ハドメル書:第ニ節

セラの目にした、伝道師と呼ばれるは、十人分の丈があり、丸太のような腕と垂れ幕のような脚を持って宙に浮いていた。そして、顔には穏やかな相の仮面を付けていた。伝道師の表面は金属の輝きではなく、肉の質感があった。

伝道師が腕を振り上げると、巻き起こる風が足元にいた人間たちを吹き飛ばしてしまった。さらに、伝道師が人々を捕らえようとするので、セラは「矢のない弓」で腕を焼き払った。

すると、ハドメルと人間たちが続いて歓声を上げた。

若い女は舌打ちをして言った。

「貴女がセラ・フレイオルタだな。私はイヴリス。ハドメルの支配に抗う者だ。可能ならば、我々に力を貸して欲しい。貴女方はハドメルを打倒しに来たとお見受けする」

「あなたの言う通りです、イヴリス。こちらの山の賢人、トールディン共々、力を課すことは厭いません。その代わり、ここで何が起きているのかを教えてください」

「知っていることならなんでも、我々の根城でお話ししよう。ですが、その前に」

セラは矢を放ち、四方からせまる伝道師達をまとめて焼き払った。イヴリスはセラの腕に敬服して跪くと、セラの右手に口づけをした。

「貴女こそは、ハドメルと戦う我らの前に神がお遣わしになった光明だ」


イヴリスの根城は地の深くにあり、伝道師達を焼き払い、退けながら進んだ為に、たどり着いた頃には夜になっていた。

トールディンが言った。

「あの天使が言っている、遊戯だの演目だのというのはどういう意味だ?」

イヴリスは答えた。

「奴は区画中に放ったに人間を襲わせ、抵抗する様を見世物にして、あの宙に浮かぶ板に封じ込められた人間に見せている」

「なら、あの薄い板は一体何だ」

トールディンが問うと、山の賢人が答えた。

「あれは望むものを空へ映す技術だ」

「ならば、あの板の向こうに人がいるのか」

イヴリスが言った。

「彼らはすでに身体を失っている。伝道師が人を捕らえると、その身体から抜いた魂を板へ封じ込めている。我々は彼らを解放する為に戦っている」

「魂を? そんなことが可能なのか?」とトールディンが問うので、山の賢人は答えた。

「その技術なら覚えがある。人の意識をの中へ送り、変わらぬ生を授ける術だ。五百年前はハドメルの夢物語だったが、完成させたようだな」


その時、ハドメルの姿が区画中に映し出され、声が轟いた。

「未だ肉を持つ全ての人に告ぐ。苦海を捨て、楽土を選べ。血の河でなく、蜜と乳の流れる河を選べ。伝道師はその為に遣わした。恐れることはない。なぜ楽土を拒む。なぜ苦海を選ぶ。

見よ、伝道師の手を受け入れたお前達の同胞の、歓声と笑顔に満ちた生を。我は拒まぬ。望むのならば、救いと幸福を授けよう。繰り返すーー」


イヴリスは言った。

「何が楽土だ。囚われた者達は皆、ハドメルの施しには必ず笑うようにさせられているだけというのに」

セラは言った。

「それでは単なる人形、命じられたことをそのまま行うに過ぎない。人の胎から生まれたものとして、ハドメルを許すわけにはいきません」


それから三日の間、セラ達はイヴリスとその仲間達と共に、区画を見て回った。区画にはイヴリス達の他に人の姿はなく、動く物陰は人の姿を見るやすぐさま襲いかかる有様だった。

イヴリスによれば、伝道師の他に、宙の人々の魂が乗ったが狩りをすることもあるとのことだった。

セラ達が伝道師や他のを破壊するたび、宙の人々が歓声を上げるので、トールディンは悪態をついた。

朝と夕に一度ずつ、ハドメルが区画中に現れては、人々に伝道師を受け入れるよう説いたが、誰一人として受け入れることはなかった。


三日の後、イヴリスと山の賢人は顔を合わせ、ハドメルを滅ぼし、囚われた人々を救うための策を練り、決行することとした。

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