4-2
「もしもし、お嬢さんたち」
夢中になっていた私たちは、二人して肩をびくんと跳ねさせる。
怒られる。
私が、私たちの行為は「取る」ではなく「盗る」だったと気が付いたのはその時だった。
私は、すーちゃんに寄り添った。すーちゃんが私に寄り添ったのかもしれない。
「ごめんなさい」
反射的に、うつむいてすーちゃんが謝る。私も小さい声で、謝った。
頭上でカラスがぎゃーぎゃー鳴いている。
話しかけてきたのは、しわしわのおばあさんで、目がどこにあるのか分らなかった。朱色の色あせたポロシャツに、もんぺを履いて首に老眼鏡をぶら下げている。
おばあさんの口からミチッという音が鳴って、顔の筋肉が動く。私は、ちょっと遅れておばあさんが笑ったのだと気が付いた。
「そんなんじゃあ、柿はとれんよ。ちょっと待ってなさい」
言うとおばあさんは、坂の途中にある小路に入って行った。
取り残された私たちは、怒られなかったどころか、友好的なおばあさんに困惑して呆然と寄り添ったままだった。
しばらくするとおばあさんが、長い竹のようなものを持って戻ってきた。
「柿泥棒っていうのはね、こうやってやるんよ」
その長い竹は、先端にだけ切れ目が15センチほど入っていた。おばあさんはその切れ目に柿の実のついた枝を挟み込むと、くいっと捻った。
すると、枝がぱちっと折れる。おばあさんが竹の先端を引き寄せると、そこには、鮮やかな橙色がぶら下がっていた。
「ほうらね。こうやるんだよ」
つやつやで大きな柿を私に手渡す。あの長い竹も手渡し、やってごらんと私たちを促す。
私たちは、長い竹で苦労しながら柿を泥棒した。
二人で合わせて四つ。一人に二つずつ柿を取ると私たちは、おばあさんに元気よく「ありがとうございました。」と言ってその魔法の竹を返した。
ひゃっひゃっひゃとさっきより高音でおばあさんが笑いながら言う。
「渋柿だけど、また盗りにおいで」
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