銀杏
7-1
母は、イチョウの木の下を通ると顔をしかめる。さらに、茶わん蒸しの中に入っているギンナンはいつも私にくれた。顔をしかめながら。
私は、いつもそんな母がおかしかった。
「どうしてそんなにイチョウが嫌なの?」と聞くと、「あの匂いを思い出すから。」とたった今その匂いを嗅いでいるみたいなすごい形相で説明してくれた。
あの匂いとは、銀杏のあのなんとも言えない野性的な匂いである。私は、ちっともあの匂いを嫌だと思ったことがなかった。
私にとってあれは、「イチョウのバラ」匂いだ。
「イチョウのバラ」を教えてくれたのも、すーちゃんだ。
私たちの小学校の校門の近くに群をなしてはえる銀杏の木。
秋になるとそこは黄色のじゅうたんで素晴らしい眺めになる。私たちはそのじゅうたんを、銀杏の木の群れに一本だけ生えたどんぐりの木に登ってみるのが好きだった。
どんぐりの木は「さあ、のぼりなさい」とでも言うようにとても登るのに適した木だった。
幹は、手に触れても痛くなかった。最初に足をかける場所は、木の大きなイボで、次は幹の側面にある穴がいくつか。それから短い枝に足をかけて手を伸ばすと腰かけるのにちょうどいいサイズの枝が一本ある。そこに手をかけてぐいっと一気に体を引き上げてしまう。すると地上からは二メートルくらい。そこから、じゅうたんを眺めると今登ってきたばかりなのに、その柔らかそうな落ち葉の上に足を乗せたくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます