第17話
…匂はずも匂ふが如き花椿風に匂ふか鳥辺野(とりべの)辺り…
匂うという言い方について、実際に香るものと観念的に感じるものがあるとするなら、観念的な方がむしろその本質を強く感じるものと表現できよう。
そう私が響子に抱くものは妄想であって妄想に非ず。風ひとつあればたちどころに椿の花が匂い立つような、この世に有って異次元の気配を確かに感じた気がしたのだ。
未来をすり減らして長く生きると、事実であっても過去は幻の様でもある。然して現、幻の区別は曖昧になりいや同調して、私を観念的に動かしているような気がする。
待てよ。混雑していたバスの中は無音で、在ったのは自分の心拍の音だけだった。 すると、辻に有った椿の花は現のものか……。さては、六道の辻あたりから飛んで来た幻を見たものだろうか。
ひょっとしてあの娘は、鳥辺野に棲む狐さん……。
短編小説『此岸椿』 桑原縛逐 @baku-novel-333
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編小説『此岸椿』の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます