第8話 振り出しに戻る
彼と別れを告げた翌日、私はもう連絡をとらないと決めていた。
不倫も浮気ももうしない、できないと思っていた。
かといって、以前のように夫を愛せない。
体調や忙しさを理由に、セックスを拒むようになっていた。
日課だったオナニーもしなくなっていた。
夫とするセックスも、オナニーも、全く感じなくなってしまった。
彼としか、したくない。
彼としか、できない体になっていた。
最後に彼に抱かれたままの体でいたかった。
バカな話だけれど、貞操を守る淑女のような気持ちだった。
男は女の最初になりたがり
女は男の最後になりたがる
私にとって彼は、まさに最初の人だった。
彼に想いを馳せていたとき、メールがきた。
彼だった。
どうしよう、という気持ちと裏腹に、指が画面をスクロールし、返信してしまう。
もう連絡をとらないと決意したのはなんだったのか、一瞬で決意は翻った。
彼が転勤したのと入れ替えに、夫も単身赴任を終えて帰ってきた。
元の家族の形に戻ったのに、私にはそれが煩わしかった。
それでも、当たり前だけれど家事やパートや育児の手は抜かなかった。
「逢いたい」
たった一言のメールが来た。
もう、だめだった。
限界だった。
声が聞きたい
笑顔が見たい
触れ合いたい
あいたい
逢いたい
彼の転勤先へは、電車で数時間。
乗り換えもある。
私は、今まで一人で電車に乗ったことがなかった。
切符の買い方も、何番線に乗るのかも、乗り換えの仕方も、何も知らない。
でも、それでも逢いにいこうと決めた。
夫に、友達に会いに行きたいとお願いし、彼と日程の都合を合わせ、電車の乗り方を調べ、その日が来るまで毎日連絡を取り合った。
当日、彼と連絡を取り合いながら彼がいる町の最寄り駅までなんとかたどり着いた。
改札を抜けると、そこには彼がいた。
逢えたらまず、逢いたかった!って言おうと決めていた私の口から出た言葉は
「遠いわ!」
だった。
なんて可愛いげがないんだろうか。
そんな私を見て、彼は笑顔で
「でも、来れたね。待ってたよ」
そう言って私の荷物を持ち、もう片方の手で私の手をとった。
いつだって彼はそうだ。
年上だからなのか、余裕たっぷりで、私を眺めてわらっている。
逢えた嬉しさも、恥ずかしさも、緊張しているのも全部お見通し。
彼の部屋はシンプルだった。
部屋に入ると、彼が抱き締めてくれた。
彼のぬくもり。
彼のにおい。
たった数ヵ月しか離れてないのに、すごく久しぶりで懐かしくて、涙があふれた。
「またそうやって泣くー(笑)せっかく逢えたのに」
逢えた。
やっと、逢えた。
また、逢えた。
それが嬉しくて、嬉しくて、仕方なかった。
久しぶりの彼とのセックスは、最高だった。
出るのは喘ぎ声だけ、お互いの体全部を、本能のまま、動物みたいに貪りあった。
食事やデートに出るとき以外は、ずっとセックスしていた。
最終日には、彼はタマが痛いと言っていたし、私もアソコがヒリヒリしていた。
体が筋肉痛になっていて、バカみたいだねって笑うと体に響いた。
帰宅する日の朝、彼が私にくれたものがある。
ひとつは、部屋の合鍵
もうひとつは、彼が相棒と呼ぶほど大切に毎日着けているブレスレット
私は驚いて、
「次いつ逢えるか分からないし、これは貴方が大切にしてるものだから貰えない、気持ちだけで嬉しいよ」
そう伝えた。
彼は
「もう逢えないと思っていたけどまた逢えた、だからまたすぐ逢える気がする。ブレスレットは、俺の代わりだから。貸すだけだから、返しにきて。鍵は、合鍵これだけだから。君にあげたいから。」
そう言って、ブレスレットを着けてくれた。
あのとき貸してもらったブレスレットは、7年たった今も借りたまま…(笑)
結局私のW不倫は、遠距離恋愛ならぬ遠距離W不倫として、振り出しに戻った
どんな御託を並べても @This-is-Me
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