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物知りのすーちゃんでも、もちろん『わからん』ことがあった。
例えば、「パンダの置物」。
「小学校へ行く坂」の途中、坂にぴったり寄り添う竹藪がある。
鬱蒼とした竹薮をよくよくみると、細い石の階段があった。竹藪がアーチのようになり、少し暗いミステリアスな小道だ。
私たちは、この石段の小道を「秘密の抜け道」と呼んでいた。
抜け道をどんどん上って行くと、「小学校へ行く坂」の頂上と合流するからだ。
ある日、「秘密の抜け道」の石段を少しのぼったところに、突然、「パンダの置物」が現れた。パンダは、妙にリアルで淀んだ目をしていた。
私たちは声に出しては言わなかったが、ものすごく怖かった。
なぜここにあるのか、私はもちろん、すーちゃんにだってわからなかった。
竹藪にパンダ。
ぴったりな組み合わせは、誰かがパンダの置物を勝手において帰ったというよりも、パンダが、望んで竹薮に現れたような気持ちにさせるのだった。
石段の小道をのぼっていくと、もうひとつ怖いことが待っている。
石段をのぼりきると、さらに少し薄暗い。
茶色い土壁の家が続き、唐突に「それら」が現れる。
「それら」の居る場所は、さらに薄暗くて湿っている。
「それら」は大きな生き物だ。白と黒の。パンダではない。「牛」である。
三頭の牛が私から見て後ろ向きに一列に並んでいる。一頭ずつしきりがあるが暗くてよく見えない。
牛は、本当に不規則に「もおおう」と鳴いた。これは、いつ聞こえるのか分らない音で、私は、いつも、いつその音がしてもいいように構えているのに、牛が「もおおう」と鳴くたびにびくんとした。
少し苛立って牛を睨むのだが、彼らは後ろ向きで、ぴしぴしと自分の尻を叩くひょろんとした尻尾しか見えないのだった。
私たちは、「秘密の抜け道」をいつの間にか「パンダの道」と呼ぶようになった。
「なんで、あのパンダ、あそこにあるんやろう」
「さあ、わからん」
怖いのに、私たちは「パンダの道」を何度も通って帰宅しながら言いあった。
私たちは、そのミステリアスな帰り道を、とても愛していたのだった。
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