第6話 白の天使

「テメェ、何横から邪魔してんだよ!」

「あんたバカ? だれが一対一で戦うって決めたのよ。私たちは二人で一人、アリスのパートナーは私よ」

 

 ―― アリス……あなたに最愛のパートナーが出来ますように…… ――


 ……いいよね、今だけは。

「行くよミリィ」

「えぇ、行くわよアリス」


「リリー!」

「ハイです!」

 リリー達精霊は本来実態を持たない。今私達に見せているのはあくまでもイメージで具現化された姿にすぎないのだ。だから姿を消したり必要に応じてその形を変える事が出来る。

 そう、今の私の背中に生えた翼のように。


氷結の剣アイス・シュヴェルト

 私の力ある言葉にミリィの持つ剣が青い氷に覆われる。

「やぁー!」

「ちっ」

 ミリィが上段から振り下ろす剣をガイウスが二本の短剣で受け止める。

「なにっ!」

 だが、ミリィの剣に宿した氷の魔法が受け止めたガイウスの短剣に襲い掛かった。


「くそっ、なんだこれは」

 とっさに短剣を離し後方に逃れたおかげで、全身まで氷に覆われなかったようだが、手放した短剣は完全に氷の塊へと変化を遂げている。

「はっ!」

 ミリィは丸腰となったガイウスにせまる。だが、ガイウスもまた凍りついた短剣を素早く消し、再び新しい短剣を具現化する。

「くそっ」

 ガイウスはミリィと剣を交える事を避け、大きく後方へと交代する。


 だけどそんな行動に移る事は私もミリィも分かっている。

「風の聖槍、シルフィード!」

 ミリィの背後から力ある言葉を解き放つ。

 ミリィは私の放った魔法の接触寸前で大きく跳躍、誰もいなくなった空間をガイウスに向けて何本もの風の槍が襲いかかる。


「クソッタレがぁ!」

 ガイウスは必死に飛びかかってくる何本もの風の槍を短剣で向かい打つが、ギリギリまでミリィで軌道が読めなかった事と、予想以上に多かった風の槍に対応が追い付かず、全身の何箇所にも切り傷を受けてその場に立ち尽くす。

「くそガキ共が! 舐めてんじゃねぇぞ!」

 全身傷だらけになっても、依然戦闘をやめようとしないガイウス。だけど……


「舐めてないわよ!」

「何っ!?」

 空中に逃れていたミリィが上空からガイウスに襲いかかる。

 私はミリィがそう動くだろうと分かり魔法を放った。ミリィも私が魔法を放つと分かっていたから空中から次の攻撃に備えた。たったそれだけの事だ。


 キンッ!


「ミリィ!」

 ミリィが追撃を受けないよう魔法弾で牽制する。

「大丈夫よ、アリスの魔法で助かったわ」


 ミリィがガイウスに襲いかかる瞬間、後ろに控えていたもう一人の男が空中にいるミリィに襲い掛かったのだ。


「使用者の意思で動く盾か、面白い魔道具を使うな」

 男がミリィに襲いかかる瞬間、私はさっきまでリリーに預けていた光の盾、ヴァルキリーを使って攻撃を伏せぎ、空中にいるミリィの足場にして後退させた。


「強いわよこいつ」

「分かっている」

 私もミリィももう一人の男の事は警戒していた。それなのに攻撃入られるまで全く気づけなかったのだ。


「ふむ、白の天使か。今日のところはそちらのお嬢さんに免じて引き下がるとしましょう。いずれまた近いうちに伺いますので、その時は良い返事を期待していますよ」

「なっ、何言ってんだ、帰るならテメェ一人で帰りやがれ。俺はこいつらを」

「黙れガイウス、このまま私に殺されたいか」

 ゾクッ

 さっきまで言葉遣いこそ柔らかかったが、今解き放った凍りつくような低い声は、私もミリィも解きかけていた警戒心を再び構え直すには十分な威圧だった。


「じょ、冗談だよ。あんたに逆らうつもりは毛頭ないよ」

「それでは今日はこの辺で失礼します。それではまたいずれ近いうちに」

 そう告げると一瞬夜よりも暗い闇が二人包み、その後はには何一つ残されてはいなかった。


「何なのよあいつは……」

 ミリィもあの男の底知れぬ怖さを感じてしまったのだろう。それにしても……

「知り合いじゃないの?」

 素朴な疑問だが、二人は明らかにミリィに用があったようだからてっきり顔見知りかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。


「知らないわよ、って言いたいけれど、間接的には関係あるみたいね」

 それだけ言うとミリィは何も教えてくれなかった。

 まぁ、私も別に無理して聞き出すなんて悪趣味な事はしたくないし、誰しも言いたくない事ぐらい一つや二つはあるだろう。

 それにあの男は私の事を白の天使と呼んだ、それはかつて私がコーネリアとパートナーを組んでいた時の二つ名だ、それを何故あいつは知っていたの?


「助かったわ、改めてありがとうアリス、それにリリーも」

「どういたしまして」

「ハイです」

 戦闘が終わった関係で、リリーは翼から元の姿へと形を変えている。 


「さて、何であなたがここにいて、何でそんな姿になっていて、何であんな魔法が使えるのかしら?」

 はっ! そうだった。

「えっと……それはその、あれだよ。偶然?」

「どんな偶然よ」

 うん、やっぱり誤魔化せなかった。


「まぁ、いいわ。今日は疲れたから明日聞かせてもらうわ」

「はぁ、って明日!?」

「それじゃね、相棒」

 それだけ言い残すとミリィは私を置いて宿舎へと戻っていった。


「はぁ、この姿を見られたんだから説明しないわけにはいかないか」

「ですね」

 それにしてもこの姿になるのは何年ぶりだろう、人前で変身するのは恥ずかしいからと言う意味もあるが、一番の理由はかつて私のパートナーであった彼女を失った出来事が……ようそう、もう終わってしまった事だ。


「アリスちゃん」

 心配そうにリリーが見つめてくる。

「大丈夫、パートナーと言っても今日の24時を回るまでだよ。私の背中を預けられるのは彼女だけだもの」

「そうじゃなくて、今日のアリスちゃんとっても楽しそうでした。いっぱい危険な目にあってたけどそれでもあの時のように……」

「楽しそうだった? 私が?」

 そんな事あるわけないじゃない、私にそんな資格はないんだから。






「おはようアリス」

「おはようミリィ……ってセ・リ・ス!」

 こらこら、何さらっとアリスの名前を呼んでるんだよ。

「いいじゃないどっちでも」

「良くないわ」

「ふふ、さぁ今日も頑張るわよ、パートナー」

「へいへい、了解いたしました」

 何だかミリィと一緒にいると何時もと調子が狂ってしまう。まるで昔の僕に戻ったように。

「ん? 何パートナーって」

「行くわよセリス」

「おーい、人の話をきけーーー!」



―― Fin ――

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かつて僕は白の天使と呼ばれていた みるくてぃー @levn20002000

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