第5話 パートナー

 強い、セリス……いやアリスとなった彼女は想像以上に強かった。


 今日、学園で一時とはいえパートナーを組んだ彼は凄かった。後方から繰り出される支援魔法は、完璧に私の動きをサポートしてくれた。

 攻撃に転ずる時には武器に属性魔法を絡めつけ、繰り出される砲撃を防壁や魔法弾で防ぎ切り、私が動きやすいように誘導してくれた。今まで誰かに頼ろうなんて思った事はなかったけれど、彼の優しい支援魔法には心が揺らいだ。


「凄いわね、あなたのご主人様は」

 傷を治してもらっている途中、何気なく放った一言だったけど、帰って来た答えは私の意には反するものだった。

「ダメです。このままじゃアリスちゃんは負けてしまいます」

「えっ、だってあんなにもおしているのよ? 例え後ろにもう一人控えているとは言っても、一対一じゃ十分に勝てるんじゃないの?」

 私が見る限りでは明らかにアリスの方がおしている、もう一人はどうやら戦闘には参加しない様子なので、このまま戦い続ければ間違いなくアリスが勝つだろう。強いて言えば何だか戦いを早く終わらせようと、急いでいる様にも見えなくもないが。


「違います、今のアリスちゃんは止めとなる一撃を放つ事が出来ないんです」

「どういう事? 止めをさせる切り札がないのなら、このままおして行けばいじゃない」

「違うんです。アリスちゃんの魔力は強大すぎるんです、誰かがサポートしないと地上への影響が出てしまうほどに。それに今は無理やり魔法でおしている様に見えても、接近戦は得じゃないからこのまま戦いが長引けばいずれ……」

 そうだった、彼が最も得意分野とするのは支援魔法、だから誰かが前衛に立ちアリスの壁にならなければならないんだ。


「もういいわ、これだけ動ければ問題ない」

「ですが、まだ完全には……」

「大丈夫よ、このままパートナーだけを戦わせて、『自分は何もしていませんでした』ではカッコがつかないでしょ? ふふ」

「そうですね、私たちでアリスちゃんを助けちゃいましょう」






「大分慣れてきたぜ、間合いさえ注意すれば接近戦で槍が短剣に勝てるはずがねぇ!」


 そろそろ限界か、この体は魔力や魔法量は爆発的に跳ね上がるが、体力はセリスの時と比べても遥かに劣ってしまう。

 本来この姿での戦闘スタイルは魔法で支援しつつ強大な魔法で敵を殲滅するのが今までの戦い方だった。それは信頼できるパートナーがいてくれたからこそありえた戦法、だけど彼女はもうこの世にはいない、私の生涯で唯一のパートナーはあの時……


「オラ、何考え事をしてんだよ!」

「しまっ……」

 あっ、油断した。目の前に繰り出される短剣ばかりに気を取られていた。懐に潜られては槍は短剣に対して明らかに不利だ、だからと言うわけではないが足元が疎かになってしまていた。そこに足払いを喰らいバランスを崩してしまったのだ。

 振り下ろされる短剣についついあの日の出来事を思い出してしまう。

 彼女が私を庇い、魔獣の牙の犠牲になってしまったせいで命を……ごめん、せっかく守ってもらったのに……


「アリス!」

「ぐふっ」

 突然戦闘に割り込んできたミリィが、振り下ろされる短剣ごとガイウスを弾き飛ばす。


「生きてるわよね」

「あ、うん。生きてる」

 見れば所々傷が塞がっていないところがあるので、手当てを早急に切り上げて助けに来てくれたのだろう。

「カッコよく出てきたわりに何負けかけているのよ、さっさと片付けるわよ」

「アリスちゃん大丈夫ですか?」

 

 ―― アリス、あなただけは生き延びて ――


 そうだね、こんなあっさり死んだんじゃ、次に会った時に叱られるね。

「ごめん、助かったよ」

 再び立ち上がりスターゲイザーを構え直す

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