6
自分の頭上に聳える空はどこの世界も変わることもなく、壮大で蒼い。
どうして、こんなにも蒼いのだろう。洗濯物を干しながら見上げる空は、悲しくなるくらい偉大だ。瞳子は、シャツを手に持ちながらただ流れ行く雲をただ見つめた。
流されて流されて此処にいる。自分は、ただ拾ってくれたアルフレッドの為に此処にいる。
それでいいのか、と何度となく自身に問いかけたが答えが出なかったのだ。
すると、急に瞳子の後ろから腰に手が伸びてきて、瞳子を捕らえた。
「…へっ?きゃっ!」
「ただいま。トーコ。抱き心地、良い…」
ぎゅっと自身の腰に後ろから何かが抱き付いたのだ。前から見える小さな手からは想像できないほどの力だ。さらに、いきなりだったために瞳子は、少々前に傾いてしまったが踏ん張った。
そして、後ろを見にくいながらも振り返り、下を見る。だが、この位置で抱きつけるの人物は瞳子は一人しか知らないため、予想はついていた。
「びっくりしました…。お帰りなさい、シン君」
「うん。今日、僕、頑張った」
抱きついていた手を離し、瞳子の前に回り込んでニコッと笑ったのは独特の言葉遣いの少年。
瞳子よりは、色素が薄めの灰色に近い黒髪に茶色のクリクリとした瞳。
彼は笑顔がまぶしい、この屋敷の庭師見習いだ。住み込みで庭師になるために頑張っている。
「そうですか。それは良かったですね」
「うん…。早くトーコに、会いたかった。だから、一生懸命、早く帰って、きた」
「まぁ、私(わたくし)にですか?ありがとうございます」
フフッと笑いかけると、シンもまたそれはもう嬉しそうに笑った。
「…いつも、この位に待たせないでくれるとありがたいんですケドネ」
またまた、急に聞こえてきた声のほうに視線を向ける。屋敷の門の方から歩いてくる青年。
絹糸のように真っ白い髪が真っ先に目に付く青年は、自動車の鍵を右手の人差し指でクルクル回して、眉間にシワを寄せていた。青紫色の瞳は鋭くシンを射抜いている。
「今日は得意の植物学しかなかったんですって正直に言えばよろしいのに」
「ベ、ベル…」
「ベルフェゴールさん…。お、お疲れ様です」
シンは、瞳子の背中に回って隠れてしまった。
「本当に。まったくどうして私が子供のお守りみたいなことをしているのでしょう。私はただの運転手ですよね?そうですよね?褒美に、あの馬鹿アルフレッド…じゃなかったアルフレッド様のあの綺麗な顔に一発、パンチをぶち込んでも平気だと思いません?いや、ぐちゃぐちゃになるまで僕は手がとめられないかもしれませんね。まぁ、原型をとどめないほど殴ったら人って死にますけどね。でも、それならそれで一つ重荷が減って気持ちがスカッとするのでいいですけど」
「「…………」」
早口で物凄い事を口走っている。ベルフェの不穏なオーラに2人は圧倒されて、何も言えない。
美しい白髪をサイドで纏めている彼は見るからに王子様だ。しかし、実際はこの屋敷の専属運転手である。所謂、雇われものだ。
見た目は完璧だか、この見事な毒舌を聞いてしまうと人って簡単に信用できないと気付いてしまう。
「ああ、トーコ」
「は、はい」
「君もお疲れ様。まぁ、拾われものだから働かなくちゃいけない義務があるだろうけど」
「!!」
ベルフェゴールはそう言うと、瞳子を一瞥して、踵を返し来た道を帰って行く。
「ちょっと…、ベル…!」
シンは、瞳子への言葉に小さいながら不信感を得たのか、温和な彼が珍しく大きな声でベルフェゴールを呼び止めようとした。しかし、ベルフェゴールの足は止まることはなかった。
TO-KO すばる @tama11
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