ニアタ書:雅歌
これから記されるものは、トールディンが死の国へ下っている間、シトーリュカがニアタの区画で読み耽っていたものである。
「前に一度、この区画へ来たとき、絶対に触れるなと彼女に言われた本があった。トールディンとかセラとか、あんなのはもういいや。ニアタがいないこの時を、活かさない手はない」
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第一章
空にあって愛を知った者。
其は世のあらゆることを見聞きせずとも知る者。
しかして知ると解するは日と月なり。
どうか、私を見てください。声をかけてください。
ただの一瞥、ただの一声でもいい、それがなぜ私にとって、
この命よりも大事に思えるのかはまるで分かりませんが。
これがノアズノル、愛の天使が司るものなのであれば、
私はそれに囚われた、一つの小さな星。
その煌びやかな羽の一枚でも私のものにできたなら、
いいえ、本当はその全てが欲しい。
アルゼラ、煌びやかな翼を持つ天使。
あなたの影はどんな星よりも眩しく、その愛は海よりも広く深く、
この空の下にある全ての星に傾けてもなお余りある。
その一滴でも多く、私のものにできたなら。
この身と知識を全て、炎に焼いても構わない。
あなたが天使の嘆きを思って泣くのなら、
私はその涙が治まるまで隣にいたい。
だから私は地上へ落ちた。
第二章
人などどうでもいい。アルゼラがいれば。
ほかの天使などどうでもいい。アルゼラがいれば。
人は私を慕うことなく、私もそれを望んでいた。
私の望みはたった二つ。
アルゼラの隣にいること。この都を輝かすこと。
千年の繁栄は神を怒らせ、それは怪物となって現れた。
怪物たちは地を覆い、アルゼラの嘆きは天に達するかに思われた。
人などどうでもいい。この都を守れるなら。
ほかの天使などどうでもいい。この都を守れるなら。
珠となった同胞を醜い怪物にすることに、何のためらいがありましょう。
あの空で愛を知った者。
其は世のあらゆることを見聞きせずとも知る者。
私の口から出る言葉を、彼は
都の未来は、同胞の正気と引き換えに。
それが正しいのだと、私は知っていた。
そのせいで彼が狂うとは、私は知らなかった。
第三章
彼の眠りはあの日から夜の闇のように深く、
その寝顔は日のように眩しく。
日ごとに彼の寝顔を見に行くうちに、
私は彼にまたがり、その精を搾っていた。
アルゼラは煌びやかな翼を持つ者。その翼の一つ一つは星の光。
アルゼラは星を支配するもの。その身体は夜そのもの。
ニアタ、それはあらゆる情報の天使。
夜の情報によって生まれるもの。
人が夜に見るもの、それは夢。
アルゼラは高潔な者。その行いの一つ一つは正しきもの。
アルゼラは慈しみ深い者。その心は同胞を嘆く。
かつて都を守るためにした所業は、彼にとっては狂気だった。
そのことで彼が嘆くのなら、私はそれを取り除きたい。
だから私は彼の精と共に狂気を受け入れた。
またがる私は狂おしいほどの痺れを受けた。
夢と狂気によって産まれ落ちる者。
私はこの身を生んだ者、母が、エルシエルが憎かった。
その憎しみは空より広く深く、この世を覆うことを欲していた。
第四章
夢と狂気と憎悪によって、目覚めよ!
我が胎に宿る、この愛しき種!
シトーリュカ! シトーリュカ! シトーリュカ! シトーリュカ!
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