星伐記:第七節

9.

 ある朝、セラは道の中で天使の気配を感じた。だが、いくら見回しても天使の姿はなく、しかし確かに感じるので、セラは山の賢人に理由を問うた。

 山の賢人が答えて曰く、「かつて空から落ち、燃え尽きて珠になったものがあるのではないか」

 セラはこれにうなずき地面を見やった。すると、草の影にきらめく珠があるのが見えた。山の賢人が、この大地には同じように珠になった天使が多く転がっているだろうと言うので、セラは地に転がった天使を全て、原動天へ送ることを自らの使命に付した。

 今しがた課した自らの使命に従い、セラが珠を原動天へ飛ばして送ろうとした。その時、珠が一羽の鳥に当たって落ちてしまった。見ると鳥はすでに死んでしまっていたので、セラは亡骸を地に埋めた。

 すると、彼方より少女が駆けてきて、飼っていた鳥のありかを問うた。山の賢人がセラの足元を指すと少女は泣き出した。あまりに少女がひどく泣くので、セラは少女の言うことを一つ、聞くことに決めた。また、あまりにも恐ろしくセラが睨みつけてくるので、山の賢人は彼女に従うことにした。


 少女がセラに頼んだ。

「太陽が頂きに上るまでの間、家事の一つ一つを手伝って欲しい」

 セラは少女に、召使はどこへ行ったのかと問うたので、少女は自分がそのようなものだと言った。セラは己を深く恥じ入り、もう一つ少女の願いを叶えることに決めた。

 セラは少女と共に、洗濯や薪割りなどをこなした。しかし炊事はセラが何度やっても失敗したので、山の賢人が請け負った。そうしている内、少女はもう一つの願いとして、セラに日暮れまで姉として振舞って欲しいと伝えた。セラはその願いを請け負った。山の賢人は父かにでもなろうかと提案したが、少女に拒まれた。そうして、彼はどこかへ行ってしまった。


 セラは少女に、家族はどこへ行ったのかと問うた。すると、少女は家の外に出て遠くに見える街の方を指差した。そこには、天使の気配があった。

 セラは問うた。

「貴女を置いて、あんなところで一体何をしているの」

 少女は答えた。

「ノアズノル様の町で、家族全員が寵愛を受けるための奉仕に。私が『私の家族はどうなったのですか』と問いかけた時、ノアズノル様は直々に仰られました。

『私は直に奉仕するものしか愛さない。しかし貴女は私に奉仕するにはまだ早いようね。けれど、なにか役に立てば考えてあげる』と。

 私にはその術が分かりませんでした」

「それで貴女はここに一人でいるのね」

「あの鳥が残された家族でしたが、星に打たれて地に帰りました」

 セラは少女を抱擁して言った。

「次の夜明けまで、姉でいましょう」


 その日の夜、少女は姉に、なぜ旅をしていたのかと問うた。セラは堕天使を滅ぼし、星を取り戻すためと答えた。さらに、ノアズノルから家族を取り戻すとも告げた。


 夜が更けてセラが眠った頃、少女は町の方を向いて祈りを捧げた。

「どうか、この私を家族と共に愛してくださるよう」


 夜明け前、少女がセラを起こして言った。

「貴女が私の姉であるうちに、あなたを見送らせてください」

 セラはその言葉に従い、連れ立ってノアズノルがいるという町へ向かった。

 太陽が地平から覗く頃、少女はセラに抱きつき、セラもそれに応じた。すると、少女は隠し持っていた刃をセラの背中に突き立てた。

「どうして……?」

 セラの問いに答えることなく、少女は町に向かって叫んだ。

「ノアズノル様、この通り、天使様に仇なす女を刺して参りました」

 すると、ノアズノルが空飛ぶ船に乗せられ、町の方からやってきた。そして、倒れ伏すセラの姿を見て言った。

「このような無様を晒してなお、美しいものは私の町にあってはならない。愛の天使である私を差し置いて、より愛されるものがあってはならない。ええ、絶対に」

 そうしてノアズノルは少女に、セラにとどめを刺すように命じた。

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