海のしずく、花のえくぼ
カゲトモ
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「こんばんは」
かろん、と開いた扉。そこにいたのは緩やかに波打った長い髪の美人だった。
「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」
彼女は小さくこくん、と頷くとゆったりとした足取りでこちらへ向かう。淡い色のコートを着ているからだろうか、それとも色白だからだろうか、彼女に儚い印象を持ってしまう。支えなければ手折られてしまいそうな感じ。正面に座った彼女は、色素の薄い瞳で俺を見る。あぁ、この人はハーフなのか。
「とても素敵なお店ですね」
そう言ってにっこりと微笑む。どうしてか、初めて来店されたお客様だと言うのに、どこか見覚えがある感じがした。もしかして、何処かの女優さん? 桜小路ありあの事もあるし、有名人が来てくれることもあるのかもしれない、なんて。自惚れか。
多分、雰囲気の似ている人を知っているのだろう。今、誰かは思い出せないけど。
「あまりカクテルは詳しくなくて、なにかオススメをお願いできませんか?」
「かしこまりました。失礼ですが、お酒はお強い方ですか?」
「弱くはないと思います」
「では甘いのと辛いの、どちらがお好きでしょうか?」
「甘い方が好きかしら」
いくつか好みの質問をして彼女にピッタリの一杯を考える。初めてのお客様の“オススメ”のオーダーはいつまで経って緊張する。だって飲んでもらえるまで正解が分からないから。
「お待たせいたしました、ベイ・ブリーズでございます」
彼女に出したのは赤いロンググラスのカクテル。甘くてフルーティで、そんなに強くないカクテルを選んだ。酒に強いかどうかもちゃんと分からないから。
「綺麗なお酒ですね。どうしてこれを?」
どうしてって。
「貴女の美しい唇と同じ色のカクテルですから」
なーんてね、我ながらクサいってーの。
「はっ」
え?
「いつの間にそんな恥ずかしいこと言えるようになったのよ?」
突然目の前の美女の顔が歪む。
え? なに、これ、どーいうこと?
「あの泣き虫そうちゃんがねぇ」
「え」
泣き虫・・・そうちゃん? 待て待て待て、え、知り合い? この人知り合いなの!? こんな美人に知り合いいたっけ?
「私のこと、思い出せないの?」
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