11 殿下、育児用品を買いに行きましょう(荷物持ち)
城の近くにある子供用品専門店。
車で密かにのりつけた。
開店前でも店長が待っていて、すぐ入れてくれる。中年女性で育児経験者だ。
「お嬢様、ようこそ。さ、どうぞ」
「知り合い?」
ノアがきく。
「公にはしてないけど、この店に出資したのはうち……っていうか、あたしが作ったのよね」
「え?!」
ぐりんっと振り向くノア。
「この国には育児用品専門店がなかったから。城内保育所作った時に、必要なものすぐ買いに行ける店がほしくてね」
国内に保育園自体はいくつもあったけど、城内に作ったのはあたしの発案によるものだ。
「お金出したのはうちの公爵家だけど、どういうものを置くかとか決めたのはあたしなの」
「はー……色々やってんなぁ」
だから急な開店前の買い物もできたわけだ。
リアムは抱っこ紐の中でお休み中。今のうちに済ませてしまおう。
オスカーの手を引き、ノアにカート押させて売り場へ向かった。
ミルクとオムツは目当てのものを店長に言って、
「それぞれ5カートン、積んでおいて」
「そんなにいるのか?」
「何かあった時のために買いだめしておいたほうがよくない?」
「あ、そうか」
「赤ちゃんなんか一日にオムツ12枚使うこともザラよ。1パック一週間もたない」
しかし簡単に外出できない低月齢のうちは、通販か宅配サービスがお勧め。赤ちゃん抱っこしてオムツ何袋も持つのはきついよ。
なくなってから買うんじゃ遅いし、天災などを考えて常にある程度ストックしておいたほうがいいよ。念のため水も。
最初はオムツとミルクの消費量に悲鳴あげたなぁ……。
ダンナに「買ってきて」って言っても全然分からないんだよね。「どれ?」ってそこに現物あるから写メって行け! それで店員さんに同じもの教えてもらえ!
「マジで?」
「大マジで。ちなみにオムツはコンビニに置いてないからね。スーパーもないとこ多い。ドラッグストアですら置いてないことも。あたしは子供用品専門店でまとめ買いしてたわ。あるいは通販。購入単位は袋じゃなくてもはやカートンで」
「オムツ何種類かあるけど?」
「この国ではそれぞれ三種類あるわね。昨夜それぞれ使ってみたのよ。保育所からわざと全種類借りたから。実際使った感じで決めた。子供によって合う合わないがあるもの。あ、哺乳瓶はこれね。これも試した」
いつの間にと感心するノア。
「哺乳瓶の乳首もこの通り種類がいくつもあるけど、大体の対象月齢書いてあるからパニクることはないわ」
ネット上に乗ってる高評価が必ずしも自分とこにあてはまるとは言えない。意外とこれいいなってものもあるし、一度使ってから考えるといいよ。
レンタルで試してからってテもあるしね。
「大目に買っときましょ。ミルクとオムツの選ぶポイント? 人それぞれね。どこに重きを置くかによるわ。オムツなら価格か体型に合うか、肌触りか、横モレしないか、長時間もつか、消臭効果か、メーカーか、柄か、ポイントが貯まるかどうか。人によって大事と思う点は違うもの。あたしの場合は体型に合って横モレしない、安価なのにした」
「はあ」
「漏れると悲惨だからねー。敏感肌だとかぶれることもあるから、肌に合うかどうかは気を付ける人が多いみたい。あ、価格は単純に値札で比較しないようにね。各社封入枚数が違うわよ」
思わずノアは確認した。
「ほんとだ」
「一枚当たりの単価を計算して比較しないと。ケータイに標準装備の電卓使えばよろし。ミルクも価格比較するなら、100gいくらかでみたほうがいいんじゃない? ああ、食物アレルギーもちの場合は医師の言うことに従って。牛乳がアレルゲンだと、普通の粉ミルクは危ないわ。オスカーとリアムも一応食物アレルギー検査しとこうかしら。たぶん大丈夫と思うけど」
哺乳瓶、哺乳瓶洗い、洗って乾かしておく台もカートへ。
「おしりふきは?」
「脱脂綿で代用する。節約よ」
「俺けっこう稼いでるから、気にしなくていいよ」
すいませんね。前世庶民でケチなもので。
「脱脂綿を適当な大きさに切って水で濡らし、半分ぺりっとはがせば立派なおしりふきのできあがりよ。水でかぶれる赤ちゃんはいないし、市販のおしりふきは薬品使ってて嫌だって保護者は使うといいんじゃない? ドラッグストアで普通に売ってるわよ」
「あ、それで兄上に脱脂綿もらってたのか」
そういうこと。
「次。麺棒、赤ちゃん用爪切り、お風呂用マット、ベビー用ボディソープ、スタイ(よだれかけ)、歯ブラシ、温度計&湿度計、哺乳瓶消毒関連、抱っこ紐にベビーカー……」
「抱っこ紐とベビーカーも選ぶポイントあるのか?」
「新生児から使いたいなら、それ対応の買うこと。あたしは自分の体型にあってて、一人で着脱可能な抱っこ紐にしてる。赤ちゃんによっては動きが激しい子だと抜け出して落ちることもあるから、単純に『このブランドい~い』とかで選ばないほうがいいわ。ベビーカーなら片手でたためて、たたんだ状態で自立するかどうかを見てる。次に重量。あっちだと地球温暖化でなるべく地面から遠いデザインのがいいって言われてたわね」
何のことか分かってるノアはうなずいた。
他にもこまごまとしたものを買いこみ、カートはあっという間にいっぱいになった。
店長がもう一台持ってきてくれる。
「まだ買うのか」
「当然。さーて、オスカーくん、お待たせ。ごめんね、つまんなかったよね。お洋服選ぼうか」
「うん!」
退屈してたオスカーの顔がぱっと輝いた。
ここは子供服も豊富にそろえてある。8組くらい選んだ。インナーは10セットくらい。靴も3足。
「衣服なら仕立て屋呼ぶけど」
「時間かかるじゃない。それに子供服何て汚すもの。心置きなく汚せる服ってのも必要よ。パジャマも3セットと」
子供服何ていくつあっても足りないのよ。特に梅雨は。
「それにオスカーくんが自分で選んだんだもんねー」
「うんっ。これがいいー」
「そっか。ならいいよ」
甥っ子に甘い叔父さんはあっさり許した。
「リアムのほうが必要ね。短肌着、長肌着、コンビ肌着に2wayオール……」
「ゴメン。もう何言ってるか分からない」
降伏が早い。
「肌着にも半袖と長袖があるってこと。それぞれ十枚くらい買っとこう」
「そんなに!?」
「汚すって。替えた直後にやられるなんてザラだし」
いくらになるのかとノアが遠い目してる。
だから言ったでしょ。育児はお金かかるのよ。
「お嬢様、調乳ポットとベビーベッドはレンタルでいいと伺いましたので、そろえておきました」
「ありがとう」
「レンタル?」
「この店、レンタルも対応してるの。昨日のうちに注文しといたわ。いつまでも保育所の借りるわけにいかないし。ベビーベッドは月齢上がったら大きめのに交換しましょ。そういうのできるからレンタルは便利よね。布団一式もついてる。大モノは捨てる時、粗大ごみ料金がかかるからさー……。あ、クーハンはレンタルじゃなくて買ってくわ」
「何それ?」
「赤ちゃん用簡易ベッド。折り畳み可能の箱タイプと編み上げかごタイプがあって、これは前者。ごはん食べてる時とか、これに入れて傍に置いておけるでしょ。バウンサーに寝かせるのもアリ」
「バウンサー?」
「ゆりかご。ゆらゆら揺れるあれ。電動と電動じゃないのがあるわよ。嫌がる子もいるから、レンタルで試してみるか」
カードでお支払い。
国内個人資産額トップ5に入る男が「来月の引き落とし額が恐い」って顔してるけど、見なかったことにしよう。
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