lost heavens try
@keihosida
第1話 守るべき物
第1章 守るべき物
部屋の中はいつも以上に透き通った美しい空気に満ちていて、誰に見せても美しい!の一言が返ってくる、そんな部屋はメイドのリズと巻が掃除してくれたのだが、まるで自分が掃除したかのように振る舞う平均的な身長だが、見るからに美青年と呼ばれるだろう男¨イギリス国軍部技術開発局副局長、ランス・アッシャーはソファーで寝そべりながらメイドたちが作る夜ご飯を待っていた。
ランス邸にいるメイドはイギリスの中でも指折りの名門大学を出ている者しかなれない、つまり、有能な者しかなれない、ということらしい。
そんな彼女たちが作る料理はイギリス内で作れる人を探しても見つからないほどである。
ランスはソファーで寝そべりながら、ワインを飲み、今まであった対テロ戦争、第3次世界大戦の報告資料を読んでいた。
西暦2030年12月28日、後もう少しで2030年は終わる......
2020年代から始まったテロに対する戦争、第3次世界大戦、人類の約4割はこの戦争で命を落とし、当時技術開発局入局直後だったランスも技術者の一人としてこの大戦に参加した。
彼は資料を読み進めると信じられない内容を目にした。
世界はテロ支援国と現世界秩序を守るために参加した連合国側と二分されランスたちイギリスは連合国側について戦ったが......結果はテロ支援国側が優勢で長期化する戦争は
一旦休戦ということになった。
その後も各地で細かな紛争が起こり、連合国所属国は次々とテロ支援国の属国となっていった。
イギリスもその例外ではなく東ヨーロッパに近年出来た国ヘンギスによって降伏に追い込まれた。
「イギリスが降伏......?」
彼は寝そべっていたソファーから腰を上げてワインを一口口に含み飲み込むと、
しばらく目の前の風景をぼーっと見た様に動かなかった。
「イギリスがテロに降伏....」
あごに手をあて、考え込むようにもう一度つぶやくと、力尽きたようにソファーに座り込み
再び資料を読み始めた。
イギリスはヘンギス国奥地にて戦闘を開始、当初戦闘はイギリス優勢だったが、ヘンギス国
にテロ支援国サイドの援軍が到着し、形勢逆転、イギリスはヘンギス国から撤退、一方ヘンギス国はイギリス領地に進軍し、40パーセント制圧完了、英国政府は明日にも降伏宣言する見込みである。
彼は資料を読み終えると、再びあごに手を当て考え込んだ。
「確か、ヘンギスは科学技術もイギリスよりは圧倒的に遅れている、戦ってイギリスが負けるはずはないと思っていたのだが....そうか、増援か....やはり数には勝てないか....」
彼は自国の敗戦という事実より自分たちが開発した物が数に負けるという事実をうけ入れることが出来なかったのである。
「イギリスが敗戦した...ということはイギリスはどうなる?技術開発局は?ヘンギスはイギリス降伏後何を要求してくる?まさか我々が開発途中のアレが奪われるんじゃ...」
彼は最悪の結果を考え続けるもどれも解決策が思いつかない。
何も考えが生まれないから頭を掻きむしり、ボトルに入ったワインを更にグラスに注ぎ
一気に口の中に流し込んだ。
「旦那様!技術開発局のアルトリウス様から、お電話が来ております、」
メイドの一人リズがキッチンから呼んだ。
ワインの一気飲みで少しよっていたランスだが、技術開発局局長、アルトリウスからの電話で酔いが覚めたのか、顔色は赤みかかった色からイギリス人紳士らしい、美しい白色に戻っていた。
「分かった、ありがとうリズ、今行く。」
彼は、素っ気ない一言を放つが、リズは顔を赤らめ、ドレスの端を掴んで主人に対して深々とお辞儀した。
ランスはリビングから書斎に繋がるドアを開けて、彼の仕事部屋である、
書斎に移動し、電話を取った。
「はい、お電話変わりました、アッシャーです、局長こんな真夜中に電話をかけてくるなんて、あの件についてですか?逆にそうじゃなかったら後で良いですか?私も何かと忙しい
んで、たいしたことじゃなかったら怒りますよ?」
電話を受けながらランスは書斎にある資料を探し始めた、本棚を見ると、右から順にイギリス歴史、イギリス技術史、イギリス地学史、イギリス政治史、とイギリスに関する歴史shが並んでいるが、その横に何故かヘンギス史の本がある。
ランスが買った訳ではなかったため、彼は頭を押さえながら最近の自分を思い返した。
「ドイツ技術史、日本技術史、イタリア技術史。.....」
最近彼の買った本の名前を唱えるがヘンギスの本を買った覚えは無かった。
そもそも、敵国書物は個人の保管は許されておらず、自分の本棚にこの本があること自体が
あってはならないことであった。
そう本に意識が向かっている間も局長は電話越しからいつものように仕事の愚痴をこぼしてくる。
イギリス国郡部技術開発局局長アルトリウス・キングスレイ、イギリス有数の名家、キングスレイ家の当主で、イギリスで一番の技術者だ。
細身で背丈も2メートルに達するか達しないか位の大男で、顔も目は大きく鋭く、鼻は高い、
そして睫毛も濃く、ランスもいわゆるイケメンなのだが、アルトリウスは近所の女性たちにとって違法なほどかっこいい違憲面と呼ばれているらしい。
そんな英国紳士は日常生活でもパーフェクトなのだが、副局長のランスにだけは愚痴をこぼしたりと、普通の人間らしさを見せる。
アルトリウスの愚痴を聞き流しながら、ランスは再び本棚に目を向ける。
「ヘンギス史...ヘンギス史¨確か一般常識上ではヘンギスはイギリスの植民地支配から解放され独立してからまだたった30年足らずの国だったはずだ....」
歴史的にも日は浅いはずだが、本は辞書並みの厚さだった。
「すまない、アルトリウス、君の話に口を挟むのは少し気が引けるが、ちょっと良いかな?」
持っていた本を書斎の机にゆっくりと置き、アルトリウスから電話越しからだが、うなずく雰囲気が感じられたので続けて話しかけた。
「ヘンギス、今イギリスと戦争中の国あるよな?あの国って、ヘンギスって呼ばれる前はなんていう国だったか覚えているか?」
電話越しのアルトリウスはしばらく間を置き話し始めた。
「あぁ、覚えているよ。ヘンギスはイギリスからの植民地支配を受ける前はドイツの一部だった、第二次世界大戦後、その一部はイギリスに占領され約30年前までその支配が続いていたわけだが、ヘンギス分離主義組織の長が独立をイギリスに要求してきて独立した。
とても小さな国だがね...」
ランスはアルトリウスの話を聞き終えると、ため息をついた。
「そうか、なるほどな¨」
ヘンギスに関する話を聞くとまた一つ新しい疑問がランスの頭の中には浮かんだ。
何故、アルトリウスはそんなことを知っているのだろうか....?
そんな疑問が浮かびながらもランスは話を続けた。
「それで、ヘンギスについて更に話を続けるが、アル、イギリスとヘンギスの戦争、終わりそうだっていう報告資料君はもう読んだかい?」
その話をした途端に、電話語しからアルトリウスのうなだれるようなため息が聞こえてきた。
「君もその資料、読んだんだね...」
アルトリウスはそうつぶやくと、先ほどとは打って変わって険しい口調で話を続けた。
「そう、イギリスはヘンギスとの戦争に敗北し、降伏することになる、その会議がちょうど終わってね....その結果を伝えるために君に電話したのだよ。」
「それで結果はどうなったんだ?」
ランスは息をゴクリと飲み聞き返した。
「うむ...君の予想ときっと同じだ、降伏が決まった。それでなんだが...」
「どうした?」
ランスは恐る恐る聞き返した。
「技術開発局で開発中の例のアレだが、あいつを降伏する場合の交換条件としてヘンギスのやつら、要求してきたんだ....」
アルトリウスは先ほどより更に険しい声で話した。
例のアレ...技術開発局がここ数年対テロ戦争のために開発してきた新技術...
grand saberシステム...この兵器を公使すれば、一撃でその戦場を焼け野原に出来るという新ロボットシステム...対テロ戦争を重ね各国の軍事設備は格段と強化され、2020年第一世代grandシステム the Gardnerが実装され戦争の展開は急変した、
連合国有利がテロ支援国有利に変わっのだ。
その後何度も連合国側も強化を重ねついに完成間近まで来た grandシステムthe saber、
その技術が降伏の交渉の材料にされる...?
ランスは思わず書斎の床に崩れ落ちるように座り込みアルトリウスに聞いた。
「その、ヘンギスに、the saberの技術を渡すことは決まってしまったのか?何か他に交渉できる他の材料はないのか?」
「無い、イギリスにとって彼らを納得させる手段はthe saberシステム技術をわたすことしか、無い。」
アルトリウスは静かにその真実を告げたが、今度はひそひそとまた何かランスに語り始めた。
「でもな、奴らの要求はthe saberシステムの技術だ、それを防ぐには技術開発局でシステムをロックしてしまえば奴らは使えない?だろ?だから、俺たちがするべきことはヘンギスに技術を渡すことじゃない、開発局をイギリスが降伏した後に奴らに管理させないことだ。例えシステムをロックしたとしても、やつらが開発局を牛耳ってしまえばこちらも解除するしかないからな。」
「それで、開発局を守るにはどうすれば良い?」
ランスは続けて聞いた。
「明日にも正式に降伏が決定し、ヘンギス国の大臣が英国に来るだろう、それからだが、その大臣のお付きの者がこの開発局の派遣員になるだろうから、そいつと交渉するしかない
だろうな。まあ、そういうことだ、またな。」
「ああ、また。」
アルトリウスは愚痴をこぼしているときと同じテンションで、ランスがいつもの様に素っ気のない返事をして電話を切った。
窓から光が差し込んだ、アルトリウスとの話に夢中になっていたせいかもう話し始めてkら5時間も経過していて、日が昇る時間になっていた。
2030年12月29日午前6時、イギリス降伏まであと6時間に迫っていた。
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