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 反対に、スミレというのは、どこかか弱くて儚い花のように思っていた。

 貴重で守ってあげなくてはいけない花。それが私のスミレのイメージだ。

 このイメージを作ったのは、間違いなく祖母だ。


 私の祖父母の庭に金木犀がある。

 根元には、春になると、ぽつりぽつりと深い紫色のスミレが咲く。

 五枚の花弁は、一番下の一枚が他の花弁よりもやや大きくて、そのせいか少し首をもたげている。茎は細くて、その細さと全体に小さい様子が、私のスミレのイメージに拍車をかけている。

「スミレは絶対に引き抜いたりしたらいけんよ。」

 祖母は、大事そうにスミレを見つめながら私に言った。私は、その祖母の目線と言い方にどこかスミレを守ってあげなくてはならない使命のようなものを感じ取った。


 それがどうだろう。

 スミレと言うのは、本当はとても強い花だ。

 私のいつも通るアスファルトの道路の隅っこに春になるとひょっこり顔をだしているあの深い紫色は、まぎれもなくあのか弱いスミレなのだ。

 よく見てみると、アスファルトの割れた隙間に生えている。ひとつだけではない。ふたつもみっつもよっつも。

 ぐるりと見渡すと、そこらへんのアスファルトの隙間に力強く生えてその重そうな首をもたげて揺らしている。

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