娘がゴリラを連れてきた

アルパカ

娘がゴリラを連れてきた

「お父さん!わたし、彼氏が出来た!」

なんだと!まさか手塩にかけて育てた大切な娘に男が出来ただと!

夕食を食べ終わり、リビングで妻とテレビを見ていたときに言い出した娘の発言に私は驚愕した。こんな父親故に、娘も勇気を出して言ったのであろうが、どこの馬の骨かもわからぬ輩に手をださせるわけにはいかない。今度家に連れてきてお父さん達とお話させなさいと私がいうと娘は「ええんやで」と意外にもあっさり承諾した。「まあ、うちの可愛い娘に彼氏なんて。会えるのが楽しみねえ。」と妻は呑気に言っているが、今時のふざけた若者に大切な娘を渡すつもりはない。家にきたらガツンと言って別れさせてやる!


「お父さーん!この子がわたしの彼氏のロッキーくん!」

娘はゴリラを連れてきた。


気づいたら私達は居間で娘達と向かい合っていた。やばいよこれ、どうすんだよこれ。まさか娘が彼氏と称してゴリラ連れてくるとか誰が予想できるんだよ。あまりにも予想外すぎて「あ、どうぞこちらに」って言って居間に連れ来てしまった。そして居間に座った直後に娘は「こちらはニシローランドゴリラのロッキーくん!」て言ったんだけど。なんで種類名言ったの?その情報いるの?そしてなんでこの状況でも妻は呑気なんだよ。「まあ、とってもかっこいい方ね。」じゃないんだよ。そりゃチャラついた若者よりはゴリラのほうがいいと思うけど。いややっぱ若者のほうがいいわ。

まずい、このままでは相手のペースに飲み込まれてしまう。ここは父親としての威厳をみせなければならない。ますは彼の職業を聞こう。

「ロッキーくんは最近わたしのクラスに転校してきたんだよ。成績優秀でスポーツ万能でみんなから好かれてるの!」

学生かよ!なんでゴリラが学生やってんだよ!というかスポーツ万能はともかく成績優秀ってこいつよりしたとかヒトとして屈辱だわ。

そんで妻も「そういえばこの前転校生が来たって娘が言ってたわねえ。」じゃないよ!いや確かに言ってたけども。

「確か家族の都合でここの近くに引っ越したって言ってたよ。」

移動動物園かな?


まずい、何故か普通に会話が進んでいる。当の本人が一言も喋っていないのに進んでいる。というかなんで娘はこいつの言葉がわかるんだ。いや、こいつが学校で好かれてる時点でみんなわかるんだろうなあ。とにかく、ここは別の質問をして奴の汚点をあぶりだそう。もう汚点ってレベルじゃない気がするけどそうしよう。私は彼に趣味を聞いた。チャラついた趣味を持っていたら許さんからな。

「ロッキーくんはよく猫カフェに行くらしいよ。日々の疲れを癒してくれるんだって!」

なんでだよ!どんな趣味だよ。なんでお前が動物見に行くんだよ実家の動物園で見ろよ!ゴリラが癒されに来る猫たちの気持ちも考えろよというかこいつを追い出さない猫カフェってどこにあるんだよ。スタッフは何やってんだよ絶対学校の関係者だろ。

「たくさんの猫に囲まれるのは最高なんだって!」

警戒されてんじゃねーか。明らかに警戒されてんじゃねーか。それ完全に臨戦態勢とってるよ。そりゃそうだよゴリラが来てんだもん。黒くてデカい謎の存在が来てんだもん威嚇せざるをえないよ私だってそうするもん。

「今までずっと隠れて行ってたらしいけど、この前わたしにばれちゃって、それ以来一緒にいくようになったの。」

それを私達に言うんかお前は。おい、そこのゴリラ照れてんじゃねーよ可愛くないんだよドキッとしねーよゾワッてするんだよ。妻も「楽しそう、今度みんなで行きたいわねえ。」じゃないんだよどこに行くんだよ地獄か。


やばいぞ、このままではなんかもう身が持たない。とりあえず何か質問しなくては。なんで私はこいつに質問ばっかりしてるんだろう。私は今何をしてるんだろう。私は彼に娘のどこが好きになったかを聞いた。

「なんか、自分が悩んでいるときに真剣に相談に乗ってくれて、それがとても励みになって、そしたらいつの間にか好きになったんだって!」

割とベタだなおい!存在が新鮮味しかないのに!というかゴリラの悩みってなんだよ凄い気になるわ。それに相談に乗る娘もなんなんだよよく乗ろうと思ったなおい。

「実は以前わたしが街で別の高校の男子達に絡まれた時にロッキーくんが助けてくれて、それでわたしも好きになったんだ。」

恩返しだったよ。まさかのゴリラに救われて恩返しで相談に乗ってたよ。これもうツルの恩返しじゃなくてゴリラの恩返しだよ!いや逆に救ったからヒトの恩返しかな?ていうか娘に絡んだことがどうでも良くなるぐらい高校生の安否が気になるんだが。

「あの時ロッキーくんが男子達をふっ飛ばしていなかったら今頃…」

やりやがったよ。普通に高校生やりやがったよ!絶対高校生無事じゃないでしょ仮に無事だとしても相当トラウマになってるよゴリラが。そんでもってなんで妻はこの話聞いて号泣してんだよ。そんなに泣けるのかこの話。この前の映画と同じくらい泣けるのかこの話。


まずいまずいまずい!このままでは娘がゴリラと結婚してしまう!なんとしても別れさせないと。ただでさえそこらの男と付き合うことすら反対なのにゴリラと付き合うとかヒトしてアウトだわ。でも何故か妻はOKそうなんだよなあ妻もゴリラなのかな?


そう思っていると、突然娘がプラカードを出してきた。

「じゃーん、ドッキリ大成功!」

私は突然のことに驚き何も言えなかった。よかった、ドッキリか。もう酷いドッキリだよ全くふざけんなよこいつ一か月夕食抜きだ。

「いやあ教室でロッキーくんとドッキリについて話してたら凄く面白いドッキリ思いついちゃって、つい実行しちゃった。」

あ、こいつが学校にいるのは本当なのね。後で転校の手続きをしよう。

「でも、誰かと付き合っているていうのは本当だよ。」

なんだと?もうどれが本当かわからないけどそれは本当だと?一体誰と付き合っているんだ。

「実は今家の前にいるから連れてくるね!」

え、もういるの?と思う暇もなく娘は玄関に向かい、


マンドリルを連れてきた。

「マンドリルのゴローくん!気さくでお調子者だけど凄くかっこいいんだ!」

せめてヒトと付き合えええええ!!!!

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