アルゼラ書:第二節
「セラ・フレイオルタ。今こそ見せよう。夜を支配する天使として、あなたに作られた私の真の力を」
アルゼラが煌びやかに羽ばたくと、墓標から一斉に星々の珠が天に昇り、羽に飲み込まれていった。珠が浮き上がり飛ぶさまはまるで、セラが原動天へ星を送るときのようであった。
「あなたが眠っている間、星を動かしていたのは私だ。故に、こうした芸当も出来る。私から星を奪い、人の手に委ねてみせろ!」
煌びやかな羽の称える光が歪み、一つの筋を成すと、それはセラの船めがけて放たれた。セラは「矢のない弓」の光でアルゼラの放つ光をかき消すと共に、「月の鏡盾」を拡げ、光を弾いてみせた。だが、アルゼラがあまりに多くの光を次々と放つので、一本の光がハルミラ号を貫こうとした。
その時、一つの人影が光に当たり、船を守った。下から声が聞こえるので見ると、墓標の上にトールディンが立っていたので、セラは船の高度を下げて彼を迎えた。船に乗ったトールディンは「月の鏡盾」を持つと分身し、船を覆ってみせた。
「ここへお前が来たということは、シトーリュカを上手くやったようだな」
「あのようなことはもう二度としないでください」
「すまない。だが、ニアタの区画で知りえたことを活かすには、ああするしかなかった」
「私は言いました。愛しい者を二度と亡くしたくないと。この心を引き裂いたことは二つあります。一つは私の矢によってあなたの姿が完全に消えたこと。もう一つはあなたの身がこの区画に取り残されたことです」
「万が一のことがあっても、お前の師、つまり山の賢人の珠がおれを救ってくれると思った」
すると、セラはトールディンから山の賢人の気配がまるでしないのを訝しみ、問いかけた。
「ところで、師はどこへ行ったのです」
「アルゼラのもとへ」
「左様ですか」
「驚かないのか」
「師は、堕天使の都が滅ぼされることを望んでいました。そして、その真意が今、理解できました。あの人は自分も含め、堕天使という存在を滅ぼすべきだとお考えなのでしょう」
光を続けて放ちながら、アルゼラが言った。
「数ある天使が空から落ちたが、一番正しい道を選んだのはマイアかもしれない。そして、彼が言っている。『これが私から与える最後の試練だ』と」
アルゼラは光に加え、病の瘴気を放った。これはトールディンが吹き晴らしたが、大いに驚いて言った。
「奴は他の天使の力も使えるというのか」
「そうとも。この羽から放たれる光の一つ一つが、星の力によるものだ」
無数の星の光によって放たれる光の前に、セラ達は撃ち落されることはなかったが、同時に近づくことも叶わなかった。ときにセラの放った光の矢がアルゼラの身をかすりはしたが、それはマイアの加護によってたちまちに癒えてしまった。
トールディンは言った。
「お前の師をこうして乗り越えなければならない以上、おれ達はこのままでは負ける。おれ達はふたりぼっちで、奴は無限なのだから」
「いいえ。アルゼラは星を統べる者。私は、限りなく星を作った覚えはありません。そうであるならば、彼の力には限りがあるということです」
「奴の力を削ぐ当てはあるのか」
「ええ。トールディン、約束してくれますか。これから私がどんな力を使おうと、あなたを愛する私を信じたままでいると」
「どんなものから生まれようと、お前はおれをあの土地からここへ連れ出してくれた、セラという一人の女だ」
「ありがとう」
そう言うと、セラはハルミラ号から飛び降りた。アルゼラは言った。
「血迷ったか。望みのままに空の星と変えてやろう」
「私に眠るエルシエルの力よ。お願い、示して」
その時、遥か彼方の海の最果てより、浮き上がる一つの球体があった。それはかつて、エルシエルが神々の盟約によって地に落とされた時、「空へ続く海の果て」へ共に落とされた原動天であった。
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