28 王子の創作能力は四歳児に負ける

 土曜日。

 保育園はお休みだ。城で働く子供のいる家庭は土日休みなんで、保育園も休みになってる。

 でも、ずっと部屋の中にいちゃヒマだろう。

 侍女に空き箱や空のゼリーカップとかもらい、折り紙やセロテープも用意する。

「どうすんだこれ」

「廃材工作するの。保育園でもやってるわよ。オスカーくん、これいくらでも使っていいわよ。好きに工作してOK」

「……?」

 工作なんかしたことないらしいオスカーはとまどってる。

 想定の範囲内。

「ノア、手本見せたげて」

「え、俺?」

「これでロボとか車作ってよ。男の子受けするものはあんたのほうが分かるでしょ」

「あ、そっか。よーし、超絶かっこいいロボ作ってやるぜ」

 しばらくしてできたものは、どう見てもゴミ。

「完成! どうよ!」

「……どこが足でどこが手? 人型ロボよね?」

「これが足、腕。ロケットパンチもできる設定だぜ」

「足の長さ違くて立たないんだけど? ロケットパンチって言いつつ、手が外れるわけでもなし」

 ノアが手を離すと、ロボ(非常に疑わしい)はパタンと倒れた。

「くそう、駄目か。じゃあ、こうしてああして……今度こそ完成、俺最強号!」

 さらにゴミ度アップ。あとネーミングセンスなんとかせい。

 オスカーもあまりのレベルの低さにあきれてる。

「ノアおじさん、これつけたら?」

「ん? おおっ、オスカー、センスあるな! ちゃんと立つし、かっこよくなった!」

 十八歳より四歳のほうが腕が上って。

 下手くそな叔父をみかねた甥は手を出し始めた。

 ふう、計算通り。

 光輝の図工の成績が壊滅的だったのを覚えてるからね。今世でもわざわざ大工に手伝ってもらってるのにゴミ量産してたし。

 粗大ごみ処理費用いくらかかったのかな。税金で処分してたんだとしたら、今からでも遅くない、払え。

 叔父が泣けてくるくらい低レベルの作ってたら、オスカーも仕方なく手伝うと思ったのよ。

「よっしゃ、もっと作るぜ! ロボと飛行機作って戦わせよう」

「うん、いいよ」

 どうぞお好きなだけ。あたしは見学で。

 折り紙はこの世界になかったから、あたしが作らせた。保育所じゃ大人気の遊びだ。外国人に折り紙がうけるのと同じね。

 たぶん外国人に一番人気の折り紙はツルより手裏剣だろうな。某忍者というクールジャパン。

 そこへ陛下と父がやってきた。

「やあ。例の件のことで話が。ノアは?」

 あたしはそっちを指した。絶賛ガラクタ製造中だ。

「ああ、バカがいるな」

「ひどいな兄上。今、俺天才号作ってんのに」

「もうツッコミが追いつかんからスルーする。耳だけ貸せ。B公爵家は取り潰すことにした。ジャックに子はないし、それくらいの処分は仕方ない。妻エリニュスの離婚届は受理済。C侯爵家に戻るそうだ。彼女も被害者といえるし、世論も彼女には同情的。罪に問わない方向で」

 今頃C侯爵家には求婚者が殺到してることだろう。

「王族と一族の先祖の争いの原因も公表することにした。情けない話だから黙っていたかったんだが……」

「恥より大事なことってあるよ。俺だって恥かなぐり捨ててソフィアに好きって言ってんじゃん」

「実感こもってるな。ていうか、恥だと思ってはいたんだな」

 同感です。

「オスカーに王族の子孫として新たな爵位を与えることも承知した」

「ぼくがなんですか?」

「オスカーもちゃんと地位を保証するってことだよ」

 難しくてよく分からなかったらしく、「ふうん」と言っただけで作業を再開した。

「式典の日程は調整中だ。決まったら連絡する。一族側も出席の方向だ。そういえば、子供たちを引き取りたいと言いに来たって?」

「はい。でもぼくいやだっていいました」

 母方祖父母が何やってたか陛下も報告受けたようで、うなずいた。

「兄上は前からそこらへんの事情知ってたのか?」

「ああ……護衛を通じて報告を受け、オリバーに手を貸そうかと言ったんだが断られた。自力で何とかするつもりだったらしい。私が動けば何か問題があると国民にバレてしまうからと。そうするとまた争いが起きるかもしれないから、黙っていてくれと言われた」

 影響力ある人が行動を起こす時は注意が必要。……よく知ってる。

「しかし私もエマさんが浮気などありえないと思っていたし、ほっとくわけにもいかないと、護衛にあちらの誤解を解く手助けをするよう言ったんだが。思ったよりジャックの嘘が巧妙で、上手くいかなかったようだ。一族も自ら和解を台無しにするほど愚かではないと甘く見ていたかもしれない。……オスカー、すまなかったな。私がもっと早く直接行動を起こしていれば、防げたかもしれない」

 オスカーは黙ってハサミで箱を切っていた。

 ずっと沈黙していた父がこの時やっと進み出て、オスカーの隣にしゃがんだ。

「何を作ってるんだい?」

「……おじさん、だれだっけ?」

「ソフィアのお父さんだよ。だからおじいちゃんだと思ってほしいな」

「……おじいちゃん?」

 母方を思い出したのか、一瞬顔が暗くなる。でもさすが父は一国の宰相だった。笑顔で人の心をほぐすのはお手の物。

 オスカーも父に敵愾心は持たなかったようだ。

「落ち着いたら君たちもうちに来ることになってたの覚えてるかな? ソフィアのおうちでもある。遠慮なくおいで」

 元々王位を継がないノアは独立する予定だったし、このままいつまでもオスカーとリアムが城にいるわけにはいかない。陛下の子を差し置いて王座に座るつもりだと言い出す連中が現れたら困るからだ。特に一族側に。

 和解の証として、両家の血をひく子を王にしろ、と騒ぎを起こす可能性がある。前の和解時に「いずれ子が生まれても、王位継承争いが怒らないよう、その子は王にはならない。代わりに公爵の地位を与え、生活を保障する」って決めてたけど、その約束を破るかもしれないてことだ。特にあれだけ激昂していた祖父母なら、一旦落ち着いてはいるがまた何かやらかす恐れはある。

 そこで宰相が預かるという形をとることにしたと。

 もし当時陛下の子がもう少し大きければ、婚約にして決着してたろうけどね。

「あれ? せんせいのおうちここじゃないの?」

「違うぞ。ちょっと色々事情があってしばらく泊まってもらってただけ。元々俺はソフィアんとこに婿に入るつもりだったし、予定通り引っ越そうかと。せっかくここに慣れたのに悪かったな」

「べつにいいけど……とおいの?」

「近いよ。歩いて2,3分」と父。

 宰相って仕事の都合上、すぐそこに屋敷がある。

「お城ほど広くはないけど、まぁまぁ広いよ。ソフィアが拾ってきた動物もたくさんいるし。あと、スポーツジムとカルチャースクールと……何があったっけ?」

「えーと、あちこち手を貸してるからね。近くに作ったのはアニメ会社と遊園地と動物園と水族館と美術館と……」

「アニメ会社って、まさか最近テレビで始まった子供向けのあれ?」

 その口ぶり、ノアも見てるな。

「うん、男児向けの戦隊ものと女児向けの魔法少女的な。あたしは大本の原案出しただけで、作ってるのはスタッフだからね? ネタだけ提供して、あとはストーリーから何までやってもらってる。大したことはしてないわ」

「えええええ?! ちょ、声優さんのサインほしい! アニメ作ってるスタジオの仕事場も見たい!」

 図体大きい子供のほうが興奮してる。

「それくらいならコネあるけど……」

「やった! オスカー、お前も絶対楽しいぞ! で、なに、遊園地とかも作ったのか?」

「そう。オーナー特権でどれでもパスポートなら簡単に手に入るわよ」

「マジか!」

 女神様!って拝まれた。

「それからこの前、密猟集団を摘発した際に保護したパンダを保護団体から一時預かりしてて、庭に……」

「パンダ?!」

「他にカンガルーとコアラとレッサーパンダとチーターと象とキリンと、ドラゴンに……」

「いくいくいくいく!」

 ノアとオスカーがハモった。

 陛下すら「見たい」って顔してた。そのうち動物園に移りますし、どうぞ。入園料大人600円です。

「一気に孫が二人も増えてうれしいなぁ」

 父がのんびり言う。

 オスカーとリアムはあたしの子じゃない。ノアの子でもない。それでも父は『孫』と思ってくれてる。

 リアムを抱っこした父は早くもジジ馬鹿になってた。

 オスカーもうちに来たがってる。嫌がられるかもって最大の懸念はクリアした。

 ……じゃあ、もう一つ。最後に片付けないとね。

 やらねばならないことがあたしには残っていた。

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