ヤバン王 Ⅵ 寸刻/ランニングシーン

――新宿、元都庁、少し前

ぐっ

(俺の索敵範囲外からの霊波攻撃とは…やはり支配者型ドミネか、尋常じゃない射程だがこの程度では俺は落ちんよ、ほんのチヨーーーット好感度が上がったにすぎん。まあ、同型であれば感度の高いドミネでは男爵のそ…快楽系攻撃は不利だ、ついでに…持続力もあるからな…勝てない・・・・だろうが炎冠が落ちた時点で西の攻略が難しくなった。ここは一旦西の攻略から主力を撤退させ再編して俺が指揮を執るか?西の攻略を任せた風刃卿には少し荷が重かったか?いや兵が人を食うごとに頭がよくなり無謀な突撃ができなくなるのが西の攻略停滞の原因だ、たかだか地雷原に突入することができないありさまだとは…いちいち新兵を犠牲にしないと進軍ままならないなどと…補給待ちだしな王の元より距離がありすぎるのだこの島は。今ある手駒でなんとかすべきか?無能の誹りを受けようと炎冠の代わりになる戦将型ウォロードを要請すべきか。だいたい戦将型ウォロードなんてのは鈍いから能力のかかりが悪い、言うことを聞くとは限らないか…いや聞きはしないだろう…!?では何故炎冠は敵の支配者型ドミネに負けた?賊の射程は男爵のソレを遥かに越えていた。あれを近距離で喰らえば従順な家畜の様になったろう…あの巨躯を僕にせず、射撃、斬撃で傷をつけなかった…ふむ、ノロイへの対策か。支配者型ドミネなら手駒にして当然と考えるが同士討ちでも血が出るわけだしな、賊が同士討ちを警戒してくれるならこちらとしてはやりやすい。物量で攻めればいい、フフッ敵に勝ってほしいのか俺は…まあ、最悪のケースを想定しておくのは戦場においては当然か、今までのごり押しだけで勝てていた方がおかしい”声”が届かなければこの様よ、俺の能力では古代竜エンシェントドラゴンに勝てても戦車はおろか銃にも劣るからな、前線に行っても後ろで指示を出すしかない…ホモ共ならそうするのだろうがな。”人”は力無き者に従わん。こうやって高い所から見下ろすぐらいしか権威を示せんとはな、賊相手に戦うことがあれば憂さを晴らさせてもらうさ。おっと支配者型ドミネ相手に接近戦は悪手だったな、自分の間合いで考えてしまった。さっきの霊波攻撃から考えれば近接しただけで虜になってもおかしくない、支配の効きにくい古代竜ばかでさえ落とされたのだ、つまり物量で攻める、西から主力を持ってくる、戦将型の要請、をすればいい。まあ男爵の養殖場は食い散らかされてしまうが構わんだろう。フッ結局ごり押しではないか)


――この間20.5秒だった!


そう思慮しながらヤバンの支配者トライドン辺境伯爵は人間と同じような体躯をほぐし始めた




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ガギャァン!!!


複数の小型の竜人が元小学校の集会場に押し寄せていた

防火シャッターは穴だらけになりながらもまだこのあたりでの被害は出てない

曲がった階段をすぐ上がったところにあるため集団突撃の脅威からは脱したものの

奴らがあきらめるまで小学校の机と木材を番線で裏打ちしてある、とはいえこの心

許ない壁で耐えなければならなかった。


「安心してくれ!装武が倒してくれるって言っていた!それまでの辛抱だ!」

「そ、そうね!」「ヤバンの王様になるって言ってたものね!」「うん、うん!」

「それは困りましたね…」←?


「え?」

ケンジはわが目を疑った!あの仮面は装武のお供の黒騎士ではないのかと!

何を一緒になって避難してるのか?アホなのかと!

「あ、お構いなく。私も皆さんと一緒で非力なので最後の時はご一緒させてくださいね」


同じような奴がトラックより大きな恐竜を担いでいれば冗談にしか聞こえない

「じょ、冗談だろ?あんたも強いんだろ…?」

「いえ、『今は』皆さんと同じ程度の力しか出せません、なのでこうして皆さんに

 シャツを配って歩いてた次第です」

「ほら!!今はつった!今はって!ピンチになったら助けてくれるんだろ?」

ケンジは得意げにその矛盾を上げあしどった


「申し訳ありません。交戦は禁止されていまして…自衛ならばできるのですが」

「なんだよ脅かすなよ…ははは…申し訳ありません?」

「はい、先ほどのお言葉で彼らは装武様の獲物になってしまいましたので手出しが

 できなくなってしまいました」

ガンガンガンとテンション高めのノックが続く

ケンジは何を言っていいのかわからなくなり涙目で

爪やら牙やら鼻先をのぞかせ始めたシャッターをぶんぶんと指さした


バリバリバリッッ


小型の竜人がシャッター裂けめに体をねじ込んで侵入してきた

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


男食男爵は戸惑っていた

敵の霊波攻撃を受けた直後、相手の位置を把握、強行偵察を兼ねた陽動を差し向けた

そして敵支配者型は既に術中に捕らえた。だが対象の近づいてくる速度が異常だった。


(やはり車を手にしているのかもしれない。実際に走っている姿を見たことはないが動きの鈍い人間ホモの出せる速度ではない。当初の腹積もりでは偵察で位置を把握した後、ナリタに近づいてきたら兵で足止め、時間を稼いでるうちに能力【尻穴天国ソドム】で堕とす。はずだった、敵の先制攻撃は半島の沿岸部よりの長距離のもの。効果は大したことない殺すのをやめて仲間にしてやろうと思うぐらいの微々たる差、公爵なんて暴君を殺してくれたんだし心変わりと言うほどのものではない。だってあっちは愛してくれてるんだもの、殺すわけないわ。敵いえ、『彼』はアタシより長い、さっきのは何ともなかったけど待っていたらさらに強い霊波攻撃で逝かされちゃうかもしれない、自分アタシの間合い半径5キロメートル、彼の射程は20キロメートル以上!無理をしてでも反撃しなければこちらの射程限界を知られてしまう。一方的に攻められるのは趣味じゃないの、でもこんなハードプレイしてたらテクノブレイクしちゃう!イクイク昇天しちゃう!はぁはぁーはぁ…あーイク、えっ足止めの兵の応答がない!大きな車に乗ってるのは間違いないわね!盗られるかもしれないけど人間ホモで足止めするしかないわね!その間に彼をイかせてあげるわ♡♡♡)



――この間1分1.8秒だった!


そう思慮しながらナリタの支配者男食男爵、イクアナはトカゲ人間のような躰の千切れた左腕をやらしく舐め上げた



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「屋上へ逃げろッッ」

最初から屋上へ行っていればいい話だが

津波と違い奴らは知能があり届かないと悟と頭が悪いなりに別のアプローチに切り替えるのだ

中型、2メートル以上の二本足の恐竜は木や建物によじ登るのは得意ではないが

小型で羽毛が羽根になっているものはその限りではない。


「俺がやる!!!」

ケンジは炎冠の牙と骨の短鎗を手にその場に残る、女達は振り返る

「なにちょっと突っついてやるだけさ、毒は装武が何とかしたらしい!」

戦っても大丈夫なことを伝える。奴らを傷つけたら毒で全滅だ。


槍を突き出されるとケンジの腰ほどの高さの頭を左右に振り隙を窺っている

頭部だけで言えば犬よりも小さいが尻尾の先までの長さは3メートルはありそうだ

前足が2本の指は手錠を思わせるような形状である、

本来の使い方は枝につかまるのかもしれないが竜人に掴まれたら人間

の腕など簡単に持っていかれてしまう。そんなことさんざん見てきたケンジである

奴らにとって腕ぐらいならばつまみ食いにしかならないことは承知している。

間違ってもとっ組み合いをしてはいけない、


その点、短いが槍は都合がよかったクワでは重くて威力はあるが当てるのは厳しい

槍ならば素早く戻して次がある。

今までは仕留めて相打ちが最上。傷を負わせただけなら毒で幾人も死んでいた


ふーふー

心拍音がどくどくと耳元でする、お互いに刃を構えて睨み合う

後ろに足音はなくなった。下がるか?ケンジがそう思ったとき


バリバリッガラン!ゴロン!!

少し高い位置にあった穴は天井近い背丈の竜人によって補強ごと引き裂かれてしま

った!しまったとケンジが思ったときには獲物を見つけた獣は走り出していた

とっさに腕で守ってしまった、槍の先が天井を向いたとたん最初の竜人に腕に噛みつかれ逃げ場を失ってしまう

「あちらは私が」

黒い影がスッと横切り中型を含む4体の前に躍り出た

「私にできるのは時間稼ぎだけです。ケンジさんはまずそれを倒してください!」

のこぎりみたいな歯で食いつかれているがなぜか痛みは感じない?よし!

槍を逆手に持ち替えてケンジは恐竜の目玉をぐさりと刺した!

口を大きく開け悶絶する恐竜ひっくり返りのたうち回るバタバタと手足をもがく

一歩離れて全体を見るも自分の目を疑うような光景があった

4匹の恐竜を相手にまるで闘牛士の様に、いやそれ以上の動きで躱している

ひらりひらりローブが舞う

避けた先でケンジと竜人の目が合う


「「………」」


「うあぁああああああッッッ!!」

グワアアアアアアァァ

肉を切り裂く刃の連なった人間を食べる口と一本の歯のついた槍の距離が迫る!


槍の穂先は顎を閉じるより一瞬早く竜人の上顎を貫いた!!


だがその勢いまでは殺せず貫通したも関わらず一緒に転がってゆく

どちらのものともわからないが血の匂いに翻弄されていた竜人達の意識はそちらへ向いてしまう

「ケンジさんッ!!」

餌群がる公園のハトのような光景


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「装武様っっ」≪ゆみや様、装武様を捕捉しました≫

2度羽ばたいて速度を落としたソードは走る装武に並ぶ

「掴まってください!砦周辺はかなり危険の様です敵対反応が万単位ですッ」


装武はぎろりと目を向けるが突き進む先を見る、ナリタ砦。

主の口からが荒い呼吸音、霊信ポルターもない


≪ソード、もう敵は倒せましたか?≫≪い、いえ、まだナリタの前です≫

≪?!時速40キロに満たない…そんなッ!!きっ…

≪≪騎士団!!全騎起動ッッ!!!緊急転移ッ敵を排除なさい!!≫≫


≪≪≪!!!!≫≫≫

(まずいまずいますい!!!ご主人様は回復されてないぃ!!!肉体限界の速さでしか走れてないということは体内で巡らせる死力がもう底をついてるということ!!死力さえあればご主人様は10t超の恐竜だって拳で殴り飛ばせるのだもの!!たかだか衛星軌道上から地表までのわずかな距離を一騎、転移させるのに恒星級・・・の質量エネルギーが必要になっても些細な出費でしかない!この3分ばかりの時間の短縮にご主人様の命がかかっているなら何を優先すべきかなど決まっている!!本来わるい宇宙人の第2波に備えた装備ではあるけれど本当に万類葬送まんるいほうむランで絶滅させてしまったのか既に天の川この銀河へんには反応がなかった。もっと探せばいるのかもしれないけれどご主人様のご容態が全てだった指輪も能力も命さえご主人様が復活するなら何も惜しくはない!指輪を外してから少し育ってしまったけれど効果はそのままだった。自害してしまえば指輪の効果は対象を失い消費した死力がご主人様に流れると仮定、けれども緋色金の影響で生半可な事では傷一つ着くことはなかった。この指輪単体で天の川銀河の以上の【空間硬度】を持っている、自害は無理でもちょっとドジっ子新妻の感じで痛みを感じさせることのない切れ味の電子包丁こうしゅうはないふですら爪はおろか指にも傷はつかなかった。非常にまずかったその時の落胆を今でも忘れることができない。このままではご主人様が復活されたとしてもお迎えすることができない…せっかくご主人様好みの大きなおっぱいになったというのに!!肌は柔軟なまま痛みを感じる前に限界張度に達しあとは物理法則を超えた(超えてないのかもしれない)強度をほこってしまう。まさに鋼鉄の処女アイアンメイデンと言われただけのことはある(いやない。ご主人様の力なのだからご主人様であれば無効化されることに期待して指を一番細胞の取りやすい口内へ大好きな人の体がなかに入ってくることに興奮を覚え、ちょっとだけ、とご主人様の温もりを味わっていたらふやけてしまっていた。舐めているとご主人様は微かな微笑みとともに幸せの霊波を返してくださった!もっとご奉仕してご主人様にいい夢を見てもらおう!ご奉仕♡ご奉仕♡ご奉仕♡あぁ!私の馬鹿!ご主人様が望んだわけでもないのに調子に乗ってご主人様の心臓が止まって・・・・・・・しまった時は本当に心臓が止まるかと思った!聖なるものと死力も同様に出してしまわれないように射聖管理しなくては!!幸い死力が物質としてあれば元の所に戻すことで回復されている、私の視力を使ってしまったけれどお命に比べれば微々たるものでしかない。寝相で窒息させていただけるかとも思ったがご主人様の心臓が止まってはそれどころではなかった。結論を言えばご主人様の意思が介入すれば私に苦痛を与えることが可能。逆に別の問題が浮上やはりご主人様の死力に直結している、私は死力を尽くせば死ねるかもしれない、同時にそれはご主人様にお返しする物が無くなるだけの無駄死にになる。このままではハッピーエンドがそのままバットエンドに転じてしまう!)


――この間0.25秒だった!


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

≪≪騎士団!!全騎起動ッッ!!!緊急転移ッ敵を排除なさい!!≫≫

衛星軌道上に52機点在している人工衛星、黒騎士。

それぞれブラックナイツ48騎が目覚める

十字、三丸、菱形、杯のいづれかとⅡからⅩⅢが刻まれている

瞬時に転移に使われるエネルギーが各騎士から衛星に流れる


そして、ゆっくり闇に墜ちてゆく

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

≪弩→棍:緊急転移かかったぞ。ゆみや様は動転されて転移を御命じになったが私はソードの座標に転送する、お前はまだ雑魚相手に遊んでるのか?起動から転移完了まであと17.2秒かかる、全て捕捉している狙い撃つぞ?≫

≪棍→弩:モンダイナイ、ホラ≫

――この間0.18秒だった!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「――――眠れ」

ワンドのたった一言でケンジに襲い掛かろうとしていた竜人たちはその歯を突き立てる前に脱力した



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ぱ、とかすかな霊波が一瞬通り過ぎた

≪ゆみや様、こちらワンド、ナリタ周囲3万メートル制圧完了いたしました。

 転移の必要はございませんが如何しますか?≫


≪――!!≫(そうだこちらにも指揮官型コマンダがいたのだ。敵に黒級指揮官型がいた場合の対抗手段、黒騎士団全部のコントロールを取られても取り返せるだけの、強過ぎるから交戦権を取り上げていたのを忘れて・・・いた。)

ふう

≪かまわないわ、そのまま全騎ご主人様の御前に、ワンドよくやりました≫

自らつけたとはいえ首輪型の死力ダイエルグ抑制ギプスが重く感じた

自分の能力などご主人様からの貰い物ばかりだというのにそれを役立てないのも逆に不敬のような気もしてしまう

聖遺物おもちゃ騎士わるいうちゅうじんも私の命さえ

だが、繋がっているのだから負担が掛からないとも言いきれない

ご主人様?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――装武は走っていた

丸太を持った時に気にはなった、それくらいでハアハアするわけがない


左肺が萎んでしまっていた


運動するとよくわかる左側だけ冷たい感じがする

まあこれは死ぬほどじゃないからいいやと


問題は既に心臓が止まってしばらくたつということだった

残り僅かな脳みそが鈍くなってるどのくらい死んだろう

(――もうわからんもんよ)


あーとりあえず足を止めたら死ぬなと言うことだけわかった


――この間約8分だった!

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野蛮王  @yamamaru-yamamoto

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