21 俺もしかして役立たずじゃないでしょうかby殿下
変装を解いた俺が駆けつけた時、動物警備チームが戦隊ものよろしく果敢に戦ってるとこだった。
「フェニックスドリル超スーパーミラクルハイパースクラッシャーアターック!」
「ライオンファイナルクラッシャー!」
「ねずみ達よ、第二陣形をとれ! 敵は本能寺にありィィィ!」
なんか絶妙にダサい技名とか聞こえる。
もうどこからつっこんでいいか分からない。ネーミングセンスか、動物警備チームのほうがはるかに優秀ってとこか。
ネズミはわさわさいて、悪寒がするから正直近寄りたくない。あー、腕がゾワゾワする。
「フェニックスはいくら攻撃くらってもノーダメージだからねっ。無駄だよん」
「オイラの皮膚はどんな武器もはね返す。倒したければヘラクレス並みの猛者連れてこいや!」
「今回は『外はほらほら、中はすぼすぼ』などと教えはせんぞ!」
最後のは何のネタ?
後でソフィアに聞いたら、『古事記』だってさ。大国主命がスサノオノミコトに焼き討ちかけられた時、ネズミが一見分からない地面の下の穴を教えて助かったって話だって。よく知ってるよなぁ。
ギャースガウバウガオーチューあんぎゃー。
鳴き声うるせっ。『ブレーメンの音楽隊』か。
不審者ども、一方的にやられてるよ。悲鳴が鳴き声にかき消されてる。
他にも加勢が来てて、馬は蹴飛ばし、庭師は枝切ばさみ持って追い回し(盗み食いしてた俺も昔やられた)、カメが某特撮ものみたく回転甲羅アタックかましてるし。
「俺、来た意味ねーな」
あはははは。
複雑な思いで終わるのを待った。軍から派遣された警備チームも同じようにたそがれてた。
一段落したらしいので逮捕する。
「さーて、誰に命令されたか吐いてもらおうか。……っと、あれ?」
さっきからもしやと思ってたが、男のうち数人に見覚えがある。
「和解反対の過激派だな。てことは、これは反対派のテロか?」
オスカーとリアムを狙ってるのは犯人だけじゃない。葬儀の騒ぎで反対派に火がつき、暗殺しようとしたか。
単に危険が犯人だけなら、俺たちもここまで警戒しなかっただろう。兄上が直接命じるほど第一級の警戒態勢にしてたのは、他にも不安要素があったからだ。
和解が進んでるとはいえ、いまだに反対派は根強くいる。中には過激な思想の者たちもいた。だからこそ兄さんや義姉さんの周囲はものすごい警備体制だったんだ。
実際何度か脅迫状が届いたりしてる。
兄さんたちが殺された時も、まず疑ったのは過激派によるテロだった。ソフィアにはジャックの犯行の可能性もあるとは言ったけど、可能性は薄いと思ってた。ジャックは文系で、戦闘能力はない。訓練を受けた護衛を含め、屋敷内の人間全員を殺せるだろうか?という疑問があったからだ。
あいつは昔から弱っちくて細くて、心配した親が軍の訓練に参加させたりしたんだけど、5分もたずに音をあげたくらいだ。
まず準備運動の時、グキッて嫌な音して救急車。終~了~。
さすがに以後は親もあきらめ、政治方面でがんばればいいんじゃないかと言ったそうだ。代わりに勉強をがんばり、首席で卒業してる。
政治的能力には長けてたから、領地の運営が上手かった。領民からも慕われてて、いい領主ってのがもっぱらの評判。エリニュスとは政略結婚だけど、仲良くやってるもんだと思ってた。
なにしろ『国一番の淑女、美人、エリニュス女神様』だからな。俺はソフィア以外興味ないんでどうでもいいけど、一般的には優れた女性だってのは分かってる。
義姉さんも美人だけど、エリニュスを妻にしてて他の女にストーカーってなぁ。怒り狂うファンの姿が見えるぞ。
兄さんは文武両道でイケメンだったから、ジャックは密かにコンプレックス抱いていたのかもしれない。俺? 俺はバカと見なされてたから論外。ジャックが勝手にライバル視してたのは兄さんだ。
そのライバルに負けて、そこまで好きじゃなかったけど執着するようになったか。次第に高じて本当に好きと思い込み、犯罪レベルになった。
だからもちろんジャックはストーカー容疑で逮捕したけど、殺人犯は別にいると思ってた。こいつらがそうか?
当然誰もしゃべらない。署に連行して取り調べようとしたら、いつの間に来たのか園長が進み出た。
「任せなさい」
やおら一人を腹ばいにして膝に乗せ、お尻をペンペン叩き出した。
ペンペンペンペンペンペンペンペン。
ペンギンの行進じゃないぞ。
「こら! 悪い子はおしおきです! お尻ペンペンよ! 子供たちを狙うなんて許せません、ちゃんとごめんなさいしなさい!」
「いでででで、やめてくれええええ!」
ゴッドハンド・レッドの必殺技、尻叩き。
衆人環視の中、大の大人が小さなおばあさんに尻叩かれてる。
これはキツイ。恥ずかしい。肉体的より精神的にくる。
「やめて下さい恥ずかしいいいいでででで!」
「お黙り! 次! みんなお尻百叩きだからね!」
「うぎゃあああああ尻があああああ!」
みんな恐ろしさのあまりガクブル。
こ、こええ……やっぱ『母ちゃん』ってこええ。
自分もやられるのは嫌だと残りが自白した。
「すいませんごめんなさい、依頼されたんです、ジャック様に!」
は?
さすがにこれは予想外だった。
「そんなバカな。ジャックは和解賛成派だ。反対派のお前らとは逆だろう」
「嘘じゃない! ジャック様の使いが来たんだ、これまで何度か会ってるから知ってる!」
……何だって?
すぐ連中を署に連れて行くことにした。
「園長、俺も行ってくる。念のため警備は残れ。第二弾が来るかもしれない」
「承知しました。ご心配なく、私どもがおりますから」
「あ、うん、そうだな」
おかんに敬礼し、署へ向かった。
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