預言者探偵ハルロッサ 前編

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――――《Side:Hal》――――


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 鉄製の城門が、ゴリゴリと音を立ててゆっくりと開く。

 それを見た僕たちは、一斉に歓喜の声を上げ、相手が第一段階で屈服したことを喜んだ。


「城門が開いたぞ!」

「普段は偉そうにしている城の連中め、ざまぁみろ!」

「それもこれもハルロッサ様の…………絶対神様のご加護のおかげだ!」


 僕が引き連れてきた群衆も見てビビった城内の連中も、僕が堂々と切った啖呵で渋々話し合いに応じたようだね。

 これでもまだ城門を開けない様なら、それはそれで考えがあったんだけれど、後々の事を考えると穏便に事を進めた方がいいに決まってる。それに僕だって、何もクーデターを起こしたいわけじゃない。だから、統治側と群衆の対立を必要以上にあおるのは、あまり得策じゃないよね。


「みんな! 僕はこれから正々堂々と、母上を取り戻しに行く! 僕は絶対に真実を明らかにして、またみんなの前に戻ってくるよ!」


 そう言って僕は、先頭集団にいる20人を門が閉められないように城門に残し、さらにその後ろにいる群衆にはその場で待つように言い聞かせておく。


「ハルロッサ様、お気をつけて!」

「私たちも、無事をお祈りしています」


 さぁて、これで城内の連中がよほど馬鹿じゃない限り、僕や母さん相手にどうこうすることはできないだろうさ。なにしろ、僕や母さんの身に危害が及べば、外で待つ群衆が一斉になだれ込んでくることは目に見えている。交渉の基本は、まずできる限りの安全の確保から。

 退路、保険、圧力すべてよーし。


「行こうか、みんな」

『はいっ』


 こうして僕は、孤児院の5人の子供と司祭さん、それに元悪党2人だけを引き連れて、謁見の間に歩を進めた。



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 謁見の間には、玉座に座る父親―――――シェルナ伯爵アウグストを中心に、その左右を第一婦人ヨハイーナさんと第三婦人シシリアさん、家宰ロートハウゼン、聖教会司教ケンプフと、なんつーか僕をよろしく思っていないメンバーが勢揃いしている。

 ヨハイーナさんとシシリアさんが僕を嫌うのは、当然といえば当然だ。目立たない味噌っかすだと思っていた次男坊が、急に民衆に媚び始めて人気取りを始めたんだから、自分たちの足元を脅かすんじゃないかと、気が気じゃないんだろうな。

 家宰のロートハウゼンは、どっちかといえば僕がもともと時期後継者候補として、あまりにも頼りないから嫌っていた面がある。こいつはもしかしたら、何か発破をかければこっちの味方に付くかもしれない。

 んでもって聖教会司教のケンプフ。死ね。まぢ死ね。

 そしてその他家臣たちが十数人並ぶ中、謁見の間の中央で母さんと家来2人が、衛兵に取り押さえられている。


「ハル! 無事だったのね!?」

「ハルロッサ様!」

「ああ、安心いたしました!」


「母上、ハルロッサは戻りました。ご心配かけてごめんなさい。ボーリュー、ベルサ、二人とも母上を守ってくれてありがとう」


 リィン母さんの無事を確認出来てよかった。ひどい目にあっていたら、冷静になるのも難しかっただろう。僕は無意識に母さんに抱き着きたい衝動にかられたけれど、ここはぐっと我慢する。

 家来二人はまぁ……正直何もしてなかったとは思うけど、土壇場で裏切らなかっただけでも立派なものだ。


「お久しぶりです父上。お顔を拝見するのは何ヵ月ぶりでしょうか。少々、お痩せになられましたか?」

「………………」

「ハルロッサ! どの面下げてこの場に来た! 伯爵領代々に伝わる宝仗を盗み、その上脱獄するなど言語道断! 絶対神様を信奉する聖教会の司教として、貴様を断罪する! 衛兵、こやつを捕らえよ!」


 何も言わず僕のことをじっと見る父親に対し、ケンプフの野郎はまあ喋ること喋ること。こんな奴にかける言葉は、これで十分だ。


「バカじゃないの」

「なっ!? 貴様、司教である吾輩を侮辱するか!」

「そっちこそ聖職者のくせに、伯爵家の次男である僕を貴様呼ばわりするのね。はー、あほくさ。やめたら聖職者この仕事

「ケンプフ、領主である私を差し置いて勝手な真似をすることは許さぬ」

「ぐぬぬ…………」


 へいへーい、司教どの。いつも見下してる僕にバカにされてどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?


『こんなのが私をあがめる教会の司教だなんて、世も末だわ』


 ほらほら、絶対神様にも呆れられちゃってるよ? どうするどうする?


「ギース! ユージン! あなたたちいったいどこに行ってたの! あなたたちの上司のラングレンが殺されたのよ! まさか本当に私たちを裏切ってはいないでしょうね!? 返答によってはただじゃ置かないわよ!」

「…………」

「…………」

「まあまあヨハイーナさん、そう責めないでください。ラングレンは、僕が絶対神様の啓示を受けたと信じず、絶対神様の命でその魂は冥府に送られました。しかし二人は、僕が絶対神様からの祝福を受けたことに感激し、これまでの罪を償い善良に生きることを誓ったのです」

「はぁ!?」


 いつも厚化粧のくせに、今日はすっぴんで若干老けて見えるヨハイーナさんは、「意味が分からない」といった顔で、あぜんとしてしまう。一方で、顔を青くして、そわそわし始めたシシリアさん。なんともわかりやすい反応してくれるじゃないか。


「さあ、我が盟友たちよ。ここに真実を語り給え」


 そう言って僕は、後ろにたたずむ二人に目で合図した。


(君たちは鳥居強右衛門かはたまたス〇夫か……)


 戸惑い顔を見合わせる二人。

 大丈夫、僕に協力しようがすまいが、手は打ってあるから。ただ、君たちがきちんと自白してくれれば、この後面倒なことにならなくて済むんだ。まあ、ここで最後に忠誠心を発揮してでも主人をかばうのもありだ。君たちの亡骸はきちんと葬って、美談として残してあげるから、安心しなよ。


『遠回しに、裏切ったら殺すって言ってるんじゃない……』


 そりゃそうだ。彼らには言わないけれど、今のところ利用価値はその程度なんだから。僕をひそかに殺そうとした恨みは、まだ忘れていないんだよ。

 さあ、どうなのさ二人とも。



「領主様、申し上げます」

「我らは……ラングレンに命じられ、ハルロッサ様をひそかに殺そうと企てました」


「なっ!?」

『!!??』


 2人の言葉に、その場にいる全員に衝撃が走った。


「ラングレンはある方に命じられ、濡れ衣を着せたハルロッサ様を取り調べと称して殺してしまうつもりでした」

「しかし、絶対神様の祝福を受けたハルロッサ様に諭され、すべての罪を告白いたしました」


 みんな言葉もなく唖然としていたけれど、そこで慌てて動いたのがシシリアさんだった。


「あ……アウグスト様! 私はすべてがわかりました! 宝仗を盗み、ハルロッサに濡れ衣を着せたのはヨハイーナですわ!」

「なっ! なにを言うの!? 私は何も知らないわよ! むしろうちは家臣を殺された被害者なんですけどぉ!」

「よさぬか二人とも」


 話の腰を折って騒ぎ始めた2人を、父親が一括して黙らせる。

 へぇ、普段はあんまりパッとしないかと思っていたけど、やればできるじゃん。


「2人とも、続けて」

「はい。我々は…………ラングレンと共に、ひそかにシシリア様に引き抜きをされていました」

「給料は今まで以上に出すから、シモーネ様とハルロッサ様を追い落とすのに協力せよと」

「我らもラングレンも、金に目がくらんで一も二もなく引き受けました」


「うそよ! 出鱈目よ! こいつらはハルロッサにないことないこと吹き込まれて喋ってるに違いありませんわ!」

「この恩知らずども! 金目当てに寝返るなんて許しがたいわ! 今ここで打ち首にしてやるっ!」

「衛兵、2人を取り押さえよ」


 ヒステリーを起こすヨハイーナさんとシシリアさんを、衛兵たちが取り囲む。

 あっち行ったりこっち行ったり、衛兵も大変だ。


「とまあ、真相はこのような形です。いかがでしょう、信じていただけますか父上」

「う、ううむ…………まさかシシリアが」

「一つよろしいですかな」


 そういって僕の前にふてぶてしく現れたのは、またしてもケンプフの野郎だ。死ねよ。


「くだらない茶番劇です、領主様、だまされてはいけません。この者たちを買収したのはハルロッサ、むしろ貴方ではないのですか? 自分のしでかした罪を他人にかぶせ、あまつさえ家臣まで汚い金で引き抜くとは……やれやれ、同じ人間とは思えない悪辣さですなぁ」


 ………………正真正銘のアホだこいつ。

 いくら僕のことが憎いからって、自分を不利な状況に追い込んでどうすんの?


「どうして僕の言葉が嘘だと思うの?」

「これは呆れましたな。肝心の証拠がありませんぞ。しょ・う・こ! 聞いていれば先程から口から出まかせばかり。ハルロッサが罪を犯していない証拠が一つもありませぬ」

「ほう……言ったな」


 これはチャンスだ。このくそ野郎に大恥をかかせられるまたとない機会。これを逃さない手はないよね。


「じゃあさ、そこまで言うなら僕が犯人だっていう確証があるんだよね」

「当然ですとも!」


 自信満々に答えるケンプフ。その確証っているのは……多分アレの事だろうけど、おもしろいからどんどん乗せてやろう。


「じゃあ、1時間以内に僕が自分の無実を証明できなければ、僕の家の財産、全部あんたにやるよ」

『!!??』


 この言葉に驚いたのは、リィン母さんと家来2人、それに司祭さんだ。


「は……ハルロッサ様! いくらなんでもそれは!」

「まあまあボーリュー、見てなって」

「ほほう……ほほほう…………! しかと聞いたぞ、ハルロッサ。絶対神様に仕える吾輩に、二言は許さぬぞ?」


 普通さ、お貴族様とかって自分が失脚しないように、慎重に事を進めると思うんだ。

 それなのにこの野郎は、見え見えの釣り針にものすごい勢いで引っかかったよ。僕がこんなに自信満々なのに、何も裏付けがないとでも思っているんだろうか?

 まあ、万が一こいつが何かミラクルな手を使って逆転してきたら、最悪内乱を起こしてこの領地を真っ二つに切り裂いてやろう。悪く思うなよ。


「で、もし逆に僕の無実が証明されたら……そっちは何を差し出してくれるの?」

「はぁ? 何を言っているのやら。そのようなことはあり得ない、ゆえにこちらが差し出すものは何もない」

「こう言ってますが、どう思います父上?」

「…………もし、ハルロッサが正しければ、今後はシェルナ領の第一教会は、東教会ではなく南教会とする」

「領主様! そ、それはいくら何でも!」

「ケンプフ、そなたは確証があるのだろう? 何を心配することがある?」

「なるほど、これは一本取られましたな! 確かにその通りです!」


 なるほどそう来たか。

 城下町には、教会が二つある。父親が言う「東教会」はケンプフ司教が牛耳る、由緒正しい教会で、「南教会」は僕の味方の司祭さんのお父さんが、堕落の一途をたどる東教会を出奔して、新しく作った礼拝堂だ。

 一つの街に複数の教会があることは珍しくない。特に人口が多い街だと、地区ごとに分散していることもある。けれども、第一教会というその町の代表的な教会になると、独自の徴税権があったり、統治者からいろいろ便宜を図ってもらえたりするから、それ以下の教会とは大きく隔たりがあるわけだ。

 そもそもケンプフ司教が、僕を憎んでいる理由は、大体ここにあるといってもいい。

 何しろ僕の家は、財産の寄付をすべて南教会にしているから、このくそ野郎の懐に一銭も入らないからね。


「決定だね。じゃあ今から、もう一人証人を呼ぶから。おーい、アイゼンシュタイン、出番だよー!」


「承知仕りましたぁ!」


 仕上げは上々! さあ、満を持して切り札の登場だ!



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