8 ラスボス・ヒーローの叔父は色んな意味でどうしよう
やっとソフィアと結婚できた。
無理やりというか口実つけてというか、強制的な感がなきにしもあらずだが、そこは全力で目をつぶろう。
とにかく結婚にこぎつけたのを祝いたい。
なにしろ前世の頃から好きだったんだ。有頂天になるのも当然だろう。実に長い年月かかった。
しかも前世では大失敗をやらかし、嫌われて避けられまくったあげく、別の男と結婚されてしまった。
あれは悔やんでも悔やみきれない。
が、この世界にはそいつはいない。今度もし生まれ変わることがあったら何が何でも
どこの神様か仏様か知らないが、ありがとうございます。
今世の俺は王子。第三でも一応王子だ。権力その他あらるゆる力を使いまくって他の男どもをけん制し排除し、ソフィア(
いまだに嫌われてるのは悲しいが……自業自得。
でもあきらめるわけにはいかない。またしても他の男にとられてなるものか。
何はともあれ、ソフィアは俺の妻になった。「犯人が逮捕されたら離婚したい」みたいに抵抗されたけど、分かってないなぁ。破滅ルート回避するには、犯人逮捕だけじゃダメなんだって。オスカーとリアムを憎み合わないよう育てることが不可欠なんだ。離婚なんかできないんだよ。さすがのソフィアも混乱してたか。
もちろん俺も離婚したいなんて思われないようがんばるし。
「―――顔がキモイ」
兄上のげんなりした声が降ってきた。
「ん? あれ、兄上、いたの」
「さっきからいたよ。弟がにまにまと妄想に突入してたからドン引きしてたとこだ」
ひどいなぁ。
「顔がキモイって、ブサイクって意味に聞こえる。俺はイケメンなんだけど」
「自分でイケメンとか言うか。事実だからムカつくな」
兄上も俺によく似てるし、イケメンだよ。
ちなみに兄さんもよく似ていて、三人並ぶと分身の術使ってるみたいだった。しかも五年後、十年後、みたいな。
「オスカー、ご飯食べてお風呂入ったのか。よくあったまった?」
「はい。へいか」
オスカーは兄さんに兄上を「陛下」と呼び、敬語を使うよう教わっている。
「ああそうだ、牛乳飲むか?」
俺はいつもの習慣で用意してもらった牛乳を勧める。
オスカーは首をかしげた。
「風呂上りには牛乳だろ。フルーツ牛乳もあるぞ」
「それなぁに?」
「えーと、牛乳にフルーツ入れて作ったジュース」
「のみたい!」
子供はジュース好きだもんな。あげると喜んでた。
兄上は甥に微笑みながら、目だけ俺に向けて、
「長年初恋こじらせてる弟があまりに気の毒だから結婚後押ししてやったけどな、ちょっと落ち着け」
「落ち着いてるよ。恋焦がれたソフィアがやっと手に入ったんだ。いかに口説くか真剣に考えてる」
「だからそれをな」
「ノアおじさん、せんせいだいすきなの?」
「大好きだ」
拳を握りしめて即答した。
「ソフィアはかわいくて美人で気立てが良くて偉ぶらなくて、強くて、いい母親になると思うし」
「ストップ。ノロケたれ流すな。そういうこと始終言ってるから本人に睨まれてるんだろ」
「褒めてるのになんでだろうな? でも最近はああいう夏場に三日放置した生ゴミ見るみたいな目を向けてくるソフィアもイイと思うようになってきた」
兄が物理的に一歩下がった。
「マジでヤバい。これそのうち殴られるのもうれしいとか言い出すんじゃ」
「そうかも」
ソフィア限定だけど。
「ヤバい変態がいる。こいつに子供任せて大丈夫か? オスカー、こいつを見習っちゃ駄目だからな。真似しちゃいけない大人の見本だと思え」
「はーい」
実の兄は容赦がない。
「そもそもお前、なんでそこまでソフィアに嫌われてるんだ」
「ああ、それ? えーと……小さい頃の行いが原因」
前世の話だが。小学生時代のこと。
「男子ってさ、小さい頃好きな子にいじわるするもんじゃん? 照れくさいのと、相手の気を惹きたいから」
「大人になれば逆効果だって分かるけど、子供のころは分からないんだよな」
「そう。それでついやっちゃってさ。ソフィアも気が強いじゃん? ムキになって来るから、かまってくれてうれしくて、しょっちゅう繰り返して。気づいた時には取り返しがつかないほど嫌われてた」
「……えっ、それが原因?」
兄上はあきれ声をだした。
男子にしてみれば悪気があったわけじゃない。でも女子にすれば大嫌いになるのに十分な理由で。
悟った時にはすでに遅し。
中学時代、必死に謝って訳を話して告白したけど、一蹴された。それどころか「罰ゲームか賭けでもしてんの?」と言われた。そう返されるほど俺の行いが悪かったということだ。
それから恥も外聞もなく「好きだ」とアピールしまくったけど通じず、むしろ逆効果だった。
大人になって他の男と結婚されてしまった時は、この世の終わりみたいな気分だった。
見たくなくて、仕事を口実に遠くへ逃げた。人づてに子供も生まれたと聞き、幸せでやってるのかと落ち込んだ。
俺も何人かと付き合ったけど、未来以上に好きになれる人はいなくて、とうとう一生独身で過ごした。
独りぼっちで死ぬ間際、あったのは後悔と自責の念だけだった。
「だからオスカー、絶対に好きな子にいじわるするんじゃないぞ。死んでも後悔するからな」
来世まで後悔してる俺が言うんだから間違いない。
実感こもりまくりの言葉に、オスカーは分からないながらもうなずいた。
兄上は天を仰いだ。
「それが原因かー……言っちゃなんだが自業自得だな」
「分かってるよ。だから挽回しようとがんばってるじゃないか」
オスカーまでぽんぽんと肩をたたいてくれた。
「オスカーもソフィアが好きか?」
「うん。せんせいやさしいもん」
「だよな。てわけで協力してくれ。叔父さんが先生に好きになってもらうために」
「わかったー」
「よし、男と男の約束だぞ」
「子供相手に何やってんだ……。しかも内容が奥さん口説くためって」
兄上はぼやいた。
「俺にとっては宇宙で一番大事なことだし! ソフィア大好きだ! なあ、ともあれ結婚できたんだからとりあえず祝杯あげていい? 城で一番いい酒くれ。ソフィアが子どもたちあやしてるとさ、俺たちの子供ができたみたいなんだよなー。長年妄想してた光景が。あああどうしようどうしたらいい俺」
「空き瓶なら壊れたその頭殴るために持ってきてやる。とりあえず黙れ」
兄にすっぱり見捨てられた。
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