23 王子もたまには真面目にやります
軍の迅速な行動により、過激派組織は壊滅した。
他の下請けや分派した連中も速やかに逮捕するべく動いてる。捕まるのは時間の問題だろう。
ジャックも複数の容疑で再逮捕された。妻のエリニュスが泣いてたと署から連絡を受けたノアが言った。
彼女とはソリが合わないけど、こういう時にざまあみろと思うほどあたしは人でなしじゃない。
「ノアおじさん、なんのはなし?」
膝の上にいたオスカーがきく。
ノアは決心したらしい。真面目な顔で甥に話し始めた。
「ああ……。オスカー、よく聞いてくれ。お前のパパやママ、屋敷のみんなを殺した犯人が捕まった」
オスカーは持ってた本を取り落とした。
「……パパ、ママ……」
「悪い人は俺がもう捕まえた。安心しろ。ちゃんと罰を受けさせる。兄上も相当怒ってるしな」
「パパぁ、ママぁ……」
思い出して泣きじゃくる。
ノアはオスカーの頭を撫でながら、
「辛いと思うけど、お前ももう四歳の男子だ。ごまかすんじゃなく、きちんと教えようと思う。お前のパパとママは天国に行っちゃって、家も燃えてなくなった」
「……おうちもなくなっちゃったの?」
オスカーは気絶してた間に救出されたから、家がどうなったかまでは知らなかったか。ここにいるのは一時的で、落ち着いたら戻れると思ってたのね。
「ああ。オスカーはそのうち帰れると思ってたかもしれないが、それはできない。家がないってこともあるし、また狙われたら危険だって意味もある。だから兄上とも話し合って決めた。オスカーとリアムは俺とソフィアの家族になって、一緒に暮らそうってな」
「……なんで?」
オスカーは初めて反発した。
これまで聞き分けのいい子だったのは我慢してたからだ。ついに我慢が限界を超えた。
「なんでパパとママいなくなっちゃったの? なんでおうちもないの? やだ! パパとママとおうちにかえるー!」
わめいて暴れた。
どんなに叩かれても、ノアはされるがままでいた。
「……ごめんな。俺がもっと早く気づいて助けに行ってれば……」
リアムが兄の大声に驚いて泣き出す。あたしはあやすので手いっぱいだ。
「やだやだやだ! おじさんはにててもパパじゃないもん、せんせいもママじゃないもん――!」
「……そうだな。お前のパパは兄さん、ママは義姉さんだ。それは決して忘れちゃいけない。他の誰も代わりになれない。でも、俺もソフィアもお前たちを大切に思ってる。だから家族になりたい。それじゃダメか?」
「かぞく……?」
オスカーはなおもしゃくりあげながら、
「……おうちかえりたいよ、パパ、ママ……」
ノアは自分が父親、あたしが母親になるとは言わなかった。
それでいい。絶対に他の誰も本物にはなれないんだから。
リアムをあやしてると、侍女が気まずそうにやってきた。
「あの……エマ様のご両親がみえてます……」
あたしとノアは視線を合わせた。
それだけでお互い理解し、うなずく。
「オスカー、おじいちゃんおばあちゃんが来たそうだ。会うか? お前が俺たちと暮らすのは嫌だ、おじいちゃんたちといたいっていうなら、俺は止めない」
オスカーは驚いてノアを見た。
「俺はお前たちに幸せになってほしいだけだ。破滅の未来を……変えたいだけだ。だから一つだけ約束してほしい。何があっても悪い人になってリアムと戦わないこと。それだけは絶対守れ」
ラスボスになって、正義のヒーローの弟と殺しあうのだけは。その運命は変えたい。
それがあたしとノアの願いだ。
「分かったな。約束だ」
「……うん」
普段のいい加減な態度とは似つかないほど真剣な叔父の姿に、気圧されたオスカーはうなずいた。
「忘れるなよ。よし、行こう。―――あ、でもリアムが泣いてるか」
「ああ、大丈夫よ」
あたしはリアムの顔にふっと優しく息を吹きかけた。
一瞬リアムが虚を突かれた表情で固まる。「何が起きた?!」って顔に書いてあるな。
もう一回ふーっとやれば、一転して「きゃはきゃは」と喜んだ。
「え、なに今の」
「これ? あたしが昔、黄昏泣きに悩まされた時、疲れ切った脳みそで何も考えず、ふと思いつきで顔に息吹きかけたことがあるのよ。そしたらこうやってキョトン顔してね。いやー、思わず笑って力が抜けたわ」
リアムは泣いてたことも忘れて喜んでる。
「へえー。黄昏泣きって何?」
「育児本見てないわね。赤ちゃんは夕方、原因不明で泣きまくることがあるの。キツイんだな、これが。何やっても泣き止まないから。原因が分かってれば対処できるわよ? オムツなら替えればいい、ミルクならあげればいい。お乳あげても嫌がるとお手上げ」
リアムの手や足をぴょこぴょこ動かしてやる。
「まだこの頃は自分の手足が自分の一部だってのも分かってないから、こうしてやるだけで不思議で喜ぶの。顔にふーってやるのと手足動かしてあげるのは、玩具とか何も持ってない時でもできるでしょ? お勧めよ。特にさっきのキョトン顔は思わず笑って脱力して、こっちも気分が楽になるわ。で、もう少し大きくなるとお勧めなのが―……」
にょきっと手を伸ばし、オスカーの脇腹をわしわしする。
「きゃははははは!」
くすぐったくて笑う。
「ね? 脇腹わしわしが効果的。ちょっと布団干すからどいてーとか、大したことないいたずらしてるのやめさせる時とか、うるさいぞーって時にコレ使うと平和的に解決する」
「ああ、確かに怒らないで済むし、見た目も楽しく解決って感じだな」
いちいち怒ってたら身がもたないしね。
「北風より太陽。怒るよりも、優しい手段で自発的に相手を動かしたほうがいいってことよ。さ、改めて行きましょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます