冬に手向ける花
鳥ヰヤキ
冬に手向ける花
女王陛下万歳! 女王陛下万歳! ……遠い城下から響く賛美の合唱。私は仕事の手を止め、残響の向こう側を見つめる。この通りは静かだ。歩ける者は皆祭を見に行って、残ったのは私のように手足が不自由な者や、誰も連れて行ってくれない者達ばかり。
「……女王陛下万歳!」
ぱちん。呟きながら、手元の薔薇の花を切り落とす。祭の最後に女王様を乗せた馬車が大通りを駆け抜ける。その時にばら撒くための薔薇を切っている。
ぱちん。赤い薔薇の花は、彼女が最も愛した花。気位が高く、浪費家で、傲慢な女王を象徴する花。遠い小国から嫁いで来た、何もかもを捨てて来た、孤独な女の――。
ぱちん!
棘が指に刺さる。滲んだ血は朱色の雫となって、薔薇の茎を滑る。私は微笑み、それを拭うことなく薔薇の束の中に潜り込ませた。
お飾りの女王様。若くして人生の冬を迎えた、悲しく虚しい生贄女!
貴方は私の希望であり、私の生きる理由であり――そして誰よりも愛おしい人。私はここにいるわ。いつだって――。
(終)
冬に手向ける花 鳥ヰヤキ @toriy_yaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます