14 城内保育所は動物がいっぱい(バイト時給?円)
園舎は平屋、城の端に増築したもの。
園庭は芝生と土と二つある。放置されてた庭を改装して作り、元果樹園の隣は果樹と畑になっている。
遊具もふんだんに置かれ、動物もそこらじゅうにいた。オスカーは本物の動物を見たこともなかったから、驚きが冷めやらない様子。
「どうぶついっぱい!」
「いっぱいいるよー。あそこ歩いてるのはアヒル。そっちで草食べてるのは羊とヤギと牛」
「……ここ牧場だっけ?」
ノアがつぶやく。
「普通に犬猫ウサギもいるわよ。オスカーくん、猫なら恐くない? 触ってみる?」
「頭なでてほしいにゃー」
猫がすり寄ってきた。
こっちの世界の動物はしゃべれます。
「いいの? わあ、ふさふさー」
ウサギや犬も大人しく順番待ちしてる。みんな撫でてもらうの好きなのよ。
「どこからこんな集めてきたんだよ」
「みんなワケありよ。犬猫は保護団体が保護した子」
「その団体もソフィアが作ったんだろ」
「当たり。働いてたけど高齢でリストラされた動物もいるわ。ほら」
黒くて大きな馬がやってくる。ノアが眉をひそめ、
「あれ? 父上の馬じゃ」
「おや坊ちゃん、お久しぶりですな」
馬がのんびり言った。
「引退したって聞いてたけど、ここにいたのか。よく俺だと分かったな」
「においで分かりますよ」
動物だからね。
「おうま、おっきー」
「オスカー、この馬はお前のじいさんが乗ってたんだよ」
「ほんと?」
「乗ってみますかな?」
馬はオスカーを乗せてくれた。子供たちには人気なのよね。
「たかーい、こわーい、でもたのしいー!」
「まだ子供を乗せることくらいならできますからな。坊ちゃんもよくお乗せしましたっけ」
「えー、うん、それで父上に勝手に乗るなって怒られたっけ」
基本いたずら坊主だからね。
「下りますかな? しゃがみましょう。よいしょっと。ただのごく潰しになりかけてた私に仕事をくださって、ソフィア様には本当に感謝しているのですよ」
「いやだってさ、この阿呆にあれだけ迷惑かけられて、年取ったからリストラとかねぇ」
「ひどいなオイ。……あとさ、さっきから気になってたんだけど、そこの大きな岩はなに?」
ノアはどーんと園庭に陣取った大きくてゴツゴツした岩を指した。
「なぜか見覚えが」
「岩じゃにゃあですよ」
ニュッ。
亀の頭が出てきた。
「わあああ?!」
オスカーがびっくりしてあたしの背後に隠れる。
園児たちは慣れたもの。
「あ、カメおばあちゃん、おきたー」
「おはよー」
「はい、おはようさん。わんぱく坊主、小さい頃よく背中に乗っけてやってたの忘れたかい」
「あ、城の裏の湖にいたカメ?!」
「浦島太郎ごっこやるとかいって、溺れかかってたわよね」
魔法で空気のバブル作ればいいのに。
「バイトで時々来とるんよ。特に夏、湖で水泳指導しとるわいな」
「あー……適役」
ちなみに高齢の動物たちはアルバイト契約。体調に応じて来てもらってます。一部ボランティアもいます。
「動物ならペガサスもいるわよ」
「マジで?!」
「ほら、あっちの空に。……あ、フェニックスも来た」
「フェニックス?!」
男子全員がめっちゃテンション上がる。ノアとオスカーも例外ではない。
ペガサスには女子のテンションがアゲアゲ状態。
「フェニックスは今日シフト入ってたっけ?」
「や、急きょ変更したんだよん。チョリーッス☆ 事情聞いてね、ボクちんもお手伝いしようかとっ。子供を狙う卑劣な犯罪者なんて激おこぷんぷん丸さ。上空からの警備はボクちんに任せてチョンマゲ。アゲぽよできまっしょい。フゥ――☆」
ゴオッ。
何か色々吹き飛んだ。
ノアがものすごくこの現実は認めたくないといった顔で、苦渋に満ちた声を出した。
「……幻聴だよな」
「あはははは。ボクちん年いってるけど聖獣だよん? 古くさくならないよう、常に流行の最先端いこうと思ってね!」
「あきらかにおかしな方向に行ってるだろ」
同感。
「え、男の子たちさ、こんなチャラいフェニックスって知ってたんだろ?」
「しってるけど、みためかっこいいもん」
ですよね。
「空のパトロールっていうと、頭部が食べ物で、お腹をすかせた子供たちを救うヒーローなんだけどなぁ」
「あんたもこっちの人には分からないボケかますわね」
来てくれたら子供たちは間違いなくフェニックスより喜ぶだろうな。
「空はボクちん担当。地上は彼がやってくれるってよん☆」
のっそり。
現れたのはライオン。
「おいおいおいおい!」
ノアがすかさずオスカーを後ろにかばった。
「大丈夫よ、彼もうちのバイトだから」
こてーんと転がって腹見せるライオン。
「にゃお~~ん」
喜んでお腹なでられてる。顎の下カリカリしてやると、のどを鳴らす。
「しゅえいのおじちゃん、ふさふさ~」
「たてがみかっこいー」
「守衛かよ! しかもライオンなのにいいのかそれ?! プライドどうした!」
「何言ってんスか。強者には逆らわないっス」
あたしを見て言うライオン。
「理解した」
その一言で何を理解した。
「ソフィア先生には絶対服従っス。動物は自分より強い相手にはケンカ売らないっス」
「分かる分かる」
何が分かるって? ハリセン準備できてますのことよ。
園児たちの前だから、ひっぱたくのはやめてやった。
「オスカーくん、このライオンは門番なのよ。みんなの安全を守るお仕事してくれてるの。オスカーくんのマークもライオンでしょ?」
「うん! ぼくもつよくなってみんなをまもりたい!」
―――……。
それは、両親を失ったから?
「そうね、みんなを守る、優しくて強い良い人になろうね」
ラスボスじゃなく。
弟と殺しあうこともなく。
「いやぁ、オイラも若い頃はヤンチャして、ある英雄に丸ハゲにされまして。海岸で泣いてたら大勢の兄弟にだまされましてね。さらに痛くて泣いてたら、後から通りがかった弟さんが正しい方法教えてくれて、毛が元通り生えたっス」
「それ話違くね? 俺でも分かる。因幡の……」
「それで懲りて真面目に働くようになったんスが、オイラを雇ってくれるとこはどこもなくて。だからソフィア先生は恩人っス! 丸ハゲにされても、子供たちは守ってみせるっス!」
白ウサギじゃなくライオンがほえる。
下から小さな声がした。
「地下と夜の警備はお任せあれ」
ひょこっ。
「あ、ねずみさんー」
「何かいた」
「われらネズミは太陽より雲より風より壁より強し。個人戦は苦手ですが、集団戦なら負けませぬ。武士道をとくとご覧あれ」
一応言っとくと、出典は『ミネアのライオン』(ギリシャ神話ヘラクレスの冒険の一部)と『ねずみの嫁入り』ね。
「我らが必ずやお守りします! 今こそ恩返しの時ですぞ! 昼食におむすび頂きましたしな!」
「……うーん、何か話が色々ごっちゃになってる気が……」
うん、最後は『おむすびころりん』だった。
首をかしげるノアをよそに、オスカーは早くも友達を作って遊び始めた。
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