8-3
春は、七草の他にも食べられる草がたくさん生える。
ツクシはいつも家の裏の畑で大量に収穫しては祖母に醤油で煮てもらって食べた。
私は、ツクシのカンムリ取りが好きだった。
ツクシのカンムリとは、茎の部分にある冠型の葉である。ここは硬くて食べられないので取り除いてから調理するのだ。
いらなくなった広告を二・三枚テーブルに広げてカンムリをとる。冠の山型と山型の間に爪を入れて裂いたらあとは指でくるりんとむしる。
カゴいっぱいに収穫したツクシは煮ると半分くらいの量になってしまったが、食べるときに祖母が「初物だから、東向いて笑って食べなさい。」と言って食べるのが好きだった。
祖父母のうちなら「ぼーんぼーん」と鳴る大きな時計のほうを向いて私は、「嘘笑い」をする。「はっはっはっは!」と言っていると次第に本当に笑いたくなって「うふふふふふ」と言いながらツクシを噛んだ。
「これも、食べられるんて。」
すーちゃんが学校帰りに指差したのは、「ピーピー豆」だった。私たちは、烏野豌豆のことをそう呼んでいたのだ。
烏野豌豆は、その名の通り豆ができる。花もえんどう豆の花に似ていてピンクのハンカチを折りたたんで作ったみたいな花だ。ツルは烏野豌豆が互いに巻きついてぐちゃぐちゃになっていた。
「ピーピー豆」は、烏野豌豆のさやの部分を使って作る笛で、文字表記どおりのぴーぴーというかるい音が鳴った。
えんどう豆や枝豆を剥くときのように先の尖ったところから、すいっと筋を取る。そしたら筋を取った方だけ開き、中の豆と白い筋をとって中身をきれいにする。きれいになったら閉じて豆の両端を切り取ってしまう。それを唇ではさんで吹くとそれは笛になるのだった。春の音だ。
「この捨ててしまう中の豆、食べられるんだって」
ピーピー豆を作りながら、すーちゃんが言う。
言われて私は、あたりを見回す。この原っぱに、食べ物がいくつあるのだろう。
セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロ。それに、紫のホトゲノザの蜜、ピーピー豆にツクシ。
「すーちゃん、お腹がすいた。帰ろう」
私たちは、互いに作った花冠を交換して、「小学校へ行く坂」を下った。
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