堕星記

堕星記:第一節

1

 星の運行を天使に任せるようになってから、エルシエルは次々と天使を生み出しては星を与えた。

 その多くは陸にあるモノを見て取り、それを超えんとして作られたモノだった。

あるモノは獅子と鷹の頭を持ち、またあるモノは熊の腕と豹の脚を持ち、またあるモノは何百もの翼を持ち、その羽一枚一枚に目を持って地上を見張るモノもあった。

 作られた天使は人の姿そのままのモノもあれば、怪物に近い形を持ったモノまで様々となり、エルシエルはより複雑で、より華美なものを好んでそばに置いた。


2

 作られてから数千年もの間、天使たちは星を動かしながら、地上を見つめていた。彼らはとりわけ人間に興味を抱き、やがて天使の中に人間と交わることを望むモノが現れた。

 一人の天使曰く、「見たまえ、我らのもととなった人間の姿を。《父》はおろかガイアラキに教えられたわけでもなく、彼らは播き、紡ぎ、歌い、描き、喜びと苦節のなかを懸命に生きている」

 またある天使曰く、「我らは空に命を与えられた身。しかし人間の姿を見ていると我々が果たして生きているかどうかが定かでなくなる時がある。繰り返し星を動かし続けることに苦しみも喜びもない」

 ある時、一人の天使が泣いているのを、別の天使がその理由を問いかけた。曰く、「自分の司る星は地上にあるモノたちへ与えられる病の運命を司る。瞬けば草が萎れ、鈍くなれば動物が衰える。自分をこの星のもとへ置いた運命が呪わしい」 空の底、地上に最も近いところで星を動かす天使には、他の天使が持つような素晴らしい動物の頭などがなかった。持っているのは生まれた時に与えられた星と翼のみであった。彼は星を動かす傍ら、天上でエルシエルに侍る天使たちを恨めしく見つめていた。

 地上の人間を羨むもの、自分の使命に疑念を抱くもの、自分の生まれを呪うものたちの声が大きくなってきたとき、煌びやかな羽を持つ天使が現れて言った。

「動機がどうあれ、もはやこの空に君たちの心はない。そして、どこへ向かうかも決まっているのではないかな?」

 別の天使が戸惑いを見せながらどこへ、と尋ねると、煌びやかな羽の天使はただ一本の指を地上へと向けた。

「我こそは、という者は僕のもとへ集うがいい。我が名はアルゼラ。自らの持つ星のことなど忘れ、我々のこの姿を受け入れてくれるものを探そう。」


3

 アルゼラは農耕や医学、建築や工作などの知識に優れた六人の天使を筆頭に数多の天使を従え、空から身を投げ出した。

 空から落ちる天使たちはその身を焼きながら地上へと近づき、その多くが途中で燃え尽きて珠となり果てた。この時に霧散した天使たちの身体は大気に漂い、それを吸った人々には知恵が宿ったという。アルゼラの計画に乗った天使が数百であったのに対し、生き残ったのはわずかに二十を数える程度だった。

 アルゼラをはじめとした生き残りの天使たちは、地上の人間たちに様々な技術の知恵を与えながら、人間と天使の集落を形成し、やがて一つの国を生み出した。


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