ミル


「私がこの町を守る!」


 言葉では何度だって言えた。しかし、現実はそんなに甘くない。幼い頃からモンスターを倒し、みんなを守るという夢があり、日々稽古に励んだ。努力すれば報われると思っていた私は、毎日のように剣を振るい、モンスターを切り刻み続けた。


 10歳の誕生日を迎えてすぐに、星3のモンスターを討伐できる資格をもらい、15歳になる前には星7モンスターとも対等に渡り合えるようになっていた。


 ある日、近くの村に星9のモンスターが現れ、その討伐隊として、私の両親が選ばれたのだ。私は両親が羨ましくて、ついてきてはいけないと言われたのにもかかわらず、私は討伐隊に紛れ込んだ。


 私だって戦えるのだ。少し加勢するくらいなら、全然大丈夫だろうと思っていたのに、ターゲットである不死鳥フェニックスを目の当たりにして足が震える。星7のモンスターとは比べものにならないほどの魔力を溢れさせ、威圧的な目に殺意を含めて私を見つめる。


 不死鳥フェニックスはいつでも殺せるよ。とでも言わんばかりに羽をばたつかせた。こいつが叫ぶと、炎が私の近くにいた小隊を襲う。


 たった数秒のうちに、何人もの命が燃え尽き、そこから瞬く間にここら一帯は戦場となった。


 仲間の死を悔やんでいる暇などなく、炎が縦横無尽に駆け回り、それを避けるので必死で、攻撃する余裕すらない。なんとか攻撃を与えても、怯みもしなければ、傷をつけることすらできなかった。


 私は無力で何もできないと絶望するしかなかった。今まで倒してきたモンスターも、周囲の助けがあったから勝つことができていたのかもしれない。


 余計なことを考えたせいで、敵の攻撃に気がつけなかった。後ろから槍の形をした炎が迫ってきていたのだ。


「ぐふっ!」


 私の前に誰かが立ち塞がった。そのおかげで槍の勢いは収まり、私は死から免れることができた。


「なんで来たんだよ......」


 お父さんは腹に槍が刺さったまま話す。炎がじわじわとお父さんの体を奪い取っていく。


「ごめんな、守ることしかできなくて」


 そう言い終えると、力なく倒れ、そのまま炎に飲み込まれていった。


 守ることしかできないって、別にそれでもいいじゃん。守ることができればそれでいいじゃん。どうしてそんなこと言うの? 戦場から出るまで、ずっとそのことを考えた。


 結局は、自分が守られていたわけだ。お母さんもこの戦いで亡くなったらしく、私は1人になった。私は誰かどころか、自分すら守ることのできない弱い人間であることに気がつく。


 18歳になり、今まで遭遇したモンスターの中で最も強いと言われるモンスターが村に現れた。私はそれを倒す討伐隊として村へ向かった。その敵を倒すには禁忌に触れなければならないという結論に至った時点で、すでに仲間の過半数は死んでいただろう。


 私は生き残っている中で唯一、憑依魔法が使えるということで、召喚された人の体を乗っ取って、そのモンスターを倒すことに成功した。やはり、ここでも犠牲のおかげで私は生き長らえることができた。




***




 龍輝とコラトリムを倒した時に、私はお父さんの言葉の意味を知ることになる。そう、たとえ誰かを守ることができても自分が生きていなければ意味はないし、お父さんは私がお父さんが大切な存在だと知っていたのだろう。


 たとえ他人を守れても、自分自身を守れなければ意味がないということ。それから、1人では自分も仲間も守ることなんてできなくて、助け合うことが必要不可欠なんだということ。


 それを気づかせてくれた龍輝は、私にとって大切な人だ。彼がいない世界にいるなんて、考えただけでも怖い。だから......。


 この恐怖から、私を守って。


 わがままかもしれないけど、もしも、龍輝が私の幸せを望むなら、幸せである今、私を殺して。

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