ヤバン王 Ⅵ 寸刻/ランニングシーン
――新宿、元都庁、少し前
ぐっ
(俺の索敵範囲外からの霊波攻撃とは…やはり
――この間20.5秒だった!
そう思慮しながらヤバンの支配者トライドン辺境伯爵は人間と同じような体躯をほぐし始めた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガギャァン!!!
複数の小型の竜人が元小学校の集会場に押し寄せていた
防火シャッターは穴だらけになりながらもまだこのあたりでの被害は出てない
曲がった階段をすぐ上がったところにあるため集団突撃の脅威からは脱したものの
奴らがあきらめるまで小学校の机と木材を番線で裏打ちしてある、とはいえこの心
許ない壁で耐えなければならなかった。
「安心してくれ!装武が倒してくれるって言っていた!それまでの辛抱だ!」
「そ、そうね!」「ヤバンの王様になるって言ってたものね!」「うん、うん!」
「それは困りましたね…」←?
「え?」
ケンジはわが目を疑った!あの仮面は装武のお供の黒騎士ではないのかと!
何を一緒になって避難してるのか?アホなのかと!
「あ、お構いなく。私も皆さんと一緒で非力なので最後の時はご一緒させてくださいね」
同じような奴がトラックより大きな恐竜を担いでいれば冗談にしか聞こえない
「じょ、冗談だろ?あんたも強いんだろ…?」
「いえ、『今は』皆さんと同じ程度の力しか出せません、なのでこうして皆さんに
シャツを配って歩いてた次第です」
「ほら!!今はつった!今はって!ピンチになったら助けてくれるんだろ?」
ケンジは得意げにその矛盾を上げあしどった
「申し訳ありません。交戦は禁止されていまして…自衛ならばできるのですが」
「なんだよ脅かすなよ…ははは…申し訳ありません?」
「はい、先ほどのお言葉で彼らは装武様の獲物になってしまいましたので手出しが
できなくなってしまいました」
ガンガンガンとテンション高めのノックが続く
ケンジは何を言っていいのかわからなくなり涙目で
爪やら牙やら鼻先をのぞかせ始めたシャッターをぶんぶんと指さした
バリバリバリッッ
小型の竜人がシャッター裂けめに体をねじ込んで侵入してきた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
男食男爵は戸惑っていた
敵の霊波攻撃を受けた直後、相手の位置を把握、強行偵察を兼ねた陽動を差し向けた
そして敵支配者型は既に術中に捕らえた。だが対象の近づいてくる速度が異常だった。
(やはり車を手にしているのかもしれない。実際に走っている姿を見たことはないが動きの鈍い
――この間1分1.8秒だった!
そう思慮しながらナリタの支配者男食男爵、イクアナはトカゲ人間のような躰の千切れた左腕をやらしく舐め上げた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「屋上へ逃げろッッ」
最初から屋上へ行っていればいい話だが
津波と違い奴らは知能があり届かないと悟と頭が悪いなりに別のアプローチに切り替えるのだ
中型、2メートル以上の二本足の恐竜は木や建物によじ登るのは得意ではないが
小型で羽毛が羽根になっているものはその限りではない。
「俺がやる!!!」
ケンジは炎冠の牙と骨の短鎗を手にその場に残る、女達は振り返る
「なにちょっと突っついてやるだけさ、毒は装武が何とかしたらしい!」
戦っても大丈夫なことを伝える。奴らを傷つけたら毒で全滅だ。
槍を突き出されるとケンジの腰ほどの高さの頭を左右に振り隙を窺っている
頭部だけで言えば犬よりも小さいが尻尾の先までの長さは3メートルはありそうだ
前足が2本の指は手錠を思わせるような形状である、
本来の使い方は枝につかまるのかもしれないが竜人に掴まれたら人間
の腕など簡単に持っていかれてしまう。そんなことさんざん見てきたケンジである
奴らにとって腕ぐらいならばつまみ食いにしかならないことは承知している。
間違ってもとっ組み合いをしてはいけない、
その点、短いが槍は都合がよかったクワでは重くて威力はあるが当てるのは厳しい
槍ならば素早く戻して次がある。
今までは仕留めて相打ちが最上。傷を負わせただけなら毒で幾人も死んでいた
ふーふー
心拍音がどくどくと耳元でする、お互いに刃を構えて睨み合う
後ろに足音はなくなった。下がるか?ケンジがそう思ったとき
バリバリッガラン!ゴロン!!
少し高い位置にあった穴は天井近い背丈の竜人によって補強ごと引き裂かれてしま
った!しまったとケンジが思ったときには獲物を見つけた獣は走り出していた
とっさに腕で守ってしまった、槍の先が天井を向いたとたん最初の竜人に腕に噛みつかれ逃げ場を失ってしまう
「あちらは私が」
黒い影がスッと横切り中型を含む4体の前に躍り出た
「私にできるのは時間稼ぎだけです。ケンジさんはまずそれを倒してください!」
のこぎりみたいな歯で食いつかれているがなぜか痛みは感じない?よし!
槍を逆手に持ち替えてケンジは恐竜の目玉をぐさりと刺した!
口を大きく開け悶絶する恐竜ひっくり返りのたうち回るバタバタと手足をもがく
一歩離れて全体を見るも自分の目を疑うような光景があった
4匹の恐竜を相手にまるで闘牛士の様に、いやそれ以上の動きで躱している
ひらりひらりローブが舞う
避けた先でケンジと竜人の目が合う
「「………」」
「うあぁああああああッッッ!!」
グワアアアアアアァァ
肉を切り裂く刃の連なった人間を食べる口と一本の歯のついた槍の距離が迫る!
槍の穂先は顎を閉じるより一瞬早く竜人の上顎を貫いた!!
だがその勢いまでは殺せず貫通したも関わらず一緒に転がってゆく
どちらのものともわからないが血の匂いに翻弄されていた竜人達の意識はそちらへ向いてしまう
「ケンジさんッ!!」
餌群がる公園のハトのような光景
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「装武様っっ」≪ゆみや様、装武様を捕捉しました≫
2度羽ばたいて速度を落としたソードは走る装武に並ぶ
「掴まってください!砦周辺はかなり危険の様です敵対反応が万単位ですッ」
装武はぎろりと目を向けるが突き進む先を見る、ナリタ砦。
主の口からが荒い呼吸音、
≪ソード、もう敵は倒せましたか?≫≪い、いえ、まだナリタの前です≫
≪?!時速40キロに満たない…そんなッ!!きっ…
≪≪騎士団!!全騎起動ッッ!!!緊急転移ッ敵を排除なさい!!≫≫
≪≪≪!!!!≫≫≫
(まずいまずいますい!!!ご主人様は回復されてないぃ!!!肉体限界の速さでしか走れてないということは体内で巡らせる死力がもう底をついてるということ!!死力さえあればご主人様は10t超の恐竜だって拳で殴り飛ばせるのだもの!!たかだか衛星軌道上から地表までのわずかな距離を一騎、転移させるのに
――この間0.25秒だった!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
≪≪騎士団!!全騎起動ッッ!!!緊急転移ッ敵を排除なさい!!≫≫
衛星軌道上に52機点在している人工衛星、黒騎士。
それぞれブラックナイツ48騎が目覚める
十字、三丸、菱形、杯のいづれかとⅡからⅩⅢが刻まれている
瞬時に転移に使われるエネルギーが各騎士から衛星に流れる
そして、ゆっくり闇に墜ちてゆく
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
≪弩→棍:緊急転移かかったぞ。ゆみや様は動転されて転移を御命じになったが私はソードの座標に転送する、お前はまだ雑魚相手に遊んでるのか?起動から転移完了まであと17.2秒かかる、全て捕捉している狙い撃つぞ?≫
≪棍→弩:モンダイナイ、ホラ≫
――この間0.18秒だった!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――――眠れ」
ワンドのたった一言でケンジに襲い掛かろうとしていた竜人たちはその歯を突き立てる前に脱力した
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ぱ、とかすかな霊波が一瞬通り過ぎた
≪ゆみや様、こちらワンド、ナリタ周囲3万メートル制圧完了いたしました。
転移の必要はございませんが如何しますか?≫
≪――!!≫(そうだこちらにも
ふう
≪かまわないわ、そのまま全騎ご主人様の御前に、ワンドよくやりました≫
自らつけたとはいえ首輪型の
自分の能力などご主人様からの貰い物ばかりだというのにそれを役立てないのも逆に不敬のような気もしてしまう
だが、繋がっているのだから負担が掛からないとも言いきれない
ご主人様?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――装武は走っていた
丸太を持った時に気にはなった、それくらいでハアハアするわけがない
左肺が萎んでしまっていた
運動するとよくわかる左側だけ冷たい感じがする
まあこれは死ぬほどじゃないからいいやと
問題は既に心臓が止まってしばらくたつということだった
残り僅かな脳みそが鈍くなってるどのくらい死んだろう
(――もうわからんもんよ)
あーとりあえず足を止めたら死ぬなと言うことだけわかった
――この間約8分だった!
野蛮王 @yamamaru-yamamoto
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