星伐記:第三節
3.
セラがクシュの胎から取り出された時、既に歯は生え揃い、絹のように美しい長い髪を持ち、また、自分の足で歩けるようになっていた。
セラを産んだため、クシュ達は山を降りようとした。だが青年がそれを止め、人数分の食事を用意したので、一行はクシュが再び自力で歩けるようになるまで、山に残ることにした。
山にいる間、セラは日毎に歳をとったかのように大きくなり、七日のうちに十ほどになった。
兵士達は大きくなったセラの姿を見て驚いたが、元は神に遣わされた子だと知っていたので、そういうものと思って納得した。また、セラが子供ながらに年頃の乙女のような美しさを持っていたので、遊び相手をせがむ彼女を、誰も拒むことがなかった。この間、セラは速く走る方法と、格闘技などを学び、その腕は兵士達に認められるほどになった。
クシュが床から出られるようになった頃、セラは時折、一方を見つめて動かなくなった。クシュは問いかけた。
「愛しい子、あなたの視線の先には何があるのです?」
「見えない者が囁くのです。この大地の向こうにある都を滅ぼせと」
「それは陸の神、ガイアラキ様とその父君の導きでしょう。あなたがいつ、その時を迎えるかは分かりませんが、私はいつでも母として見送るつもりです」
クシュの言葉にセラは愛らしい笑顔を見せ、母に抱きついた。クシュは生まれながらに宿命を自覚している我が子の行く末を思って泣いた。
4.
山から戻った妻が見知らぬ美しい娘と青年を引き連れているのを見て、ギメルは問いかけた。
「妻よ、その娘はどこから来たのだ。お前の子はどこへ消えた?」
「私の胎から。この子は七日七晩の内に三つの年頃から十にまでなったのです」
「神に遣わされた子であるなら、そうしたこともあるのだろう。ならば、その男は何者だ?」
青年が答えた。
「私は遥かな昔よりあの都の方から来て、あの山に潜んでいた者です。妃様が私の山を訪れた折、その胎の子を取り出した者です」
セラは言った。
「初めまして、お父上。母からあなたのことを日毎に聞くたびにお会いするのを心待ちにしていました」
見知らぬ娘が自らを父と呼ぶのを聞いてギメルはたじろいだ。セラは青年の方を指して続けた。
「この方をこの宮殿にお迎えしてはいかがでしょうか。病と薬の扱いに長けている他、都のことも多く知っておいでです」
ギメルは迷ったが、妻も兵士達も異論が無さそうだったので、青年を迎え入れた。そして娘と称するセラの世話役と医師を兼ねて宮殿に仕えさせることにした。
セラのことは瞬く間に国中に知れ渡った。三年も待った王女の誕生にあらゆる人が舞い踊り、セラの姿を目にした者はその星のように輝く美貌が瞼に焼き付いて離れなくなった。
また、青年は病と薬の扱いに長けており、病める人々を救ったために山の賢人と呼ばれ、受け入れられた。
セラは山の賢人から、陸と海の神が生み出した怪物達を打ち倒す術や、堕天使の生み出した道具の使い方を教わった。
セラが成長して行く中、ギメルはとある疑念に心を苛まれていた。
しかし、ギメルは体調が悪いと言ってクシュすら近づけさせなかった為、彼がセラとクシュ、山の賢人に昏い眼を向けていたことには、誰一人として気がつくことはなかった。
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