第10話

 聖二は口火を切った。

続いて、女性が名乗る。

「春野みかです。14歳」

 自分と同じくらいだと思っていた彼女が、年下であることに聖二は驚いた。

制服ではなく私服を着ているからそう見えたのかもしれない。

そういえば、彼女は学校には通っていないのだろうか?受験シーズンのただ中すぐAO入試に受かった自分はともかく、普通の学生はまだ制服を着ているような時間帯だ。

深く突っ込むのも野暮な気がしてきたので、次に進む。

「で……」

 無言のうちに大柄を促す。久志の件で八つ当たりをしてしまったので、少なからずばつが悪い。その気持ちを知ってか知らずか、へらへらしながら大柄は頭をかいた。粉雪の如くフケが落ちてきて、喫煙所の床が少し白ばんだ。

「え、えーと。宗和一寿っていうんです。古臭い名前ですよね。あ、17歳です。へへ」

 みかはぽかんと口を開けて宗和を見ている。今になって蛇のタトゥーと話し方のギャップに驚きを覚えた様子だ。

「宗和くんっていうのか。さっきはごめんな、気が動転して八つ当たりしてしまった」

 宗和たちが久志にカツアゲを行ったのは事実だが、久志が化け物になったのは彼らのせいではない。パニック状態にあったとはいえ、胸ぐらを掴んだりと申し訳ないことをしてしまった。今後協力するにしてもそこは謝らねばならない。

聖二の謝罪を受けた宗和は、探し物でもするかのように目を泳がせた。

「いや、わ、悪いのはおれだし。臥雲くんが謝ることはないんじゃないのかな」

 かえって困惑させてしまったらしい。そこまで言われてしまうと引き下がるしかない。

気持ちを切り替えるべく、聖二は深呼吸する。いや、正確には切り替えたかったと言うべきかもしれない。頭の中で、表情が能面のように凝り固まった久志がこちらを見つめている。当面は気分の切り替えなどできそうにない。 

「いつまでもここにいるわけにはいかない。これからどうするか考えよう」

 それでも、状況は切り替えなければならない。聖二は二人を勇気づけるべく、小さめに手を叩いた。

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逆走の逆走による従走のためのパンデミック @aihara

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