃだよ。飼育し、観察し、楽しませてもらっているさ。いや、人間は本当に面白い。本当に」


ロバートは怒りを通り越して呆れ果てた。これが神の真相だ。もしかしたら「秘密の言葉」よりも、この神の発言の方が重大かもしれない。現代科学の常識に反して神は存在した。しかし、神はトンデモナイ奴だった。まあ、世の中はそんなものだ。人間だって同じようなものだろう。


生物学者は生物の進化を予測できるだろうか。社会学者は社会の進化を予測できるだろうか。すべては偶然だ。世界はサイコロと同じで偶然、つまり確率の支配する世界でしかない。



すべての行為は遊びである。

すべての遊びに共通するルールは楽しむことだ。

さあ、毎日を存分に楽しもう。




ロバートはそんな言葉を思い出した。そうだ、コピコを探し出そう。何としても「秘密の言葉」を取り返さなといけない。そう決意して、ロバートはニヤリと笑った。その笑顔は少年のように無邪気で、少し不気味だった。


<ロバート物語:完>

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ロバート物語 白井京月 @kyougetsu

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