第9話 迷惑な追跡者
ララは半袖のポロシャツにジーンズって感じのラフな格好をしていた。いつもと違って、髪はツインテールにしておらず紺色のキャップをかぶっていた。多分、Ninjaのキャップに違いない。あれはオートバイのネームであって時代劇の忍者じゃないんだけど、僕は怖くて指摘したことがない。ミサキさんはホットパンツにTシャツで、真夏みたいな格好で、肌の露出が多くてドキドキしてしまう。
僕は見つからないように、展望台の手すりから距離を取るべく後ずさりをすると誰かにぶつかってしまった。
「ごめんなさい」
後ろを振り向いて咄嗟に謝ったんだけど、そこにいたのはえんじ色のジャージ姿を着ていた翠さんだった。胸元には白い布地に〝よしのみどり〟と書かれている。そしてその隣には濃いグリーンのTシャツに迷彩柄のカーゴパンツをはいている五月がいた。首にはゴツイ野戦用の双眼鏡をぶら下げている。これは多分、勝間光学のレア製品だ。
僕はもうどうしていいかわからなかった。唯々、その場で固まっていた。
「あ、偶然ね。私たちの事は気にせずに、あんたはあんたで楽しんでちょうだいね」
五月はそんな一言だけで、知らん顔をしつつ階段を降りていく。翠さんは笑いながら五月の後を追った。翼君は何も気づいていないようで、カルスト台地の景色に見入っているようだ。これはこれでホッとしたんだけど、どうしたらいいのかさっぱりわからない。僕たちは、最初からしっかりと監視されていたに違いない。好奇心からなのか、それとも意地が悪いのか。何でこんな事になっているのか信じられない気持ちでいっぱいだった。
「これ、いいな。小さいけどよく見える。ニコンだし結構高いんだろ?」
「そうでもないよ。中古品を5000円くらいで買えたんだ」
翼君が双眼鏡を返してくれた。
「フリマ? それともオークションとか?」
「いや、正蔵兄ちゃんの友人から譲ってもらったんだ。程度は最高だったから、良い買い物ができた」
「それは良かったな」
「うん、そうだね」
双眼鏡の話題とか、本来はデートの時にするものじゃない気もするんだけど、僕の好きな事を翼君と話しているのはすごく楽しかった。
「なあ涼。そろそろお昼にしないか」
「うん、そうだね」
僕たちは展望台から降りて、すぐ傍にある食堂を覗いたんだけど、席はいっぱいで食券を買う列もできている状態だった。
「人がいっぱいだね」
「そうだな。どうする? 涼」
混雑している食堂を眺めながら翼君が聞いて来た。これはまあ、ゴールデンウィーク中だから仕方がない。ここで並んで食べるか、それとも下まで降りて食べるか、ちょっと考えてしまう。翼君もどうすればいいのか悩んでいるみたいだった。
その翼君の腕をちょんちょんとつつく人がいた。大きなバスケットを抱えた、ジャージ姿の翠さんだった。
「あの? お弁当をたくさん用意しておりますので、ご一緒しませんか?」
「え? え? え?」
「ですから、ご一緒しませんか? お昼ごはん」
翼君は本当にびっくり仰天しているみたいだった。突然、そんな事を言われたら誰でも驚くと思う。しかも、相手は僕の専属メイドになった翠さんなんだから。そして、彼女の後ろには五月とララとミサキさんもいたし。
「ああ。はい。お願いします。です」
しどろもどろになりながら返事をしている翼君だった。
僕たちは結局、みんなと一緒に昼食を取る事になった。草原の上にブルーシートを敷いて、そこに皆で座る。真ん中に、10人分以上あるんじゃないかって位のお弁当が並べられた。まるでお花見にでも来ているかのような、凄く豪勢なお弁当だった。翼君は、このハーレム状態に緊張しっぱなしなようだ。まあ、超グラマーな高二のミサキさんは露出が多いホットパンツだし、ララは小学生体形だけど金髪碧眼で美形だし、迷彩服の五月は元気はつらつの健康美人だし、ジャージ姿が微妙だけど翠さんは大人の落ち着いた雰囲気の美女だし、僕は女装しているし。翼君はある意味、美女に囲まれた状態であることには変わりはない。僕はと言うと、もうバレてるって事が確定していたので吹っ切れてしまっていた。
僕と守護者の物語——異星人侵略バトル学園編 暗黒星雲 @darknebula
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