第10話
翌日。
私はうなされながら起床した。携帯の時計を見れば正午。
頭が痛くて体が重い。何も食べていないのに吐き気があり、ゆっくり起き上がると立ちくらみがした。
なんとか冷蔵庫まで行き、額に手を当ててペットボトルの水を飲み干す。
…生まれて初めての二日酔い。
昨日は結局、終電近くまで呑んでいた。二次会で行った居酒屋では別の参加者と隣になり、趣味の話だったり仕事の愚痴だったりをひたすら聞いていた。
他人とコミュニケーションを取るのは本当に久々だった。正直めんどくさくなる瞬間もあったが、それよりもなにがしかの集まりに参加したというのは自分にとって大きな変化だった。
どこまで続くか分からない人生だったら、こんなことは絶対にしなかったただろう。
先があるというのは、先に何かを望む人にとっては希望で、何もない人にとっては絶望だ。
掌からじんわりと温度が伝わる。どうやら二日酔いだけでなく、熱もあるらしい。
私は水で乱暴に顔を洗うと、もう一度布団に潜り込んだ。浅い呼吸を繰り返す自分の胸をじっと見る。
私は今、生きている。熱を出してまでも。
幸い寒気はそんなにないので、寝ていれば下がりそうだ。その一方で、これからはこうやって体調の悪い期間が長くなっていくのかもしれないと思った。
昨日参加していた人の話を思い出す。色んな人がいたが、みんな頑張って生きていた。好きなものだったり楽しみだったりを自分なりに見つけ、立ち向かっていた。
最初に私は、ここなら内側に入れるかもしれないと思った。でもそれは思い違いだった。
消えていくことを望む自分なんかよりも遥かに立派で、眩しかった。
みんな一人一人の輝きがあるなんて、歌詞なんかでよく歌われている。私はそれを冷めた目で見ていた。少なくとも自分に輝きなんてなく、それは周りから見てもそうだったと思う。
でもそれはもしかしたら、私以外の人には当てはまっているのかもしれない。全員ではなくとも、向き合って生きている人達が社会を回していて、それが私には眩しいのだろうか。消え行く私が輝いても仕方ないので、どうでもいいといえばどうでもいいのだが。
彼ら彼女らの一端に触れることができ、私はそんな風に考えながら眠りについた。
再び起きると窓の外はすっかり暗くなっていた。充電器に差し込んだままの携帯がピカピカ光り、私は何気なく開いて画面を確認する。
インターネットで知り合った人達からのメッセージに紛れ、メールが一通。
その差出人を見て、私は呼吸が止まった。
『全く連絡来ないけど生きてる?』
唯一の肉親で、立派に生きている弟からだった。
サイドストーリー 沙耶 @cereja_610
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