最終話 もう一度


 急に世界が真っ白になり、数日前に見た景色と全く同じ空間に来た。その空間を歯向かうことのできない力によって漂い、元の世界へ繋がっていると思われる、丸い穴に吸い込まれる。そして、あの理不尽な世界の一角に放り出された。


 自殺しようとしていた時に訪れた展望台のフェンス前。数日前と何一つ変わらない風景が眼前に広がる。時計を確認すると、時間は20時を過ぎた辺りであった。


「え......龍輝⁉︎」


 背後から聞き覚えのある呼び声がする。懐かしい記憶が蘇り、その声の持ち主が、友恵であることがわかった。振り返って、彼女と目が合うと、俺は彼女を抱きたくなった。彼女も同じ心境だったようで、涙を堪えながらこちらへ走ってくる。俺はここまで愛されていたのか。こんなにも必要としてくれる人がいるのか。そんなことを考えると、こんなところで死ぬわけにはいかないなと思った。


 友恵と抱き合いながら、たくさんの話を聞かされた。友恵は自殺をするために、ここへ来たそうだ。それが、俺という存在の必要性を証明していた。


 ミルのおかげで、俺はこうして生きているのかな。そう考えると、なんだか悲しくなる。でも、それが彼女の幸せだと言ったのだし、俺は彼女を守ったのだ。悔いはないと感じるには何かが抜けていた。確かな記憶がある限り、埋まることない大きな何かが。


 それがなんなのか、今の自分ではわからない。生きていく上で、それを知ることができるのならばいいのかな、なんて気楽な考えを夜の暗さに隠蔽する。


「ごめんな。友恵。1人にさせて」


 俺はいろんなことが重なり、つい涙を流してしまった。涙は美しい輝きを放つが、空に溶けていく。これが今の俺を表現をする精一杯の言葉であった。

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死にたくなったら異世界へ Re:over @syunnya

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