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トケイソウを教えてくれたのは、幼稚園から仲の良かった、「すーちゃん」だ。
すーちゃんは、3人の年の離れたお兄さんがいて、とても物知りだった。
私に新しいものを教えてくれるのは、いつも、すーちゃんだった。
私は、反対に一番上のお姉さんで、いつも年の離れた大人たちに囲まれていたけれど、教えられるのは「大人が子どもに覚えてほしいこと」ばかりである。
それはいつも「子どもが覚えたいこと」と、同じとは限らなかった。
「これは、時計草って言うんよ」
「トケイソウ」
すーちゃんが、一緒に学校から帰る坂の途中で、立ち止まって教えてくれた。
坂は、私が小学校に行くには、絶対に通らなくてはいけない坂だった。
私の家の周りは、どこに行くにも坂が伸びていた。
「小学校へ行く坂」
「中学校へ行く坂」
「市営アパートに行く坂」
「田中さんちに上る坂」
私は、トケイソウのある「小学校へ行く坂」が好きだった。
くねくねしているが、秋には落ち葉でいっぱいになるし、春には道の横にある竹藪に筍が生えたし、坂の途中にある小さな空地には、まだ踏まれていない雪がたくさんあったし、夏は、セミの抜け殻がころんと落ちていると得した気分になった。
「時計草は、時計のカタチに似てるから時計草って名前なんよ」
すーちゃんに言われて初めて、私は、トケイソウを「時計草」と変換することができた。
「なんで、時計草なんやろ。草じゃないやんね。時計花じゃダメなんかね」
あの時計草の大胆な美しさは、貧相なイメージの草なんて言葉じゃ荷が重い。花も「華」としたくなるほど。
「なんでやろ」
「わからん」
私たちには、『わからん』がいっぱいあった。
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